第14話 大魔法士たちの談話・中
「で、なんの話してたの?」
テッラは私たち二人が世間話をしていたかのようなノリで聞いてくる。何の話と聞かれるとむずい。オスクリタの件はまだテッラに伝えるには早い。なぜなら彼女は口が軽いから。もう少し整理して、一般に要注意魔物がいるぞと流布できるくらいの段階になってから伝えるべきだ。
同様に私の正体についても言えるわけがない。しかも一度ごまかしてしまった以上、今さら訂正するのはあまりにも気まずい。しかし、エウロにまだそれを伝えられていない。ぽろっと私のことをルミエール呼びする前に、ごまかさなければ。
「いやあ、魔法書店を今後どうやっていくべきかエウロに質問しててな。ほら、こやつは王都で重要な仕事を担っているくらいだし、アドバイスだってお手の物だろう?」
「確かに~。風の人、細かいこと気にしてそうなタイプだもんね~」
「風の人ではなく風の大魔導士、またはエウロさんと呼びなさい。二度目です。三度目は許しませんよ」
「そうだそうだ、テッラにも聞きたいことがあった。魔法書店に魔法書を運ぶシステムは、テッラが作ったのか?」
「うん。そうだよ。何? 僕のゴーレムちゃんたちの活躍をもっと知りたいの?」
別に聞く必要があることではなかったが、話をそらす目的で、聞いてみた。案の定、テッラは得意げに語りそうな顔をし、するだけにとどまらず勝手に語り出した。やれやれといった具合に。
「しょうがないなぁ……。もちろん教えてあげるよ。あれはね、僕が生まれたとき、」
「待て待て、昔話じゃないんだから出生から語るな。もうちょい最近の話にしてくれ」
「う~ん……そう言われてもさぁ……」
テッラは頭を悩ませている。どうやら彼女にとって、ゴーレムの活躍は要約不可能らしい。ならばこちらから質問しよう。
「ゴーレムで魔法書の流通をやることになった、最初のきっかけはなんだったんだ?」
これは、以前から気になっていた。ゴーレムを物流に使うのは良い発想だし、それを実現する技術力はさすがテッラだと思ったが、なかなか最初に思いつくきっかけがないだろうに。
「うーんと、最初はね、魔法学校でししょーの魔法書のすごさを分かってない人に送りつけるのに使ってたんだ。で、うわさを聞きつけた魔法協会の人がゴーレムを貸してくれないかって、僕のとこに来たんだよね」
「ほうほう。なかなか目利きの良いやつがいるんだな、魔法協会にも」
「ま、僕のゴーレムちゃんが優れてるのは当然だからね」
「で、それに協力したと」
「いや、断ったよ」
「え、なんで? 承諾する流れだろ、普通に」
「得体の知れない営業なんかに、僕の大切なゴーレムちゃんを貸すと思う?」
言われてみれば、絶対に渡さないタイプの性格だ。以前魔法書店の開業を手伝ってもらったとき、私は友達料金ということで見逃されたが、仮に貸すとなっても、明らかに赤字な値段をふっかけられている事だろう。
「なら、どうやって今の形になったんだ?」
「ゴーレムちゃんのすごさと、僕が作ったってちゃんと明記することを条件に、ゴーレムを作るための魔法書と、動かすための魔法印の作り方を教えてあげた。魔法書も魔法印も、作り方はししょーに教えてもらってたし」
「ほ~、意外と親切だな」
ちなみに、教えた覚えはあまりない。たぶん私があれこれと試行錯誤していたのを横目に、目で見て盗んだのだと思われる。天才はすごいね!
「ししょーの魔法書を広めたいって気持ちは僕もあるからね。どこのどいつかわからなかったから、一応、悪用されない対策もしたし」
「へぇ、どんな感じなんだ?」
「ししょーのインデックスをまねして、魔法書を使って作ったゴーレムが自動的に登録される別の魔法書を用意してあるよ。何かあったら、僕の気分次第で特定のゴーレムを土の魔法で爆発させられるから」
「え、こわ……」
どちらかといえば、テッラが悪用しだしたときが一番怖いのでは? 爆破特攻してくるゴーレムなど最強過ぎるのだが……。まあ、そんなことする子ではないから安心、ということにしておこう。
ともかく、これでおおかた話はそらせたか。ちらっとエウロの様子を見ると、こっちの話には興味がないようで、椅子に座ったままお茶の世界に戻っていた。
おい、今の流れをよく見てろよ、私はルーチェであってルミエールじゃないんだぞ。
という意思を込めてじっと見ると、エウロがウインクのように片目を閉じると同時に、
『秘密にしろと言うんでしょう? 分かっていますよ』
風の魔法で私だけに聞こえるよう、遠隔の耳打ちをした。
さすができる男。安心して背中を預けられる存在だな、まさに。こんなしょうもないことで、背中を預けられる方はつまらないだろうが。
さて、一通りテッラから話を聞いたが、テッラは見るからに気分が良さそうだった。甘い物を食べたわけでもないのに、にんまりとしている。
「やっぱり、君はいいね。こうやって話してると、いかにも友達感がするよ」
「友達感って言葉は初めて聞いたな……」
「そういえば、テッラ、あなたが同年代と歩いているところは見たことがありませんね」
「まあね~」
「ぼっちなのですか?」
お茶を飲んでいたら吹き出していたに違いない。あまりにもドストレートな言い方だな。
さては、風の人と呼ばれたことを根に持っているな?
「は? ルーチェって友達がいるでしょ、隣にさ」
「……フ」
エウロは私と目を合わせてあざ笑うかのような嫌な笑顔をした。それはルミエールだぞと今にも言いそうだ。おい、言うなよ。急に昔のお前の恥ずかしいエピソードバラすぞ。酒に弱いのに調子乗って飲んだ結果、風の魔法で遠くに吹っ飛んだまま帰ってこなくなった話とか。
「趣味の違いなどいくらでもあるだろう。テッラは天才だからな。世間の流行にも左右されないし」
「確かにゴーレムに乗って散歩しているような人間が、王都の流行に詳しいとは思えませんね(笑)」
「はあ? そう言う風やろーは流行りに詳しいって言うの? ぜんぜんそうは見えないけど? 一人でブツブツ喋ってばっかなのに?」
「あれは精霊との会話であり、魔法の発動に必要な作業です。決して独り言ではありません。誤解なきよう。そして私も流行に強いとは言いませんが、あなたより多くの人と喋っていますので。大魔法士に恥じない格好は心得ていますよ」
そういえば、エウロはちゃんと王都でも恥じない服装をしている。この時代、ネットはもちろん、ファッション誌などないだろうに。
彼の言うように、関わった人と世間話を繰り返し、なんとなくの意見の一致を重ねているのだろうか。
ある種流行の本質だが、テッラ、および私を含め、そういう余計な話から遠ざかりたい人間にとっては、なかなか厳しいな。置いてかれるばかりである。
「服装についてまとめた本とかないのか? 私も疎いのだが……」
「ありますが、ほとんどは歴史書です。ルーチェさんも少女のファッションはお詳しくないでしょうから、学び直したい気持ちはお察ししますが、本では頼りにならないでしょうね」
「そうなのか? 魔法書店があるくらいだし、特定の事柄に絞って情報をまとめた媒体があってもおかしくないと思うが」
要は、雑誌の事である。この世界、魔法書を流通させるだけの印刷技術と紙の量があるのだから、あってもおかしくないと思うが、考えればこちらの世界で未だ見たことがない。ついでに思えば、新聞のようなニュース媒体もないな。
「ええ、やろうと思えば可能でしょうね。しかし、これは全くもって皮肉ではなく、ルーチェさんは大変頭が良い。よってお忘れのようですが、一般の人々には識字率という壁があります。貴族であれば魔法書も歴史書も読めます。が、田舎に住む人々は文字など読む事なく一生を終える人もいるのです。必要となるならば貴族間での情報交換のためでしょうが、ルーチェさんならばこの先がわかるでしょう」
「ああ……確かにいらないな……」
うちの貴族たちは、大変パーティーがお好きなのである。ことあるごとに一カ所に集まり、高貴な食事とともにあれやこれや喋り、夜には気に入った相手と謎のダンスを踊り、遊ぶふりして政略を巡らせている。まあ、中には本当に遊んでいるお調子者もいるが。
交わされる会話の中にはむしろ文字に残ってはいけないものも多く、最新の情報を書き記すメリットがあまりないのだろう。知るべき事は、パーティーに参加していれば嫌でも耳に入るだろうし。
そう考えると、ピアンテも頑張って文字を読んでいたのかもしれないな。確かに、語学勉強から始まるならば、魔法書なんて簡単に使えたものではないな。
ちなみに、私は転生特典で最初からこちらの世界の文字が読めました。なんかごめんな……こっちの世界の人々……。
「元々、我々の国の印刷技術は、魔導書の誕生、魔法書の発展とともに生まれたようなものです。あなたが思う情報伝達の媒体としてではなく、そもそもが魔法のためのものなのですよ」
「なるほどな……」
私からしてみれば、異世界ならではの価値観に目からうろこだ。本というものに対する認識が、エウロたちとはズレているのかも知れない。
あくまで本をメディアの一つだと私は思っていたが、彼らにとっては記録として国の公文書・歴史書を作るためか、実用として魔法を使うために作るものだと考えているのだろう。
実際、魔法書店は王都および主要都市に展開しているが、いわゆる通常の書店はないしな。
しかし……どう考えても、現在の技術レベルなら可能である。日本の書店と似たシステムがあり、十分な紙があり、印刷技術があり、流通用のゴーレムがいる。
魔法の普及を考えるならば、まず間違いなく魔法をまとめた雑誌を作るのは有効に違いない。大きめでイラストや写真を入れれば、極論文字が読めなくともなんとなく内容がわかるだろう。文字の読み方の解説コーナーまで作れればさらにベター。
実は、というほどのことでもないが、日本での職業は小さな雑誌を編集する仕事をしていたのである。あまり思い出しても楽しい記憶はないが。いや、仕事自体は面白みがあるのだが、いかんせんただの会社員であり、しかもブラックに近い企業だったために、マイナスの印象がついてしまっているのだ。
かつて激務で睡眠不足となった結果、横断歩道を渡るときに信号無視のトラックに気づかず、今の世界に転生することとなったし。もし意識がハッキリとしていれば、子どもが飛び出す前に止められただろうが、立ったまま寝ていたせいで反応が遅れ、身代わりになることしかできなかった。
だからこそ、TS以前はあえて考えるのを避けていたふしもある……ので、再び雑誌を作るのはなんとも原点回帰であり、少し思うところがある……が、これも何かの縁のようなものだろう。
日本の書店だって、出版と販売、両方やっているところはいくつかあった。魔法書店を営もうとしている私がやったって何もおかしくない。
……なんというか、思いつくたびスローライフから遠ざかっていく。のんびりしようという心意気はどこに行ったんだ。やはり、企業どうこうの前に、私がブラック体質なのかもな。
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