指先の温もり
夕凪あゆ
第1話
あなたの手を見つめていると、
世界が少しだけ優しくなる。
その指先は、誰かを守るためにできたみたいで、
触れるものすべてを、やわらかく包みこむ。
言葉より先に、
その温度が心に届く。
優しい声も、穏やかな目も、
全部、あなたという温もりだから。
会話の隙間に流れる空気が、
ほんの少しだけ熱を帯びていく。
その熱が、
私の胸の奥にゆっくりと滲み込んで、
呼吸をするたび、あなたで満たされていく。
ねえ、抱きしめたい。
ただ、それだけ。
理由も言葉もいらない。
触れた瞬間に、
きっと全てが溶けていくから。
あなたの肩のあたりに顔をうずめて、
心臓の音を確かめたい。
生きていることを、
あなたのぬくもりで実感したい。
けれど、その一歩を踏み出せない。
あなたの優しさを壊したくないから。
その笑顔は、
君が誰かから貰った優しさだって知っているから。
だから私は、この距離を保ったまま、
あなたの熱を思い出すように、
君との記憶を抱きしめる。
夜、眠る前。
瞼の裏に浮かぶあなたの横顔に、
手を伸ばす。
空気は冷たいのに、
心だけがあたたかい。
それが、あなたのせいだと知っている。
いつか、本当に願いが通じる日が来るのなら。
その瞬間、
私の世界は静かに完結して、終わるんだろう。
それまでは、
この心の中で、あなたと……。
指先の温もり 夕凪あゆ @Ayu1030
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