第6話 開店記念日
「すげ~」
ついアホみたいな感想が出てしまったのは、目の前の光景のせいである。今、テッラが乗ってきたゴーレムが外に置いてある木箱を建物の中に運び込んでいるのだが、パワーがえげつない。
作業用の重機が動いてるところを見てる気分だ。男の子だったらわくわくしているところだったが、あいにくTSした女の子モードの今なら普通にわくわくしている。こういうのは何度見ても目を引かれるものだ。
しかし、見ているのもあっという間で、建物の中に全ての木箱が運び込まれた。
「ついさっき見たばっかだが、やはりすごいな、ゴーレムというのは」
「すごいでしょ、僕のゴーレムは特別製だからね。もっと褒めていいんだよ?」
「やるな、テッラ! さすが!」
「いや、僕じゃなくてゴーレムを褒めろよ」
「そっちなのか……」
真顔で注意された。テッラのゴーレムに対する愛情は本物のようだ。相変わらずなことで。
「で? 運び入れた後はどうするの?」
「ああ、分類して本棚に差すぞ。あとは任せてくれ」
「り。じゃあ、この辺のやつ適当に読んでていい?」
「もちろん、手伝ってもらったからな」
と、テッラは適当に木箱を開けて、中の本を物色していた。全て商品ではあるが、中身を傷つけさえしなければいい。魔法書店員の特権だ。
テッラもゴーレム特化とはいえどいっぱしの魔法使い、魔法書への興味は人並み以上にある。あまり勉強熱心だった記憶はないが、学生のうちにやらされている勉強は嫌いでも、大人になってからの学び直しにはやたらと興味が出る、みたいなやつだろう。
かくゆー私の魔法に対するモチベーションも同じような物だし。
さて、魔法書をどうジャンル分けして本棚に陳列するべきかは、あらかじめ考えておいた。残念ながらというべきか、かつての日本の本のように、バーコードがあるわけでもなければ、ネットで検索して本のジャンルを調べることもできない。
ゆえに内容に応じて探しやすいよう、適切に分けて、並び替えるなり本棚を分けるなりしなければいけないのだが、当然中身を知らなければそう分けるのも難しい。
タイトルだけを見てある程度分類することもできなくはないが、極端な話、コミックを買ったら中身小説だったみたいな感じで、似たようで中身が全く違う物もある。魔法書かと思ったら魔力無しの魔導書かよ使えねぇじゃねぇかとクレームになるかもしれない。
これは、かつてルミエールとして多くの魔法書を読んできたときから課題だった。手に入れた魔法書を、どう管理するべきか。
お客さんが勝手に別の場所に本を差すことだってあるし、それらを全て整理するのは不可能。日に日に目録からずれていき、直すより早くズレが大きくなり、最後には収集がつかなくなる。私一人が使う分には何ら問題ないとも言えるが、全くの素人まで店に来ることを考えると、そうはいかない。
魔法学校や王立の図書館では、専門に管理する人を雇い、目録の制作や本棚の管理をしている。私もそれらの施設に立ち入ったことがあるし、しばしば利用していたので、よく知っている。
以前、王立図書館で働いていた友人に、詳しく教えてもらったのだ。かつて、魔法書の管理を国が始めた頃、手作業で目録の作成と本棚の管理をやっていたために、膨大な人件費と時間が無駄になり、あげくどこに行ったか分からない魔法書が頻出していたと。
これは魔法書を内容まで吟味して厳密に管理しようとした結果、必要以上のコストがかかってしまった結果である。手間が増える分ミスも増えるし。
そもそも魔法にはジャンル分け不能なものも多く、はたして厳密な管理自体に意味があるのかも疑わしい。属性など作ろうと思えば無限にあるし、攻撃にも使える回復魔法は果たして支援系の魔法としてまとめていいのかなど、考慮することは山ほどあり、これを多人数でいちいち話し合って決めていてはキリがない。
その後、完璧に管理しきることはあきらめて、簡易的に効率よく管理するための施策が検討され始めた。最終的に採用されたのが、本に込められた魔力量による分別という、非常に簡単で、されど合理的な分け方だ。
基本的に、魔法は使用する魔力が多ければ多いほど強力で、少なければ少ないほど小規模となる。よって魔力量に応じた分類はすなわち、魔法の強さに応じた分類となるわけだ。
現在主流となっているのは0~9までの十段階の分類で、1が魔力の少ない基礎的な魔法、9が最も魔力の込められた魔法書、0は魔力無し、すなわち魔導書である。数字のそれぞれは天然で取れる魔法石の純度を基準としており、比較の際にはそれぞれの数字に応じた魔法石と比べることでそのランクを決める。
なんだかんだ一番高度な魔法は魔導書に書かれていることが多いので、数字の大きさが魔法の強さにイコールではないが、まあ0だけ特殊と覚えておけばいいはずだ、基本的には。
で、こんな長々とした話をしている間に手を動かせよ、という話なのだが、話の終着点はといえば。
魔力量という、一つの指標に基づいて別れているならば、自動で本を整理できるようなシステムは作れないか? せっかく魔法のある異世界なのだから、本の整理にも魔法を活用するのが道理だ。
私はこれでも、大魔法士と言われるだけの実力はある。特に、日常生活を魔法で便利にすることに関しては、人一倍の情熱がある。他の魔法使いには、全く理解されなかったが。
そのおかげで、整理、召喚に関する魔法の利用に関しては客観的に見ても無駄にぶち抜けている。飲み物や布団の召喚しかりだ。ふふふ、これが長生きの利点……。
「ねぇ、いつまで突っ立ってんの? 早く仕事しなよ。僕もう帰っちゃうよ?」
魔法書を読みつつ、横目に移る突っ立ったままの私に、テッラはそう忠告してくる。てっきりこちらに関心などないかと思っていたが、一応様子はうかがっているらしい。
「大丈夫だ。始まればすぐ終わる!」
「一冊ずつ本を差すんでしょ? 日が暮れても終わらなそうだけどね。あ、僕は手伝わないよ?」
「まあ、見ていろ」
と、カウンター裏の魔法書を一冊取り出した。タイトルは『魔法書を整理するための魔法書』、作者は私。頭痛が痛そうなタイトルとも紙一重だが、一番分かりやすい名前をつけたのだ、文句を言われる筋合いはない。
魔法書を開き、魔法陣の書かれたページを開く。魔法陣の中心に右手を置き、続いて右手を離し、最後にパチンと指を弾くと──木箱に入ったままの魔法書たちが、ひとりでに浮き上がり、本棚に収まっていく。それらは十段階の分類ごとに別れた本棚に、自動的に別れて飛んで行く。
バラバラに飛び交って勝手に本棚に刺さる様は、さながら映画で見るような、ファンタジー世界の様子そのものだ。
ついでにテッラが試し読みしていた魔法書も、持っていた手から勝手に飛んで行っていた。
「え、なにこれ──見たことないんだけど!」
テッラもさすがに初見らしく、物珍しいそうに空飛ぶ本の数々を眺めていた。相当な冊数があるために、外を飛んでいれば鳥の大群とも見間違うだろう。それがせまい建物の中を魔法書が飛んでいるのだから、なかなかに壮観だ。
この魔法書を使うための条件は、整理する本が建物の中にあることと、本棚に魔法石を仕込んでいること。前者はテッラによって達成され、後者は過去に済ませている。仕込む魔法石は、魔法の十段階分類に使われるものと同じものが、本棚ごとに別れて入っている。
使った主要な魔法は、魔法石に魔力に応じた分引っ張る力を与える物で、ようは磁石と同じ性質を持たせてると思えばいい。木箱に近い手前の本棚がランク1、一番奥がランク9、強い魔法石ほど魔力量の多い魔法書を引っ張り、魔法書もランクに応じて引っ張られるので、自動的に分類ができる。
分類が終われば、あとは物体移動の魔法と本棚の刻印という目印を駆使して、適切に本棚に収納する。一番難しいのがここだった。きれいに本を並べるのがどうにもむずかしく、縦ではなく斜めに本が入ってしまったり、本と本がぶつかって床に落下したりと。
一冊の魔法書にまとめるまでに、何十冊無駄にしたことか……どうしても魔法陣の構成が上手くいかずに、一時は五冊を順番に使う方針で妥協しようかと考えていたが、やはり一冊の方がスマートだ、頑張ったかいがある。
ただし、本ごとに分けて整理する機能はないことと、本に人を避ける機能はついていないので、閉店後くらいしか使うタイミングがないことが弱点だ。そういえば、私も油断してたら本に轢かれる可能性があったのか。全く忘れてた。今回はラッキーだったが、頭にあんな分厚いのが直撃したらしばらく記憶が飛びそうだ。気をつけよ。
飛び交う本に殺されないよう神経を張りつつ、数分だろうか、ようやっと全ての魔法書が本棚に収まり、魔法書は役目を終えた。
完璧だ、これなら魔法書店として恥じない開店を迎えられるだろう。
あっけに取られているテッラに、少し自慢したくなった。
「どうだ、私の魔……コホン、ルミエール様の魔法はすごいだろう?」
「すごいけどさ……もっと他のことに魔法を使ったらどうなのって、ルミエール様に伝えておいて。そしたらたぶん聞き飽きたってルーチェに言うと思うから、追加でこっちも言い飽きたって伝えておいて」
「了解した。が、言うまでもないと思うぞ」
「僕も人の話を聞かずに自慢げなししょーの顔が目に浮かんでるよ……もはや、ルーチェにししーのおもかげが見える……てかなんで君がそんな自慢げなのさ」
「えぇ!? ああ気のせいだ気のせい。気にするな」
危ない危ない、顔に出ていたらしい。
だが、何を言われようが、こういう魔法作ってるときが一番楽しいからな!
ようやっと開店準備は整った。
いよいよ明日から、店を開くとしようか。
ルーチェの魔法書店、開店!
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