第18話 花、囁き、破滅

閲覧注意:グロテスクな描写を含みます


大変申し訳ありません。体調不良などの事情により、新しいエピソードを投稿するまでに7日ほどかかってしまいました。

そして今回のエピソードには、一部の読者の方にはかなり暴力的・残酷と感じられる描写が含まれております。

このような描写が苦手な方は、どうか無理をなさらず、該当部分を読み飛ばす、あるいはスキップすることをおすすめいたします。

これからも応援していただけると嬉しいです。


その生き物は、恐ろしい形相とは不釣り合いな仕草で、ゆっくりと小さくて可愛らしいピンクの花をトーマの頭に置き、髪に挿した。




彼女は身の毛もよだつ笑みを浮かべる。



彼女の声は、魂を切り裂く刃のような囁きだ。



「死んで、あたしを楽しませて……

 つまらない獲物は……一番惨めに死ぬわ」



武将の目は見開かれ、鼻孔の下には血がこびりつき、頬に塗りたくられていた。




恐怖が、むき出しの、本能的な恐怖が、彼の喉を締め付けた。彼は身を翻し、必死の唸り声を上げながら逃げ出した。




重いブーツが腐った石畳を叩きつけ、狂った逃避のリズムを刻む。




彼の背後では、残された5人の貴族たちが、恐怖の仮面を顔に貼り付けたまま、凍り付いたように立ち尽くし、震え、瓦礫と血の霧に足を取られていた。




そのうちの2人がつまずき、血でぬかるんだ地面に倒れ込んだ。




彼らの視線は、大きく、狂ったように、トーマに釘付けになった。グロテスクな変貌が始まった。




肉が波打ち、骨がうめき、手足が怪物のように伸びていく。2人が変異し始める――骨がねじれ、顔が引き伸ばされる――




喉の奥から絞り出すような叫び声が、夜の帳を引き裂くかのように、トーマの背後にいる生き物から発せられた。


その生き物は叫ぶ。




それは変身しつつある2人の貴族に襲い掛かった。




彼らの体は、変身の途中で崩れ落ちた。純粋でむき出しの力の衝撃波が彼らに叩きつけられた。




彼らの目は眼窩から飛び出した。生々しく、吐き気を催すような音。




彼らの叫び声は、肉が骨から剥がれ落ち、蝋のように溶けていくにつれて、窒息した。




肉が飛び散り、血なまぐさい花火のように、古代の石を深紅に染め上げた。




バシャッ—ギギッ—ザザーッ。




小さな、粉々になった骨だけが残り、ドロドロの内臓の残骸の中に散らばっていた。




武将の息は、荒く途切れ途切れになった。




頭上の血のように赤い月が、悪意に満ちた眼のように振動し、その表面には凍てついた稲妻のように亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていた。




「ア、アグニヴォーラ!! 助けてくれ!!」




彼は悲鳴を上げた。彼の声は嗄れ、必死で、路地を駆け下りた。




トーマの笑い声は、凍てついた涙で作られた風鈴のような音で、島の狭い通りに響き渡った。




それは彼の背筋を凍らせ、どんな刃よりも深く突き刺さる冷たい恐怖を呼び起こした。




「もっと大声で呼んで」




彼女は一歩踏み出す。



彼女の目が光る。



それぞれの目に宿るのは。




三本の爪痕が刻まれた三日月――

純粋な悪意から削り出された月。




「彼女はここには来られない」




残された貴族たちは、恐怖に怯えながら、倒れた仲間たちの血なまぐさい残骸の上を滑り、転んだ。




かつて生きた召使を貪り食っていた彼らは、今やかつて消費した内臓そのものから身を引いた。




ある貴族の足が、ぶら下がっている小腸の切れ端を踏んだ。彼は血と骨の粥のプールに顔面から突っ込み、吐き気を催した。




他の者たちは、必死になって互いを押し合い、武将よりも先に行こうとし、彼を盾にしようとした。



「て、てめえら!」




武将は言葉を詰まらせながら、よろめきながら立ち上がった。




臓物の濡れた音、必死の足音、そしてトーマの生き物の低く飢えた唸り声が空気を満たした。




トーマはゆっくりと、ほとんど気だるそうに歩みを進めた。




彼女の猫の尻尾は、滑らかな影の鞭のように、左右に揺れ、死神の振り子のように揺れた。




彼女の目は、今や狂おしいほど濃い深紅に染まり、輝いていた。




柔らかく、子供じみたメロディー、無邪気でありながら、完全に恐ろしいハミングが彼女の唇から漂ってきた。




彼女の背後にいる生き物は、巨大な頭を下げ、その動きは彼女の動きを反映していた。




濃くてシロップのような血が、その牙から滴り落ちていた。




トーマは首を傾げ、無邪気な好奇心の塊だった。



「逃げて~逃げて~逃げて~小さなスナック」




彼女の声は、3つの異なる、身の毛もよだつ音色のコーラスで、彼らの正気を蝕んだ。




ある貴族が壁に叩きつけられた。いや、壁ではない。巨大で瞬きをしない眼球が、レンガ造りの壁に開いた。




それは一度、ゆっくりと瞬きをした。そして、壁全体が裂け、ギザギザの骨の破片が並んだ垂直の顎が現れた。




それは貴族を丸ごと、足から飲み込んだ。彼の足は激しく蹴り上げられ、見えない力に対して狂ったように踊った。




バキッ—バキッ—ボキッ!




彼らは静止した。




トーマは指をくるくると回した。




口は彼の半消化された体を吐き出した。それは、捨てられたゴミのように、ドロドロの塊だった。




ある貴族は、息を呑むほどの恐怖に目を大きく見開き、近くの路地に駆け込んだ。




彼は息を切らし、肺が焼けるように痛んだ。



影が彼の上に落ちた。



彼は見上げた。




トーマは、壊れたバルコニーの手すりから逆さまにぶら下がり、蜘蛛のように爪を石に食い込ませて、ニヤリと笑った。




彼女の笑顔は、大きく、不自然で、背後にいる生き物の笑顔を映し出していた。



「いないいないばあ」




彼女の爪が飛び出し、彼の口を貫き、鋭い先端が頭の後ろから突き出た。彼の目はひっくり返った。




彼女は彼の頭を掴み、グロテスクなトロフィーのように持ち上げ、壁に叩きつけた。




彼の体は、吐き気を催すような力でぶつかった。手足は引き裂かれ、壊れたおもちゃのように飛び散った。




血が飛び散り、古代の石に深紅の扇を描いた。




別の貴族が悲鳴を上げた。むき出しの、本能的な恐怖の音。




「出してくれ!! 死にたくない――」




彼の目の前の地面が波打ち、波のように盛り上がった。




それはグロテスクな背骨の形になり、その肋骨は針のように鋭かった。




それは彼を包み込み、生きた檻となった。彼が再び叫ぶ前に




シュッ! シュッ! シュッ!




肋骨が締め付けられた。それらは彼の肺、胃、心臓を貫いた。




血が隙間から噴き出し、不気味な噴水となった。トーマは軽く手を叩き、子供のような喜びをその目に宿した。




「すぐに弾けちゃった!」




肋骨の檻が内側に押しつぶされた。




バキィッ!




貴族は赤く、認識できないペースト状になった。




残された貴族は2人だけで、必死の逃避行の末に、崩れた祠にたどり着いた。




松明がちらつき、踊る影を落とした。空気は、拷問された魂の囁きで震えていた。




2人の貴族は、恐怖からではなく、目に見えない圧力から凍り付いた。




彼らの皮膚は引き締まり、血管が膨れ上がり、肉の下に太いロープが走った。




彼らの指は必死に顔を引っ掻いた。




彼らはまっすぐに立ち、硬直し、腕をだらりと下げ、目を大きく見開いて瞬きもしなかった。




彼らの血は、鮮やかで赤く、皮膚から染み出し、深紅の絹糸のように立ち上った。




彼らは持ち上げられた。目に見えない糸に操られた操り人形のように。




トーマは微笑み、薄暗い光の中で猫の牙を光らせた。



「あたしの為に踊って」




彼らの体は激しく痙攣した。腕は後ろにねじれた。頭が回転し、吐き気を催すほどぼやけた。




骨は乾いた、ひび割れた音を立てて折れた。





ある貴族の背骨が喉から突き出し、グロテスクな槍となった。





もう一人の貴族の腕は、骨が皮膚を突き破るまでねじれ、深紅の背景に白い枝が伸びた。



ついに――



バキィッ!




血の糸が彼らの頭を首からきれいに引き離し、不気味な提灯のように空中に吊るした。




圧力が強まり、彼らの体を握りつぶし、握りこぶし大の肉の立方体にした。




武将は一人、月明かりの差し込む中庭にたどり着いた。




彼は崩れ落ち、息を切らし、体は震えに襲われた。軽くて慎重な足音が近づいてきた。




トーマは月明かりの中に足を踏み入れた。柔らかいピンクの花はまだ彼女の髪の中で輝いていた。




血が彼女の顔を汚し、不気味な戦化粧となっていた。




彼女の笑顔は広がりすぎ、鋭すぎた。




「ま、待ってくれ!!」




武将はどもり、必死に懇願した。




「わ、我々はあなたに仕える!! 跪く!! 何でもする!! だから――やめてくれ」




トーマは立ち止まり、首を傾げた。彼女の背後にいる生き物も同じ仕草をし、静かで怪物のようなエコーを響かせた。




彼女はゆっくりと瞬きをし、そして星々の間の虚空のように冷たい笑いが彼女の唇から漏れた。



「我々?」




彼女は尋ねた。彼女の声は身の毛もよだつ囁きだった。




「誰が……我々なの?」




武将の目は見開かれた。悟りが彼を襲った。



誰もが生きていない。



彼は一人ぼっちだ。



彼の血は冷たくなった。




彼は血なまぐさい地面に崩れ落ち、すすり泣いた。



「お、お願いだ……」




トーマは彼を通り過ぎ、視線は見えない何かに固定されていた。生き物もまた、彼を無視し、その巨大な姿は静かな、通り過ぎる影だった。




「懇願はつまらない」



武将の喉から悲鳴が上がった。




「アグニヴォーラ!! 私はあなたに仕えた!! あなたのために殺した!! 見捨てないでくれ――!!」




トーマは歩みを進め、その動きは慎重だった。




武将は震え、哀れで震える塊となった。




「い、いやだ……いやだいやだいやだ――」




トーマの声は、死そのものよりも冷たい囁きに変わった。




「あなたは私のマスターを傷つけた」




彼女の周りの地面の血が立ち上り、深紅の触手が伸び、掴みかかった。




「私の領域に許しはない」




黒い霧が噴出し、渦を巻き、すべてを飲み込んだ。



トーマは消えた。



武将の目は、漆黒の闇の中を狂ったようにさまよった。




ちらつき、影が彼の横を通り過ぎた。彼は下を見るまでそれに気づかなかった。




彼の片手はなくなっていた。切り株から血が噴き出した。




悲鳴が彼の喉から上がった。何かが再び動き、動きがぼやけた。




彼の足もきれいに切断され、地面に落ちた。彼は崩れ落ち、悲鳴を上げ、激痛が真っ白な炎となった。




彼のもう片方の足もなくなっていた。




彼はそこに横たわり、手足がバラバラになり、周りに広がるグロテスクな血の海を見つめていた。




霧は現れたのと同じくらい早く消えた。トーマは彼の後ろに立っていた。彼女の動きは稲妻のように速かった。




彼女の猫の爪は、剃刀のように鋭く、彼の腹部に突き刺さった。




彼女は彼を殺さずに、腸を引きずり出し、脈打ち、生きたままにした。




彼女はそれらを紐のように使い、彼の首に巻き付けた。




彼は悲鳴を上げた。想像を絶する苦痛の、むき出しの、喉の奥から絞り出すような音。彼女は腸をねじった。脈打つ、グロテスクな心臓はまだ彼の体の外で鼓動していた。



締まる。


締まる。



彼は激しく痙攣する。




武将は痙攣し、体が痙攣し、ゆっくりと、苦しみながら死んでいった。トーマは一歩下がり、その顔は穏やかだった。




聞き覚えのある声が、彼女の心に響いた。



「トーマ……」




彼女の目は見開かれた。邪悪で復讐心に満ちた輝き、爪痕のある三日月が消えた。




「ま、マスター?」



彼女の目は涙でいっぱいになった。それはカフカの楽しそうな声で、彼女が覚えていた通りの声だった。



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