第34話 柊雷 ~始まり~



柊雷しゅうらい。お前、軍のトップにけ」



 城の軍隊で訓練をするようになって、俺は自分の強さを自覚した。

 竜の力を封印しても俺は強かった。そこらの魔性たちと普通に対峙できた。

 天昇てんしょうは本能だと笑った。

 俺は闘神と呼ばれた雷家らいけの琥珀の飛竜だった。戦うために創り出された。




 ある日、天昇てんしょうは俺を軍の訓練場の奥にある大きなテントみたいな所に連れて行った。軍の幹部のみが出入りする場所らしい。


「これは天昇てんしょう様。こちらにお見えになるとは珍しい」


 長身の優男が近づいてきた。



飛燕ひえん富岳ふがくたちは居るか?」


「ええ、揃っていますよ」


 飛燕ひえんと呼ばれた男が答えた。



 他の幹部やその側近たちが並んで天昇てんしょうを迎えた。


「紹介する。柊雷しゅうらいだ。

 飛燕ひえん柊雷しゅうらいに軍の規則やその他、関連すること全て教えてやってくれ」


 天昇てんしょう飛燕ひえんに命令した。



「軍関連、全てですか?」


 飛燕ひえんが確認した。



「ああ、柊雷しゅうらいを軍のトップにける」


 天昇てんしょうの言葉に周囲がざわついた。そして俺に視線が集中した。



天昇てんしょう。いきなりこんな所で言ったら、俺、狙い撃ちじゃん?」


 俺は苦笑いしながら天昇てんしょうに文句を言った。



「ふん、狙われたくなかったら頑張るのだな」


 天昇てんしょうはニヤリと笑って、俺だけを置いて王宮に戻ってしまった。



 残されたオレに周りの気配が集中した。

 飛燕ひえんと呼ばれたヤツと数名、力の強いヤツは俺に敵意はない。

 逆に力の弱い周りの奴らの方が俺に向けてくる敵意が強かった。

 俺は可笑しかった。


「何か可笑しいことでも?」


 俺の顔を見て飛燕ひえんは聞いた。



「別に。変わった生き物だけど、よろしく」


 俺の返事に飛燕ひえんたちの表情が変わった。


 飛燕ひえんたちは俺がここに向かっている間に気配を感じて、俺の噂話をしていた。



「俺、天昇てんしょうと同じで耳がいいんだ。ついでに鼻も利く。

 お前、鳥、飼っているだろ?」


 俺がニヤリと笑って言った。



「貴様!飛燕ひえん様に向かってー」


 側近の一人が怒鳴った。



「やめろ!」


 飛燕ひえんが止めに入った。



「そう、止めといたほうがいいぜ? 俺、強いから」


 俺は消していた気配を一瞬だけ解放した。

 一瞬とはいえ、俺の気配を感じて周りにいた奴らが後退った。



柊雷しゅうらい様、失礼な会話をお聞かせして申し訳ありません」


 飛燕ひえんが俺に頭を下げた。



「…お前、天昇てんしょうに信頼されているんだな?」


 俺の言葉に飛燕ひえんは怪訝な表情を見せた。


「不思議なことじゃない。竜は相手の感情や気配に敏感なんだ。

 けいなんか、もっと凄いぜ?」


 俺は笑った。






 飛燕ひえんは俺に軍関係、他大陸との状況、東の大陸の内部事情など、事細かに教えてくれた。俺は世界の情勢を把握した。


 俺は飛燕ひえんいて前線に出るようになった。

 そして、飛燕ひえんや東の兵の戦い方を学んだ。


 飛燕ひえんは強くで優秀だった。

 他の幹部と言われている魔性も強いだけではなかった。


 俺は天昇てんしょうが力だけではない優秀な奴らを集めていることに驚いた。

 天昇てんしょうはただ強いだけで、この大陸を治めているわけではなかった。


 シオンが何故、俺たちを東に連れてきたのかかったような気がした。





 大陸の北西部で情勢が悪化していた。

 飛燕ひえんの部隊が急遽、駆り出された。俺も飛燕ひえんいて出陣した。


 その地は元々、北の土着の民が居たらしいが、西の魔性が攻撃し内戦が続いていた。追われた北の民が東側に逃げ込んできて東側も巻き込まれたらしい。


 今回、それに乗じて西側の領主が東側に侵攻してきたのだ。

 俺たちは西側との戦いをしていた。



「これは酷いな。東側の被害は?」


 飛燕ひえんはすぐに情報収集し、布陣を組み立て直させた


「目的は領主の城だ。頭を潰す。一般の民には手を出すな」


 飛燕ひえんが命令する。


「先陣隊は周囲を固めろ。逃げ遅れたものたちの救出を。私たちは中央を進む」


 飛燕ひえんの号令に兵士たちが動き出した。



 俺は飛燕ひえんの後方でその様子を見ていた。

 俺は風の匂いが気になった。

 かすかに漂ってくる、その匂いの正体が分からなかったけれど、何かがいる、と俺は感じていた。


 何がいる? 何が起こっている?




 先陣隊が敵陣奥へ進んだ。 その時…。


「‼」


 俺は見つけた! 上級魔性の気配だ!


飛燕ひえん! 兵を退かせろ! 罠だ‼」


 俺は叫んだ。



 その瞬間、城の周辺から火が上がり、辺り一面炎に包まれた。

 先陣隊が炎にまかれていく。それどころか西の民も炎に焼かれていた。

 敵は各所に仕掛けをし、一斉に火を放ち丸ごと焼き尽くそうとしていた。


「何⁉」


 飛燕ひえんは驚き、すぐに撤退命令を出した。



 俺は真っ赤に染まる景色に怒りが込み上げた。

 敵味方関わらずに火を放ったヤツらを許せなかった。

 魔性なら魔性らしく戦えと叫びたかった。


飛燕ひえん、兵の救出を!俺は敵を倒す!」


 俺は飛燕ひえんに向かって叫ぶと、崖から飛び出した。


 崖下から琥珀の飛竜が現れる。

 翼を羽ばたかせ鋭い爪が現れ、戦闘モードに変化へんげしていく。

 体から炎が揺らめき瞳があかく光った。



 俺は上級魔性の気配を追った。そして、そいつと対峙し、力を放った。

 俺の竜の力が、破壊の炎が、一瞬で魔性諸共全てを焦土と化していく。

 俺は全てを焼き尽くした。俺の怒りが竜の力を使わせ続けた。


 俺が戻ってきた時、飛燕ひえんは黙って俺を迎えた。

 そして、俺に深々と頭を下げ、俺に忠誠の姿勢をとった。

 それを見て周囲の奴らもみな同じ姿勢で俺にかしずいた。





 城に帰還したら天昇てんしょうが待っていた。


しゅう、お前、勝手に竜の力を使っただろ?」


 天昇てんしょうは不機嫌に俺に言った。


「不必要に力は使うなと言ったはずだ」


 天昇てんしょうは続けた。俺は黙ったまま天昇てんしょうを睨みつけた。


しゅう、聞いているのか⁉ お前のためにも言っているのだぞ⁉」


 天昇てんしょうは俺の態度に腹を立てた。



 すると一緒に付いて来ていた茗雷めいらい天昇てんしょうの前に立ちはだかり、桂雷けいらいが俺の元へ駆けて来て俺に抱きついた。二人とも俺を庇おうとした。


 茗雷めいらい桂雷けいらいの行動を見て天昇てんしょうが苦虫を嚙み潰したような顔をした。



「このクソ親父おやじ…」


 俺がボソリと呟いた。


 茗雷めいらい桂雷けいらいが驚いた顔で俺を見た。天昇てんしょうの顔に怒りが現れた。



しゅう、今、何と言った?」


 天昇てんしょうが低い声で聞いた。



「クソ親父だよ! 俺たちの育児なんかしなかったくせに! 何、父親面してんだよ⁉」


 俺は叫んだ。


 天昇てんしょうの顔が怒りで赤くなっていく。隣で月読つきよみが狼狽えた。



 すると、急に笑い声が響いた。茗雷めいらいがお腹を抱えて笑っていた。


 「確かに!月読つきよみは添い寝してくれたけど、天昇てんしょうなんか扉の隙間から覗いていただけだものね」


「ホント。月読つきよみは一緒にお風呂にも入ってくれたけど天昇てんしょうは何もしなかったよね?」


 桂雷けいらいもクスクス笑い出した。



月読つきよみ⁉ お前、けいと風呂に入っているのか⁉」


 桂雷けいらいの言葉に驚いた天昇てんしょう月読つきよみを見た。月読つきよみは焦ってオロオロしている。



天昇てんしょう様! 王宮に戻りましょう」


 天昇てんしょう月読つきよみに引きずられるように王宮に戻って行った。






 天昇てんしょうの姿が見えなくなって柊雷しゅうらいたち三人は顔を見合わせた。


「やったー! 俺たちの勝ち!」


 三人は手を合わせて笑い合った。



 飛燕ひえんが呆気に取られている。


「あの、もしかして今のワザとですか?」


 飛燕ひえんが聞いた。



「ああ。でも途中で天昇てんしょうは気が付いている。月読つきよみはマジメだから分かってない」


 柊雷しゅうらいがニヤリと笑った。


「言っただろ?俺たち竜は敏感なんだ。

 俺たち三つ子だ。お互いに共鳴するし、かり合える。

 俺たちは三人で一つだ。お互いが命なんだ」


 柊雷しゅうらいが言った。



しゅうのこと、よろしくお願いします」 


 飛燕ひえんに向かって茗雷めいらいが軽く頭を下げた。桂雷けいらいはクスリと笑った。



飛燕ひえん。俺、まだ軍のトップにはかないぜ? 飛燕ひえんが代わりにしてよ」


 飛燕ひえん柊雷しゅうらいを凝視した。何を言っている?という顔をしている。


「俺、一緒に行動しているヤツが四人いる。そいつらと一緒に居たいから」


 柊雷しゅうらいは笑って答えた。



「そんな理由ですか?」


 飛燕ひえんは呆れた。



 確かに柊雷しゅうらいがいつも人間の四人と一緒に居ることは知っていた。

 飛燕ひえんは以前から柊雷しゅうらいのことを知っていたのだ。

 しかし、天昇てんしょうから軍のトップにけと命令があったのに、かないと言う。

 しかも理由が理由だ。飛燕ひえんは竜の考えは変わっていると思った。


 天昇てんしょうも呆れた。

 柊雷しゅうらいに何を言っても無駄だとかっていたから、柊雷しゅうらいの好きにさせた。



 柊雷しゅうらいは人間の四人が自分と共に行動出来ると判断するまで待っていた。

 そして、時期がきたときに四人を自分の側近として従えて、軍のトップにいた。


 四人は人間でありながら竜の柊雷しゅうらいのために盾となり、柊雷しゅうらいを守り、柊雷しゅうらいのために尽くした。


 柊雷しゅうらいはそれまでいた幹部の飛燕ひえん富岳ふがく羅漢らかん葛篭つづらも大切にした。

 天昇てんしょうが集めた優秀な部下を重用した。



 柊雷しゅうらいは強い組織を作り上げた。


 強いだけではなく、お互いを想い、天昇てんしょうのため、東の大陸のために尽くすことに

 重きをおいて、横の繋がりを重視した。


 強さだけを基準とする魔性の中にも変化が現れ始めた。


 飛燕ひえん柊雷しゅうらいのやり方に感心した。


 盾の四人はもちろん、幹部たちみなが柊雷しゅうらいに忠誠を誓った。

 幹部たちは柊雷しゅうらいの一挙手一投足を逃さないように気配を集中し、柊雷しゅうらいのために尽くした。柊雷しゅうらいもそんな彼らを大切にした。



飛燕ひえん天昇てんしょうが今まで守ってきたこの東の大陸を俺はもっと良くしたい。

 平穏な地にしたい。みんなが笑顔で過ごせる地にしたい。俺に力を貸してくれ」


 柊雷しゅうらい飛燕ひえんに向かって言った。


 飛燕ひえんは微笑み、柊雷しゅうらいに忠誠の姿勢を取った。



 柊雷しゅうらいのこれからの長い時間が動き始めた。




                                fin

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