【怪談】パーキングエリア【静岡県周智郡.2012】


 始めまして。


 M.starさんのSNSのポストを見て、ちょっと思い出した出来事があったので連絡しました。


 というか、すいません、これ、多分怪談でも何でもないんですけど。


 というか、『イワナベミズコ』に関係しているのかもわからない事で……。


 ただ、過去の奇妙な体験をお話させていただこうかな、と。


 私、愛知県に住んでおりまして、休みの日にはちょっとドライブするのが趣味でして。


 高速でも国道でも、目的地を決めずにただただ車を走らせる時もあります。


 これは、確か……今から10年以上も前の事なんですけど、2012年の夏だったと思います。


 その日、私は静岡の方にドライブに向かいました。


 目的地は清水のエスパルズドリームプラザ。


 寿司を食べたり海を見たり、気の向くままに適当に過ごして、帰る事にしました。


 新東名を下って帰ってくる途中、周智郡辺りの、あるパーキングエリアに立ち寄りました。


 長閑な田舎の風景の中に、売店と食堂が一緒になった施設。


 あとトイレがあるだけのこぢんまりとした、でも出来たばかりなのでまだ綺麗なパーキングエリアです。


 自販機でコーヒーを買って、それを啜りながら適当にエリア内を散策していたら、あるものに気付きました。


 そのパーキングエリア、歩いて高速の外に出られる出口があるんです。


 あ、従業員とかの通路とかではなく、一般人も通れるように柵の一部が扉になっていて。


 で、出たところがちょっとした山の山頂にそのまま繋がっていて、そこにあるお寺をお参りすることが出来るんです。


 別に、そこまで有名なお寺ってわけではないんですけどね。


 とはいえ、ちょっと興味が湧いたので、立ち寄ってみました。


 木々が生い茂った山中に、小さなお堂がありました。


 お寺の歴史とか、過去に戦国武将の誰々が陣を張った事があるとか、詳しく書かれた看板が設置されていました。


 木に覆われているから空気も冷たく、夏にしては涼しい空間でした。


 鳥や虫の鳴き声に包まれて、ちょっとした森林浴気分が味わえて、普段の忙しない都会暮らしで溜まったストレスが浄化されていく感じでしたね。


 その時でした。


「こんにちは」


 今し方自分が来たパーキングエリア側の風景を眺めていたところで、背後から声を掛けられました。


 振り返ると、お婆ちゃんが立っていました。


 年齢は70代くらい。


 ハイキングっぽい格好をしていますが生活感があって、一目で地元の人だってわかりました。


 お婆ちゃんはニコニコと笑みを浮かべて、もう一度口を開きました。


「こんにちは」


 私も、「こんにちは」と会釈を返しました。


「お出掛けですか?」


 田舎の人らしい気さくさで、お婆ちゃんは私に話し掛けてきます。


 こうして地元の人と話をするのは嫌じゃないので、私も返答します。


「ええ、愛知県の方から遊びに来まして、帰る途中なんです」

「はい」

「お母さんは山登りですか? それとも、こちらのお寺に――」

「『わたなべみつこ』?」


 ……ん? と、違和感を覚え、言葉を止めました。


 今、何か、会話が成立していなかったような。


「はい?」

「『わたなべみつこ』?」


 聞き返した私に、お婆ちゃんはその言葉を繰り返します。


「ええと、あの……」

「『わたなべみつこ』?」


 声の調子は最初のまま、表情も笑顔のまま、何もおかしな感じはしません。


 ただ、ただそこから、同じ質問……質問? ええと、質問だったのかな?


 同じ、名前? ……多分、名前、ですよね?


 名前を、繰り返し繰り返し、私に投げ掛けてくるんです。


「『わたなべみつこ』?」

「すいません、それは……」

「『わたなべみつこ』?」

「あの……」

「『わたなべみつこ』?」

「………」


 何度も聞かれている内に、私も気味が悪くなって「すいません」とだけ呟いてその場を後にしました。


 元来た道を歩いて、パーキングエリアに戻る寸前、私は一度だけ振り返りました。


 お婆ちゃん、私を追って道を下ってきていました。


 あの笑顔のまま……ニコニコとした笑顔のまま、木々に日光が遮られた薄闇の中で、私を見ていました。


 私は急いで車まで戻ると、すぐにエンジンを掛けて出発しました。


 ……これが、昔あった、奇妙な体験です。


 はい、そうです、お婆ちゃんの言った『わたなべみつこ』って言葉。


『イワナベミズコ』に似てるなって、ちょっと思いまして。


 というか、私が聞き間違えただけで、本当は『イワナベミズコ』って言ってたのかも。


 それで、今回ご連絡をしたわけです。


 ……ただ、今思い返してみたら、これ、別に怖い体験でもなんでもないかなって思えてきて。


 お婆ちゃんの言葉も、もしかしたら方言とかで全然別の事を聞いてたのかもしれないし。


 追い掛けてきたのだって、いきなり背を向けて歩き出したのを、体調が悪くなったんじゃないかって心配して見に来てくれただけかもしれないし。


 多分、急いで追い掛けてきてくれたんでしょうね。


 顔も少し赤くなってたように見えました。


 今更ですけど、失礼な事しちゃったかも……。

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