第2話「クッキーがつなぐ、はじめての約束」

次の日の昼休み、美羽はお弁当のフタをそっと閉じると、机の引き出しから昨日もらったクッキーのタッパーを出した。


 ひと口かじると、サクッという音といっしょに、ほんのり香る紅茶の風味が広がる。


 「……なんでこんなに、ちゃんとしてるの」


 思わず笑ってしまう。

 見た目も味も、売ってるものみたいに整っている。なのに、どこかやさしい。


 ――たぶん、人柄が出るんだろうな。

 やさしくて、真面目で、少し焦りがちで。…でも、ちゃんと伝えようとしてくれる。


 (なんか、悪いな。私、ああいうの、慣れてないのに)


 美羽は、軽く息を吐いた。

 でも、どこか悪くない気分だった。


 放課後。


 「ねえ、神谷くん」


 帰り道。ふたり、並んで歩く。いつもは話さないような距離。


 「クッキー、おいしかった。ほんとに」


 「……っ、そ、そっか。よかった……!」


 陽翔は顔が真っ赤だったけど、それでも口元は緩んでいる。


 「でもさ、私も負けてられないなって思って。家で、マフィン作ってみたんだけど……」


 「えっ!? まじで!?」


 「……失敗した。黒こげ。家じゅうくさい」


 「ははっ」


 ふたりで笑った。


 そのとき美羽が、ふと思いついたように言った。


 「あのさ...次、一緒に作ってみる?」


 「えっ」


 「私だけじゃ無理そうだし。あんた、先生っぽいし」


 「せ、先生って……」


 でも、すぐに陽翔はうなずいた。


 「うん。じゃあ、家庭科室、借りられるように聞いとく」



翌週、放課後の家庭科室。


 エプロンをつけて並ぶふたりの距離は、最初ちょっとぎこちなかったけど、材料をまぜてるうちに自然と笑いが増えていった。


 「混ぜすぎ注意って言ったじゃん! それパンになるって!」


 「え、だってまだ粉が……あーーー、やっちゃった?」


 「やったね。しっとりマフィン計画、終了のお知らせ」


 「……ごめん。でも、まだ2回分あるからリベンジ!」


 そう言って笑う陽翔を見て、美羽は少しだけ顔を赤くした。


 (なんか、こういうのって、思ったよりいいかも)

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