探し物とガトーショコラ②


全力疾走のかいあって額には多量の汗がにじみ心拍もかなり上がっている。


「達右遅いぞー 席に着けー」


恐る恐る教室に入ると教壇には先生が既おり、クラスのみんなの視線を一気に集めた。

遅刻してしまったかと思い時計を見ると時刻は三十分を回っておらずほっと安堵した。


「すみません」


僕は謝り自分の席に腰をかける。

「達右くん汗だくだけど大丈夫?」


僕の隣の席の青木さんが心配そうに尋ねてきた。


それもそうで二月の寒い時期に汗だくで登校してくるものなら誰でも心配になるだろう。


「ああ、美術室に筆箱忘れちゃってさ、それ取りに行ったら汗かいちゃってさ」


僕はブレザーを脱ぎ、ワイシャツの袖で汗を拭う。


「そっかそっか達右もそういう一面あるんだね、なんか意外」


「そうかな.....はは」


彼女が普段思い描いている僕とギャップがあったのが意外だったのだろうか。


「達右くんこれ使う?」


彼女はチューリップの刺繍が施されているハンカチを手渡してくる。


「いや流石にそんな綺麗なハンカチを借りるのは申し訳なさすぎるんだけど」


「いいよ全然、洗って返してくれればいいし」


「いや.....でも」


僕が借りることに躊躇していると彼女は僕の腕を掴み強引にハンカチを握りこませてくる。


「青木さん?!」


僕は彼女のいきなりの行動に動揺してしまう。


「いいから使って!」


彼女は僕の腕から手を離すとそのまま黒板の方を向いてしまう。


「ちょ、これ....」


僕はにハンカチを渡そうと青木さんに手を伸ばすと


「ホームルーム始めるぞー」


タイミング悪く先生のホームルームを開始する挨拶が聞こえ伸ばした手が自然と引っ込めるしかなく、結局青木さんからハンカチを借りることになってしまった。


ホームルームが終わり一限までの余裕がある。


「青木さん」


僕は青木さんの名前を呼ぶと彼女がこちらを振り返った。


「さっきはハンカチありがとう、今度洗って返すよ」


「ううん、全然気にしないで」


彼女はスカートの裾をつかみ俯いている。


青木さんは僕が困っいると毎回助けてくれるのだが、その優しさが嬉しい半面、助けられてばかりで僕が何も返せていない歯がゆさを感じる。


「今日の一限目ってなんだっけ?」


「えーっと古典だった気がする」


「古典か〜、僕古典の相澤先生苦手なんだよね」


「えーどうして?」


「いやさ、説明の仕方がわかりにくくない?そのくせわかってるだろ感出してくるところがさもう」


古典の相澤先生はとにかく話がわかりにくい。ストレートに説明すればいいものをあえて回りくどく説明をするくせがあり、現代っ子の僕からすると毎回結論から話して欲しい。


「確かに相澤先生わかりにくいよね〜、でもその分話が長いから授業としては楽だよね」


「まあね」


楽と言われれば楽なのだが、刺して面白くもない話を長々と聞かせれるのもこれはこれでキツイ。


「そいえば今日来た時から気になってたこと聞いていい?」


「うん何かな?」


「間違ってたらごめんなんだけど、青木さん髪切った?」


「えっあ、うん切ったけどなんでわかるの?」


彼女は驚いたのか言葉に詰まった様子だった。

「いや昨日と違うなって思ってさ」


僕は昔から人の変化を見逃さすことができない。それが大きくてもどんなに小さくても何かあるのではと考えてしまうくせがある。


「ちょっとだけ短くしたんだよね、どう....かな?」


彼女は髪をすくいあげ耳にかける。


「とっても似合ってると思うよ」


青木さんが隣になって数ヶ月経つが彼女はよく髪を切ってくる。毛先を整えたい理由などもあるだろうが、それにしても切りすぎのような気がする。


「ほんと!ありがとう。男の子って女の子の変化に鈍感だと思ってたけど達右くんはそうじゃないんだね」「まあいつも見てるからね」


「ふーん、そっか」


彼女は口角があがり次第に顔が緩んでいく。


「前から思ってたんたけど達右くんはクラスの人となんで仲良くならないの?喋ったら案外面白いし結構友達できそうだと思うんだけど」


「別に仲良くしたくないとかじゃないよ、現に青木さんとは仲良いし。ただ距離取られちゃうっていうかあんまり深い中にならないんだよね」


みな僕を避けているわけではないと思うのだが、どうも距離を取られている感が否めない。


「あー何となくわかる気がする、達右くんって自分が気になったことなんでも聞いてくるでしょ。だからみんな距離とっちゃうじゃない」


「そうかな?でも気になったこと聞きたくたい?」


「聞きたいけど、聞いちゃいけないこととかあるじゃん。それを聞いちゃうから達右くんは良くないんだって」


「なるほど」


確かに相手に質問をして渋い顔をされてことは何度かある。あれが聞いちゃいけない質問だったことを悟った。


「だって初めて話したの覚えてる?筆箱変えただからね。初対面で話したことない相手にそれ言うって話」


彼女は思い出したのかくすくすと笑っている。

「いや.....あの時は青木さんの筆箱が変わってるなって思ってつい話しちゃってさ」


「まあ私はあんまり気にしないけど、他の子だったらびっくりする子とか嫌がる子とかもいると思うから、聞いていいのかダメなのかしっかり考えてから聞いた方がいいよ達右くん」

「わかったよ」


と言っところで始業のチャイムが鳴る。


「一限目始まるよ!ノートと教科書出した?」


僕の机に何も置かれていないことを見越すかのように青木さんは心配してくる。


「今出すよ」


古典の相澤先生が教室に入室し授業が始まった。

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