物語1.星護る騎士団、忘れた記憶

これは私の夢物語。

共に護り、そばにいたいと願う物語。

物語の舞台は、紅く輝く星、リュビリス。


リュビリスの中心にある国、聖ラナフィアス帝国。

巨大な結界に護られた、最後の帝国。

結界の外には魔族と堕落族が溢れ、瘴気が蔓延している。

それらから人々を護る使命を背負う者たちーー

帝国騎士団が、日々結界の外で魔族を倒していた。


帝国騎士団の中で、一際目を引く存在がいる。

さらりと流れる黒髪に、青く澄んだ瞳。

16歳にして、帝国騎士団副団長。

ルフィーナ・フォティノースだ。


彼女には、胸に抱えた“空白”があった。


8歳以前の記憶が、何ひとつ残っていない。


故郷の村を魔族に焼かれ、家族を失ったときに全て忘れてしまったと聞いている。

ただ、忘れてしまった悲しみだけは、胸に刻まれている。


ーー次こそ護らなければ。


そう、いつも思う。

なぜなのか、何を護るのか、わからないまま。



「ルナ、怪我はしてない?」


誰よりも早く、ルフィーナに声をかける少年。

赤みがかった白銀の髪、赤から白へ移ろう瞳。

17歳にして、帝国騎士団団長セルヴィーロ・イオディスだ。


ルフィーナにだけは優しく、何かあれば真っ先に駆けつける。


「大丈夫だよ。セルもそばにいたじゃん」

「そうだけど、心配だからね」


セルヴィーロは、ルフィーナの肩に優しく手を添える。

その触れ方は、過保護にも感じられるが、まるでーー“失うこと”を恐れているようにも思える。


その時、ふわりと星の光が舞い、煌めいた。

星光を撒く、白い妖精のような4枚の羽。

ルフィーナの家族であり、治癒の能力を持つ守護神獣ティターニアだ。


「主様、怪我をした人はいませんでした」

「それはいいね。ありがとう、ティターニア」

「はい。主様とみんなのためです」


そう笑顔を浮かべるティターニア。

淡い水色の毛並みの耳が、ふわふわと揺れる。

星空のように煌めく黒い瞳には、どこか寂しさが宿っていた。


ルフィーナの名を呼ばない彼女。

理由は、わかっている。


(私が、ティターニアのことを忘れたから・・・)


忘れたいなんて思ってなかったはず。

それでも、どうしても思い出せない。

家族を失い、主にさえ忘れられた彼女はーー

どれだけ、悲しかったのだろうか。


(ごめんね、ティターニア。いつか必ず、思い出すから・・・貴女のことも、家族のことも)


ティターニアの羽から零れ落ちる、涙のような星の光。

ルフィーナはそれを見つめ、軽く頷いた。



騎士団東拠点に戻ると、笑い声が響いた。

おちゃらけた騎士たちが、ルフィーナに言う。


「副団長、団長〜。アツアツですね〜」

「そ、そんなことないよ。いつも通りだから」

「え〜、いつも仲良しっすね〜」


ルフィーナはそう訂正しつつも、胸の鼓動が早まるのがわかる。

その鼓動が何を表すのかは、わからない。

ルフィーナが目を伏せていると、騎士たちにかけられる声が。


「君たち、黙ろうか?」

「あ、は、はい」


セルヴィーロの一喝により、騎士達は静まる。

17歳とはいえ、団長としての威厳を兼ね備えている。

・・・いや、これはただの脅迫かもしれない。


その時、セルヴィーロに勢いよく抱きつく者が。

さすがのセルヴィーロも、バランスを崩した。


「セル!今日僕頑張ったよね!褒めて!」

「わかったわかった。よく頑張ったね、ルビアス」


セルヴィーロの守護神獣であり、とても強いルビアス。

真っ白もふもふな毛並みに、黄金の装飾。

ライオンのような姿で、翼がある。

瞳はセルヴィーロと同じ色で、繋がりを表す。


威厳ある姿に反して、甘えん坊なその性格は、騎士たちに大人気。

ルフィーナも思わず、微笑んでしまう。


「セル、次はどこに行くの?」

「そうだね。陛下もやっぱり、まず東3番地区を取り戻したいって」

「そっか。でもそこには上級魔族がいるんだよね」

「うん。だからまずはその手前にある東2番地区を攻める」

「わかった」


リュビリスの大地は地区分けされている。

今回目指すのは、帝国の近くの東3番地区。

魔族から土地を取り返す、騎士団のいつもの任務だ。


「ルナは俺のそばにいてね。絶対護るから」

「そこまで心配しなくても、大丈夫だよ」

「そうかもだけど、ルナは狙われやすいからね」


セルヴィーロは笑顔で、そう言った。

「絶対護る」という言葉は、自分に言い聞かせているようにも感じた。

まるで、深い傷を隠そうとしているかのように。

使命を果たそうとするその背は、どこか哀しんでいるように感じられた。



ルフィーナとティターニアは、一緒に侵攻の準備。

星の光が横で揺れ、ふわふわと浮いている。

ルフィーナは声をかけた。


「ティターニアは準備できた?」

「はい。そろそろ出発しましょう」


セルヴィーロや騎士たちも、準備を終えた。

拠点の外で隊を成し、結界の外へと歩み出す。

帝国の外へ繋がる橋が降ろされ、結界をくぐった。


進軍中も、セルヴィーロは常にルフィーナの隣。

セルヴィーロは言う。


「ルナ、ペンダントはつけてきた?」

「うん。もちろん」


セルヴィーロからもらった、ペンダント。

鍵の形でてっぺんに星型の宝石がついている。

宝石の色は、セルヴィーロの瞳と同じ。

宝石の両脇には翼もついている。


セルヴィーロはこれをどこで手に入れたのか話さない。産まれた時から持っていた、とだけ。


これは、ルフィーナが攻撃されそうになった時、自動で結界を展開して、敵の攻撃を弾き返してくれる。


セルヴィーロがこれをくれた理由を、ルフィーナはなんとなくわかっている。

ルフィーナを、護るためだ。

戦っている間も、ずっと側を離れないのに、こんなものまで渡すなんて。

どうしてそこまで自分を護りたいのか、ルフィーナは理解できなかった。



            ◇



しばらく進軍し、東2番地区に入る。

近くに野営にぴったりな洞窟を見つけた。

少し薄暗く、いくつかの影が彷徨っている。


彼らは堕落族ーー魔族の瘴気に侵され、理性と記憶を失った人や守護神獣。

すると、堕落族が襲いかかってきた。

セルヴィーロは、小さくため息をついた。


「・・・何もしなければ、斬らずにいたのに」

「倒しますか?」

「ああ。かかれ!」


騎士たちは一斉に堕落族に攻撃する。

ルフィーナたちが手出しするまでもない。

堕落族の種類は、人間だけのようだ。

武器も持たず身一つで攻撃してくる。

もろい人間の体では、剣に耐えることはできない。


炎武ファリア!」


技名と共に、力をまとった攻撃が放たれる。

炎の熱と、赤い光が伝わってくる。

守護神獣との絆によって、放たれる技の数々。

その強さと力は、多種多様だ。


騎士たちによって、堕落族は倒された。

真っ黒に染まった体は、瘴気の塵となって、風に乗り空へと運ばれていった。

ルフィーナは天にに向けて、手を合わせ、祈る。


(願わくば、来世では安らかなる生を・・・)


こうしていると、いつもセルヴィーロが来る。

そして痛みを秘めた声を優しさで覆い、言うのだ。


「ルナ・・・君はいつも祈ってるね」

「うん。彼らの願いを、神様が聞いてくれるかもしれないから」

「神なんか、信じてもーー」


セルヴィーロは言葉に詰まり、目を細める。

いつもそうだ。

神のこと、祈ること、信じること・・・。

セルヴィーロはなぜか、それらを嫌がる。

まるで神に裏切られたことが、あるかのよう。


(どうしてそんなに、悲しそうなの・・・?)


堕落族たちもきっと、まだ生きたいという祈りが、神に届かなかった者たち。

セルヴィーロは何を失い、どんな祈りが届かなかったのだろうか。


「セル、テントを準備しよう」

「そうだね、そろそろ用意しなきゃ」


話題を逸らし、野営のためのテントを設営する。

セルヴィーロとルフィーナのテントは、いつも隣。



テントの準備が終わり次第、まずルフィーナとティターニアが風呂に入る。

炎の守護神獣と、水の守護神獣の力で、お湯が溢れ出す。

戦場とは思えないほどの、快適な日常。

セルヴィーロが外で、剣を片手に見張りをしている。


「ルナ、お湯加減は大丈夫?」

「うん、ちょうどいいよ」

「よかった。見張ってるから安心してね」

「・・・うん」


ルフィーナは美少女と言われている。

それのに男だらけの軍隊に女1人で入っている。

騎士たちの中には、よからぬ考えを持つ者もいる。

そんな輩を成敗するために、自ら志願して、セルヴィーロが居座っている。


一度だけ、無謀にも挑んだ者がいるが、その者は丸一日セルヴィーロの鬼稽古をやらされた。

後にその者は、セルヴィーロを見るたびにいい年しているにも関わらず、ガクガク震え、泣き出したのだそう。


ルフィーナが風呂を出たら、セルヴィーロの番だ。

ルフィーナは風呂から出たら、テントに戻る。



            ◇



その後、他のみんなも入った。

作戦会議をしながら、みんなで夕飯だ。

後方支援部隊が作った夕飯はかなり美味しい。

みんなバクバクと食べる。


「明日の目的地は、東3番地区。まずはその手前の東2番地区を攻めるよ。中級魔族1体と、下級魔族が2体いる。いつも通り、俺とルナ中心で、後方から援護してね」

「ふぁい」


口に食べ物を詰め込んだまま、騎士たちが返事した。

セルヴィーロは「まったく」とつぶやきながら、説明を続けた。

団長として、冷静に指示を出すセルヴィーロ。


「できる限り、木を傷つけないでね。怪我したらすぐティターニアに、瘴気に当たったらすぐルビアスに」

「はーい」

「じゃあ、そろそろ休もうか。明日は日の出と共に出るからね」

「了解っす!」


作戦会議と夕食を終え、それぞれのテントに戻る。

ルフィーナは、セルヴィーロに声をかけた。


「おやすみ、セル。明日も上手くいきますように」

「おやすみ、ルナ。なんかあったら俺を呼んでね」

「うん。また明日」

「また明日」


どこまでもルフィーナを護ろうとする、セルヴィーロ。

その優しさに、ルフィーナは胸がきゅっと縮む思いがする。


(私は一緒にいるよ、セル・・・)


祈るように、心の中でそう伝えた。

そしてセルヴィーロとそれぞれ、テントに戻る。


ルフィーナは寝袋に潜り込む。

ティターニアはクッションの上に横になった。


「おやすみ、ティターニア」

「おやすみなさい、主様」


星空を思い浮かべながら、目を瞑る。

その時、胸の奥に、ふと言葉がよぎった。


『ーー約束だよ!』


いつの記憶か、そもそも自分が聞いた言葉なのかもわからない。

でも、懐かしくて、哀しいのは分かった。

ただ、それだけだった。

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