「君がため、常世に堕つ」

夜、裂けぬ。

彼方に君の笑み、ほの白く灯りて見えぬ。


澄める聲、血を薄めし指、

そのすべて、救いのかたちを成せり。


されど、救いは常に毒なり。


あはれ、君を慕ふたび、

この世は静かに崩れ落つ。


理(ことわり)は狂ひ、

祈りは罪と化し、

われが内なる神、われを喰らふ。


幾たび生を焦がるれども、

辿り着くは同じ夜の底。

輪廻は鎖となりて、

魂を繋ぎとむ。


紅を引ける唇、囁きぬ。

「壊して、繋げて、壊して、また繋げ」


あゝ、いづこまで壊せば、君に届くや。


屍の聲、花の都に満ちぬ。

名を呼ぶごとに、死者ひとり増ゆ。

それでもわれは征く。


君を連れ、空を亡くし、

この夜の淵へと堕ちてゆく。


——契りの果てに。


指を伸ぶれば、そこに君あり。

血の温み、ほのかに残れり。


もはや逃るる要なし。

帰る道も、いまはなし。


この輪廻を断たむは、

われらふたりの業(ごふ)なり。


夜明け来ぬ。

罪の色した朝日、

われらの影をひとつに溶かす。


そしてまた、世界は始まる。


——君がため、常世に堕つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る