第4話 絶縁剣、試験を超える。

 会場を出た直後、三人は立ち止まった。

 夏は、皐月の羽衣をじっと見る。

「さっきの女の人が羽衣は共鳴し合うって言ってたけど、具体的にはどうなるんだろう?」

 皐月は、羽衣に触れる。

「分かんない。私も初耳で、こんな状況になったこともないし」

「そうだよね。どうなるのかが分かれば、簡単なんだけどな」

 青菜は、皐月の羽衣に触れて何かを考えている。

「共鳴し合うって、例えば羽衣が光るとかかな?」

「さすが、ラノベばっかり読んでるやつは、そういうのを思いつくのが早いな」

「バカにしないでよ。そういう夏は何か思いついたの?」

「何にも」

「じゃあ、私のことバカにできないよ。案すら出してないんだから」

「ごもっとも」

「夏なんかより、共鳴というのがどういうものかは分からないと、制限時間内に間に合わなさそうだよね」

「っておい。ひどいな」

「はいはい。それで皐月どう? 何か感じたり思いついたりしない?」

「ごめん。何も分かんない」

「そうだよね。無理言ってごめんね」

「大丈夫」

 夏は、腕を組んで真剣な顔をする。

「ということは、詰んでるな。二時間じゃ無理だし、かと言って自力で探すにはあまりにも無謀すぎる」

 三人は立ち止まって考える。

 すると、三人の目の前にフードを被った男が現れた。その男は、このモノクロの世界で色がついている。顔はフードの中で、全く見えない。

 男は、皐月の身につけている羽衣を右の人差し指で指す。

「その羽衣を脱いで華と同じことをしろ」

 皐月は、不思議そうに羽衣に手をかけて、脱いだ。

「華と同じことってことは、つまりこういうこと?」

 皐月は華と同様、羽衣を空中に浮遊させる。男は、首を上に動かしてその羽衣をじっと見ているような様子を見せる。

「これから羽衣同士が共鳴する」

 男は、そうボソッと呟いた後、どこかへ歩いて消えていってしまった。

 夏は、空中に浮いている羽衣を見ながら慌てる。

「どういうこと? あの男は誰なんだ? 皐月の知り合い?」

「私、あんな人知らない。今日初めて会った」

 青菜は、冷静な顔で羽衣を見ている。

「夏。落ち着いて。ほら、羽衣がどこかへ行こうとしてるよ。きっと私たちが探してる羽衣の場所まで案内してくれるんじゃない?」

「本当だ。どこかへ行こうとしてる。まさかこれが羽衣の共鳴なのか?」

「うん。そうみたい」

 青菜は、不安そうな顔をしている皐月の手を優しく握る。

「大丈夫? 行こ」

「うん。ありがとう」

 三人は、羽衣を追いかけながら必死にどこかへと向かって行く。


 街中の全ての物や生物などがモノクロになっていて、動きが停止している。自由に動けているのは、夏たちだけだ。

 羽衣は、そんなモノクロな空中を止まることなく進み続け、突然ある場所の上空でピタリと止まった。そこは、夏と青菜、友樹が通っている名古屋西高校だった。

 皐月は、ヒラヒラと落ちてくる羽衣を両手で受け止める。

「これが共鳴」

 皐月は、羽衣を身にまとう。夏と青菜に目線を合わせて、全員で学校内へと入っていく。


 三人は、学校の廊下を歩いている。

 青菜は、周囲をキョロキョロする。

「なんか全部色がないと、お化けも出なさそうな気がするけど、どこか不気味だよね。夏は怖くないの? 心霊系苦手でしょ?」

「苦手じゃないし」

「強がっちゃって。昔、二人でホラー系の映画見に行った時、入室する前から映画館でビビりまくってたじゃん」

「そんなことないし」

 夏は、歩くスピードを上げる。

「もー、夏ー! もうちょっとゆっくり歩いてよ。ほんと未だに小学生みたいなんだから。少しは心も大人になって欲しい」

「僕は十分大人だ」

「どこがだよ。心もって言いました! 大人なのは肉体だけですー!」

「そうかよ」

 夏は、暑くスピードを下げて青菜と皐月の横くらいの位置に戻る。皐月は、その二人の様子を見て、楽しそうにニコッとする。

 夏は、不思議そうに皐月のことを見る。

「どうしたの? そんなに笑顔で」

「いや。二人のことを見てると、不安もなくなりそう。面白いよ」

「僕ら、漫才やってるわけじゃないよ」

「分かってるよ。なんていうか、雰囲気が明るくなった気がする。それが私とって安心に繋がってる」

「まあ、不安が少しでもなくなることはいいことだよね」

「そうだね」

 青菜は、ニヤッと笑う。

「夏に関しては、もうちょっと将来に不安を感じた方がいいと思うんだけどなー」

「うるさい。僕は、十分不安に感じてる。だから大学に行くことを決めたんだよ」

 皐月は、気まずそうな顔をする。

「じゃあ、なんで理系じゃなくて文系なの?」

「・・・・・・」

「そっか」

 青菜は、突き当たりにある空き教室を指差す。

「見て! なんかあの教室ピンク色に光ってるよ。明らかにあそこ怪しいよ」

 青菜は、そう言って、皐月の手を握る。夏が先頭に立ってその空き教室の扉をゆっくりと開いた。

 夏は、そのまま立ち止まる。皐月と青菜は、夏の背中から不思議がるように教室内を覗く。

 夏は、教室の中にある羽衣に見入っている。

「綺麗だ」

 教室自体の様子は、いたって普通だ。しかし、そこにある羽衣がとても神秘的なように見える。窓が一つ開いていてそこからやや風が通っている。その風が、椅子にかかっているピンク色で、透明な羽衣をなびかせている。ただそれだけの光景なのに、なぜか視線と意識が奪われていく。

 夏は、振り返って青菜と皐月のことを見る。

「きっとあれだ。時間的にはまだ大丈夫だよね?」

 青菜は、スマホを取り出して時間を確認する。スタート時から、時刻は、一時間経過していた。

「全然余裕だよ。まだ一時間くらいしか経ってない」

「なら、大丈夫か。今から会場に戻るとしても三十分くらいあれば着くね」

「うん。大丈夫」

 皐月は、夏をどけて中に入る。

「私が取ってくる」

 夏と青菜は、自ら羽衣に向かっていく皐月を止めずに見守っている。

 椅子にかかっている羽衣と、皐月が着用している羽衣がピンク色に輝く。その光は、お互いが近づくにつれて、どんどん鮮やかになっていく。共鳴しているのだ。

 皐月は、椅子にかかった羽衣を手に取る。そのまま、夏と青菜の元へと戻ってきた。

 青菜は、心配そうな表情をする。

「大丈夫? なんともない?」

「大丈夫。ほら、取ってきた」

 皐月は、夏と青菜に右手に持っている羽衣を見せる。まじかで見てもその光り輝く様子は美しいの一言だ。

 夏は、ニコッと笑う。

「これでクリアだね。急いで戻ろう!」

 三人は、早々と学校を後にした。


 スタート時から一時間半ごろ。

 夏たちは、学校から同窓会会場まで走ってきて、すで到着していた。

 夏は、入り口のドアを開けて、会場に再び入室する。

「待たせたな」

 華は、にこやかに皐月のことを見る。

「早いじゃないか。さすが皐月だね。少しだけど、力を取り戻しているじゃないか!」

 皐月は、怯える表情をしながらゆっくりと、見つけてきた羽衣を華に見せる。

「これで満足?」

「いや、まだ満足には少し足りない。今日、これで引き下がるわけにはいかない」

「どうして?」

「私は、皐月、あなたをいるべき場所に返すという最終的な目的がある。そのためにはまだ物足りない」

「いるべき場所?」

「そうさ。私たちと同じ・・・・・・っ!?」

 華の体が徐々に透けてきている。

「どうしたの?」

「もうそろそろ時間のようだ。天女には、地上にいられる時間が決まっていてね。だけど、もう一つやっておきたい」

「なにをするつもり?」

 華は、右手に持っている剣を停止している友樹に向ける。夏は、とっさに一歩前へと右足を動かす。

「!?」

「動くな!」

 華は、夏をにらめつけてそう叫んだ。

「今から友樹に何をするつもりだ!」

「慌てるな。この剣は絶縁剣と言って、人や天女、生物を殺めるためのものではない。絶縁剣の能力は、物や生物、あるいは天女、ありとあらゆるものに存在する繋がりである『縁』を断ち切るというものだ。だから、殺しはしない。安心しろ」

 華は、絶縁剣を友樹の頭上から勢いよく振り下ろす。

「!?」

 夏たちは、立ち止まったままその光景に驚いている。絶縁剣は、友樹を貫通していた。本人に剣身が当たっているわけではなく、まるで剣が透明になっていて存在していないかのように、頭から足へとすり抜けている。

 華は、剣先を皐月に向ける。

「今、天女とこの男の縁を絶った。この男は、二度と皐月のことを思い出すことはないし、加えて、皐月のことが見えなくなっている」

「まさかそんな風に私のパパとママにもやったの?」

「そうだ。一番初めにやって力が十分にあった。だから、記憶と肉眼での認識の両方を絶つことができた」

 夏は、怒った表情をする。

「それで? なんで友樹との縁を今ここで絶ったんだ?」

「言っただろ。もう一つやっておきたいと」

「何を?」

 華は、皐月のことを見る。

「さあ、皐月。今こそ天女の力を使う時だ」

「天女の力?」

「そう。縁繋ぎだ。そうすることで皐月とこの男の絶たれた縁をもう一度繋ぐことができる」

「どうやるの?」

「簡単だよ。目を閉じて絶たれた糸のようなものを心で感じるんだ。それを意識だけで繋げる。やってみな」

 皐月は、目を閉じる。

「・・・・・・」

 青菜は、心配そうな目で皐月のことを見ている。

「皐月。本当にあの人の言うことを信用していいの? 何かよからぬことを考えてるかもしれないよ。例えば、別に目的があるとか」

「大丈夫。これが成功したら、パパとママにもできるかもだし、青菜と夏の記憶も完全に戻せるかもしれないんだよ」

「それはそうかもしれないけど、危険だよ。あの人の言うことを素直にやるのは」

「心配してくれてありがとう。でも、私はやりたい。たとえ、そこに危険があったとしても」

 皐月の顔からは真剣さが伝わってくる。

「お願い。繋がって」

 数秒後、皐月の身につけている羽衣が光り輝いた。

 華は、ニヤッとした笑顔でその光景を見ている。

「そうだ、皐月。これこそ天女の力だ」

 しばらくして、羽衣の光は収まった。縁繋ぎは一瞬で、肉眼ではこの間何が起こったのかよく分からない。見えたのは、ただ羽衣が光っていただけだ。

 皐月は、目を開いてふらっと倒れそうになる。

「皐月!」

 青菜は、倒れそうになった皐月の体を支える。皐月は、相当疲れた表情をしていた。

「ごめん。ちょっと頑張りすぎちゃったみたい」

「無理しすぎだよ」

「ありがとう」

「これで縁繋ぎは終わったの?」

「うん。無事終わったと思う。私も何が起こったのかよく分かってないけどね」

「でも、無事終わったなら良かったよ。帰ったらゆっくり休も?」

「うん」

 夏は、華のことを睨む。

「終わったっぽいけど、あんたはいつになったら消えるの?」

「もう消える」

 華の体はほとんど透明になっており、いつ消えてもおかしくないほどだ。

「あんたが消えれば、モノクロの世界は元通りになるのか?」

「なるよ」

「分かった。あと、一つ聞きたいことがある」

「なに? 君に答える必要がないものは答えないけど」

「皐月は、天女なのか?」

 華は、ふっと笑う。

「そうだ。天女だ。私と同じでね」

「じゃあ、なぜ皐月は消えないし、皐月がいても世界の状態がモノクロにならないんだ?」

「最後まで皐月と関わり続けるのならいつか知ることになる。わざわざ君に教えてやるほど、私はお人好しではない」

「そうですか」

 華は、皐月のことを穏やかな目で見る。

「いつか、皐月が元の、私たちが知る皐月に戻ってくれることを待ってる」

 華は、そう言い残して完全に消えていった。

 夏は、ふーっと息を吹く。

「終わったね。みんな無事で良かったよ」

 青菜は、皐月を支えながら二人で出口まで歩く。

「夏ー。皐月の体は結構消耗してるっぽいから早く家まで帰ろう。夏も手伝って」

「分かった・・・・・・・・・・・・ちょっと待って」

「どうしたの?」

「世界が、モノクロのままなんだけど」

 青菜は、周囲を見渡す。

「本当だ。あれ? 華って人が消えたら戻るんじゃないかったっけ?」

「華って人もそう言ってたよね」

「そうだよね。じゃあ、なんで元に戻らないんだろう?」

 どこからかコツンコツンと、足音が聞こえる。

「大丈夫。戻るさ」

 男性の声が響いた。

 夏は、声のした方向へと視線を移す。そこには、スーツ姿のすらっとした男性が立っていた。

「誰ですか?」

「確か初手、華に対してもそういう聞き方だったね。もうちょっと敵対心を減らして欲しいものだな。怖いぞ」

「それで僕たちになんの用ですか?」

「無視かい」

「質問に答えてください」

「はいはい。俺はね、君たちと話したかったんだよ」

「話したかった?」

「ああ、そうだ。そのために今、無理やり、モノクロの世界のまま止めてる」

「だから元に戻らなかったんですか?」

「そうだ。まあ、まず自己紹介といこうか。俺の名前は、柳沼健太だ。よろしく」

「よろしくお願いします。僕の名前は」

「あ、いいよ。知ってるから言わなくて」

「なんで知ってるんですか? 怖いです」

「怖がらないでよ。俺は一応、君たちの味方なんだから」

「本当に味方ですか? なんか怪しさ満点ですけど」

「本当だよ。現に君たちを助けたじゃないか」

「助けた? 今、初めて会ったばかりですよね」

「ほら、羽衣を探しに行く時に会ったフードの男、覚えてない?」

「フードの男?」

 青菜は、何かを思い出した表情をする。

「あの時は、ありがとうございました」

「いいよ。青菜ちゃんは礼儀正しいんだね」

「いえ、当然です」

「誰かとは違うね」

 夏は、ムッとした表情を顔に浮かべる。

「誰のこと言ってるんですか?」

「ごめん、ごめん。冗談だよ」

「助けてくれたことには感謝しますが、何が目的なんですか? 華って人と同じで皐月をどこかに連れて行こうとしてるんじゃ」

「違うよ。むしろ、その逆だ」

 華と同じように健太の体がどんどん透けてきている。

「え? 体が、透けてる」

 健太は、呆れた表情をする。

「やっぱりこの体質は不便だね。なかなか君たちと落ち着いて話す時間ができない」

「あなたも天女なんですか?」

「俺は正真正銘、男だよ」

「じゃあ、なぜ」

「俺は、かつて同級生の女の子を助けられなかった情けない男だ」

「それってどういう・・・・・・」

「もう時間がきたみたいだ。また会いに行くよ。今日のところはこれでおしまい」

「え、まだ聞きたいことが」

 健太は、静かに消えていってしまった。それと同時に周囲は突然動き出し、色も元通りになった。

 青菜は、驚いた顔をする。

「本当に元に戻った。まるで夢を見ていたみたい」

 青菜は、皐月を支えながら再び歩く。

「夏ー! 帰るよー」

「分かってるー! 今行く!」

 三人は、始まって間もなくて、ガヤガヤしている同窓会を抜け出して家へと帰った。

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