ダニエルお坊ちゃま


 わたし、メイドのアビーのご主人さまは双子の兄弟でございます。


 ダニエルお坊ちゃま、愛称はダンさま。

 燃える炎ような赤い髪をしており、性格は強気の自信家。明るく豪胆で頼りになるので多くの人に慕われています。

 そしてダニエルお坊ちゃまはとても積極的で直球にございます。


「アビー、ぼくはお前を愛している。好きだ、かわいい、キスしたい」


 訂正します、直球でした。


「ダニエルお坊ちゃま、困ります。そうやってわたしをからかっていますと、旦那様に叱られてしまわれますよ?」


 わたしがそう言うと、ダニエルお坊ちゃまはムッと目に見えて不機嫌になります。


「からかって、だと? お前はぼくのこの想いを戯言たわごとだと思っているのか? 心外だ、ぼくは嘘や冗談は好きじゃない」


 ダニエルお坊ちゃまはわたしのおさげの片方をそっと手のひらに乗せると、そっと唇を寄せる。


「ぼくの想いが本気だということを証明するには、きっとそののがいいのだろうな」


「……体に? それは、体罰でしょうか?」


 人買いの所にいた時のことを思い出してぶるりと震えると、ダニエルお坊ちゃまはふにゃんと顔を緩ませる。


「まさか! ぼくは惚れた女を痛めつけるような野蛮なマネはしないさ」


 陽だまりの猫のような表情をするダニエルお坊ちゃまにホッとしつつ、わたしは更に訊ねる。


「では、体に教え込むとはどういう意味でしょうか?」


 この問いかけにダニエルお坊ちゃまは、あははっ! と豪快に笑うだけで答えては下さいませんでした。



 わたし、メイドのアビーのご主人さまは双子の兄弟でございます。

 そしてダニエルお坊ちゃまは一体わたしの体に何を教え込むつもりだったのでしょうか?

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