第4話 「恋の苦さと本気の告白」

 文化祭の片づけが終わったあと。


 夕焼けの下、陽翔は美羽を呼び止めた。


 「朝倉さん、ちょっと……だけ、いい?」


 「うん?」


 「……あのさ、今日のマフィン、本当は、ちょっとだけ、特別だったんだ」


 「うん、すごくおいしかったよ。ありがとう」


 「いや、そうじゃなくて。えっと、その」


 陽翔は一瞬だけ視線をそらして、深呼吸してから、真っ直ぐに見つめた。


 「俺さ、最初はただ“すごい”って言われてうれしくて、渡しただけだったんだけど……今はもう、それだけじゃなくて」


 「え?」


 「また一緒に作りたいって思ったのも、特別なマフィンにしたのも、全部……」


 「……好きだから、だと思う」


美羽はびっくりした顔で、何も言わずに立っていた。


 風が、ふたりの間を通りすぎたあと――


 「……そっか」


 彼女はほんの少しだけ笑った。


 「じゃあ、次は――マフィンじゃなくて、クッキーね」


 「え?」


 「そのとき、答え言うよ。ちゃんと作って。神谷先生」



日曜日の午後。

 陽翔は、キッチンのテーブルに向かって立っていた。


 広げたノートには、美羽と作ったマフィンのメモ。

 その隣に、新しく書いたレシピの試作案が並んでいる。


 「メッセージ入りチョコサンドクッキー」


 味だけじゃない。

 今回は、言葉も入れる。


 ありがとう、とか、また作ろう、とか、そんなのじゃなくて――


 「……好き、って書けるか?」


 自分でつぶやいて、照れくさくて笑ってしまう。


 「いや、ないな……」


 でも、書かなきゃ、伝わらない気もしていた。



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