第3話「汚染された川と奇跡のレシピ」
リノアを安全な場所まで送り届けることになり、俺は彼女の住む村へと向かうことになった。森を抜けた先にあるその村は「翠の村」と呼ばれ、穏やかなエルフたちが暮らす小さな集落だった。
しかし村の雰囲気は暗く沈んでいた。多くのエルフたちが家の中で苦しそうに咳き込んでいる。
「村の皆さんが謎の病に苦しんでいるんです。もう何日も……」
リノアが悲しげに説明する。彼女も村の長老に薬を届けるために森に入り、オークに襲われたのだという。
村の広場に着くとエルフたちが何人か集まっていた。彼らは俺という見慣れない人間に警戒の視線を向ける。
「リノア、その人間は誰だ?」
村の長老らしきエルフが厳しい表情で尋ねた。
「この方はアッシュさん。森で私を助けてくれました。そして私の治癒魔法を的確に導いてくれたんです!」
リノアが必死に説明するが長老たちの疑念は晴れない。
「ふん。人間が我々エルフを助けるなど、何か裏があるに決まっている」
面倒なことになった。俺はさっさと立ち去りたかったが、リノアの悲しそうな顔を見るとどうにも見捨てられない。それにこの状況は俺のデータサイエンティストとしての血を騒がせた。未知の病。原因不明。これは解析すべきデータそのものだ。
俺はスキル【データ分析】を発動させた。
《解析対象:翠の村の『謎の病』》
《情報収集開始……》
《患者の症状データ:咳、発熱、倦怠感、皮膚の発疹》
《村の環境データ:大気、水質、土壌》
《解析中……完了》
ウィンドウに驚くべき結果が表示された。
《原因特定:村を流れる川の上流に、毒性を持つ鉱物『黒水晶』が微量に溶け出している。これが病の直接的な原因》
《汚染源は、上流にある廃坑。最近の長雨により、坑内の黒水晶の成分が川に流出》
「この病の原因は村を流れる川の水だ」
俺がそう言うと長老は鼻で笑った。
「馬鹿なことを。この川は我らエルフの命の源。清らかな流れが汚染されることなどありえん」
「信じなくてもいい。だがこのままでは村は全滅する。そうなる前に手を打つべきじゃないか?」
俺の真剣な眼差しに長老は一瞬たじろいだ。
リノアが俺の言葉を後押しする。
「長老様! アッシュさんの言うことを聞いてください! この方ならきっと解決策を見つけてくれます!」
長老はしばらく腕を組んで考えていたが、やがて渋々といった様子でうなずいた。
「……よかろう。だがもしお前の言うことが偽りであったなら、ただではおかぬぞ」
俺はすぐに治療薬の分析に取り掛かった。
《毒素『黒水晶』成分の無害化プロセスを検索》
《データベース照合……完了》
《最適な薬草の組み合わせを算出》
《レシピ:『光る葉』3グラム、『青い花』5グラム、『赤キノコ』の傘の部分のみ1グラム》
《調合手順:》
《1. 『青い花』をすり潰し、水に溶かす》
《2. 『赤キノコ』の傘を加え、弱火で5分煮出す》
《3. 最後に火を止め、『光る葉』を混ぜ、3分待つ》
《このレシピによる治療成功確率:99.7%》
「完璧だ」
俺は村で一番薬草に詳しいエルフにこのレシピと手順を正確に伝えた。彼は半信半疑だったが、藁にもすがる思いで調合を始めてくれた。
その間に俺は村の若者数人を連れて上流の廃坑へと向かった。スキルで汚染源の場所は特定済みだ。廃坑の奥、水脈が通じている場所に黒く輝く鉱石――黒水晶が露出していた。
「これを塞ぐぞ。粘土で周りを固めろ。水が直接触れないようにすればいい」
俺の指示で若者たちが必死に作業を進める。数時間後、汚染源を完全に塞ぐことに成功した。
村に戻ると広場は歓声に包まれていた。
「咳が止まったぞ!」
「熱が引いていく……!」
俺が考案した薬を飲んだエルフたちが次々と回復していたのだ。長老は信じられないといった表情で、元気になっていく村人たちと俺の顔を交互に見ている。
やがて長老は俺の前に進み出て深く頭を下げた。
「人間よ……いやアッシュ殿。我々を救ってくれて心から感謝する。疑ったことを許してほしい」
他のエルフたちも俺に感謝と尊敬の眼差しを向けていた。
リノアは目に涙を浮かべて俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「アッシュさん、ありがとうございます……! あなたはこの村の救世主です!」
救世主か。俺はただ目の前にあるデータを分析して最適解を導き出しただけだ。だがそれが誰かの役に立ち感謝されるというのは、思った以上に悪くない気分だった。
この一件で俺はエルフたちから多額の礼金と最高級の薬草を譲り受けた。そして何よりも大きな収穫があった。
「アッシュさん! 私、あなたのお側でもっと勉強がしたいです! 連れて行ってください!」
リノアがそう申し出てきたのだ。
彼女の治癒魔法の才能は本物だ。俺の【データ分析】があればその才能を最大限に引き出すことができるだろう。仲間がいるのも悪くない。
「分かった。ただし足手まといになったらすぐに置いていくからな」
「はいっ!」
こうして俺の追放ライフに最初の仲間が加わった。王都に戻ったら本格的に活動の拠点を構えよう。俺の異世界攻略はまだ始まったばかりだ。
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