第24話 宿題
オスクリタを消し飛ばした後、エウロと一対一で話すこととなった。今までの会話で得た情報を整理し、これからどう動くべきかを考えるために。
その過程で、一つ、保留にされていた話があったことを思い出した。
エウロが王都を離れられないと言っていた件である。それも、政治的な理由で。最近、私は王国絡みのスキャンダルに全く関わっていなかったので、最近の社会がどうなっているのか、全く知らない。元々興味もなく、たいした知識を蓄えないままに隠居スタートしたのもあって、もはや陸の孤島人間なのだ。
「エウロが王都から出られないほどの事態なんてあるのか? 北の果てへ行くこともしばしばあっただろうに」
「それがですね……いいですか? 落ち着いて聞いてください」
「なんだ? 十分冷静だが」
「国王がお亡くなりになりました」
「……はえ?」
「病死です。暗殺などではありませんので、その点はご心配なく」
「ご心配なくって……一大事だろう?」
国王──国の一番偉い人──であるのは自明か。異世界に来て長いが、なんだかんだ、直接喋ったことはない。大魔法士に選ばれたとき、任命式のようなものを開いたときに、なんか一番奥で座ってる偉そうな人がいるなぁって思ったら、後から聞けばそれが国王だったらしい。危うく気軽に話しかけに行くところだった。
国王の年歳は、当時で私より少し上だったと記憶している。確かにいつ寿命を迎えてもおかしくないし、病死と言われてもなんら違和感はない。が、間違いなく大騒動だ。跡継ぎは誰かとか、次の政治体制はどうなるのかとか、政治に詳しいわけではないので浅いことしか考えれないが、変化することは山ほどあるはず。
「それでエウロのやることが倍増したわけか」
「本来ならばそう急激に仕事が増えるわけではなかったのですよ。しばらくの間は国王の死を内密にし、裏でのあれこれを済ませてから国民に公表する……予定だったのですが、オスクリタによって国王が亡くなったといううわさを流されてしまいました。こうなれば、今さら訂正する意味もありません。誤報だと伝えたところでうわさは消えてなくならないでしょうし、実際に国王はもういないのですから」
オスクリタのせいで、と言っていたのはそういうことだったのだな。てっきり国王がオスクリタに殺されたのか思ったが……エウロの嫌がらせに特化したようだ。エウロは国の各機関との間に挟まっている(良い意味でも悪い意味でも)重役なため、次の政治体制が固まるまでは、あちらこちらに引きづられて、そう身動きは取れない。
そういうこともあって、王都が一時的に入りにくい状態になっていたのか。情勢が不安定な時に、他国の人間や見知らぬ地域の人間を入れるのは、危険度が高いから。
全く人ごとの感想になってしまうが、大変そうだな。私の隠居生活とはまさに真逆だ。さすがに、友人がこの状態で私が見過ごすわけにもいくまい。オスクリタの思い通りにはさせたくないし。
「ならば、私も手伝おう」
「その姿でですか?」
「そうだった……」
今の姿ではなんの威厳も何もない。ルミエールではなくルーチェだし、仮に今の私がルミエールだと正体を明かせば、より威厳がない。大魔法士が魔力ゼロの少女姿で現れたら、混乱の中により混乱を招く。
「しかし、何をしないというのもな……」
「いいえ、そうではありません。あなたには重要な役割があります」
「というと?」
「これから、各地に魔物が現れることを考慮し、各重要都市に大魔法士・大魔導士を配備することにします。王都は私が、テッラは現在住んでいる学園の都市を、北の果てには炎の魔導士、南側はイゾラを中心にあなたが、東と西には水と雷の大魔導士を派遣する予定です」
「あいつら、言うこと聞いてくれるかな……」
オスクリタはぶち抜けてしまったので例外としても、大魔導士・大魔法士は私を含めて変わり者が多い。エウロは性格的にまとめ役になっているが、別にエウロが大魔導士のリーダーという訳ではないので、立場的には対等である。よって、言うことを聞くか否かは当人たちの気分次第である。
「確実ではありませんが……彼らもリブロが嫌いではないでしょうから。私の指示を無視するにしても、彼らなりに国のための行動をしてくれるでしょう」
「まあ、そうだな。で、私は南側を守れば良いと。具体的には何をすれば良い?」
魔物を狩るのであれば、戦闘用の魔法書を多めに仕入れておかなければ。お客用ではなく、自分用に。もはや自分のための魔法書店だな。あとは魔法で結界を張って防御を固めておくとか……。
いろいろ、頭の中でプランを考えていたら、エウロはいつものようにすました顔で、私がすべきことを告げた。
「そうですね、あなたの任務は──適度な食事、適度な睡眠、適度な労働をして、快適なスローライフを送ることです」
「……ん?」
なんか、思ってたのと違う! 冗談を言っているのかと思いきや、エウロは至って真面目な顔。むしろ、こっちがおかしいと言わんばかりだ。
「何がどうなってそうなった。今までの話はなんだというのだ」
「簡単な話ですよ。あなたの最優先事項は他者を助けることよりも、魔力回復の手段を見つけることです。何をするにしても、せめて以前の半分の力は取り戻していただかなければ。姿はともかく、ルミエールとして行動できるだけの力をです」
「いやいや、ならばスローライフは全く関係ないだろう?」
「おや、魔力を回復するための方法は体力を回復するのとさして変わらないことはあなたも当然ご存じでしょう? 健康的な生活です。早寝早起き、栄養の取れた食事に適度な運動、十分な睡眠。ちょうど魔法の普及は民が魔物から身を守るのに役立ちますし、適度な労働として取り入れてください。ただし、決してハードワークはしないこと。昔から、あなたは放っておくと働き過ぎるきらいがありますから」
それは自覚がある。すでに、田舎でゆったり魔法書店をやると言いながら、かつての経験を生かした魔法雑誌を作り、店を大混雑させて残業しまくりであったので。
「あなたにかけられた魔法によって魔力を消費してしまうのなら、より回復力を高めれば打ち破れるかもしれません。破るとまでは行かなくとも、収支をプラスにできれば魔力を蓄えられます。さらに、もしオスクリタの言うように、あなたの願いが少女となって魔法書店を営むことならば、その目的を達成したとき、制約を解除して元の姿に戻れるかもしれませんし」
「一理はあるが、そんなふざけた任務を……」
確かに私は貴族とのあれこれに疲れて隠居した身ではあるが、別にリブロが嫌いになった訳でもないし、この世界の人をどうとも思っていない訳でもない。国の一大事だというのなら、大魔法士としてできることはしたい。
「今の私は国家の未来を考える立場にあります。言うなれば参謀のようなものです。そんな私の命令ですから、もちろんあなたは言うとおりにしますよね?」
「ぐ……妙なところで権力を……」
私のかつてはただの社会人、知らん貴族の言うことは聞く気にならなくとも、身近に上司的ポジションのヤツがいると、拒否できないようプログラムされている。これはまさに、連勤の末に有休を使えと命令されたときの気分と同じだ。なんともいえん……。
実際、エウロの言うとおりだと理解はしている。ルーチェである自分に、できることは多くない。ルミエールとして行動するための手段も、近いうちに考えなければな。
こうして、オスクリタとの思わぬ再会と、エウロからの小学生の夏休みの宿題みたいなよくわからん任務を命じられて、イゾラに戻ることになったのだった。
最強の大魔法士、TSしてのんびり魔法書店の看板娘になります 冬葉月(ふゆはるな) @worldconsole
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