『イワナベミズコ』の怪談を聞かせてください。1


『イワナベミズコ』の怪談を探しています。


 完全一致でなくても、それに類似した名称が登場する、または関係していると思われる人物、動物、建造物、場所、事件、文言等が登場するものであれば、どんなものでも構いません。


 どうか、ご協力下さい。


『イワナベミズコ』の怪談を聞かせてください。




      * * * * * *




 私――三星永羽みほし・とわは、都内在住のフリーライターである。


 主に受け持っている仕事は、オカルトやホラーを特集する雑誌の記事執筆……だった。


 今の世の中それだけでは生活できないので、今は企業ブログやコラムの寄稿、YouTube動画の台本やゲーム・漫画のシナリオ執筆、広告や販促物のコピーライティング、最近ではSEO記事、等々、幅広く手掛けている。


 何でも出来るオールラウンダー……というより、浅く広く手を付けて何とか糊口を凌いでいるという感じだ。


 さて、そんな私にとって数少ない趣味の一つに怪談の収集がある。


 職業柄、様々な人にインタビューをする事が多く、その際に記事内容とは直接関係の無い事でも、不思議な話であれば積極的に聞かせてもらっているのだ。


 知人から、はたまた知人の知人から。


 怪談を持つ知り合いがいるという事であれば、ツテを使って伺いに向かうほど、私は怪談収集に没頭しているのである。


 更に最近は、SNSを通じて「怪談をお持ちの方、お待ちしております」とDMで募集を掛けたりもしている。


 本業のネタになればありがたいというのもある。


 願わくば、好きなジャンル一本でやっていけるほどの……大きな仕事に繋がるような何かが手に入れば……そう、夢を描いていないわけでもない。


 それでも、やはりここまで熱中しているのは、ただ単純に怪談が好きだからだろう。


 そんな趣味嗜好を持っていたからこそ、私は出会ってしまった。


 複数の怪談に登場する謎の文字列――『イワナベミズコ』に。




      * * * * * *




 気付いたのは、私がインタビューで伺った最新の怪談――『穴を掘る女』を文字起こししている最中のことだった。


「……あれ?」


 この怪談は、北海道釧路市在住の50代男性からメッセージをいただき、お話してもらった彼の実体験――いわゆる、実話怪談である。


 東京都内の私の家と、北海道の彼の家をオンラインで繋ぎ、カメラを通じて語ってもらった。


 プロの怪談師とは違い、話術を持たない普通の人が実体験として語る怪談は、それ故に強いリアリティーを感じ、わくわくする。


 そういう点も、私が一般人から怪談収集を行う理由の一つである。


 特に今回は、その現場で撮ったというお写真まで見せてもらうことが出来た。


 満足した私は彼にお礼を告げ、早速この成果を文章に直しコレクションの一つにしようとした。


 その途中、タイピングする指が止まった。


 ちょうど、男性が見せてくれた写真――その中に映っていた、歪な長方形の木の板。


 彼が出会ったという、寄生されたカタツムリの触覚のような目を持つ女……その女が地面の下に埋めたと思われる、謎の木の板に書かれていた文字を書き上げたところだった。


『祝鳴戸みず湖』


「……いわな……べ」


 その並んだ文字を、ふと口に出した瞬間。


 私の脳裏に、強烈なデジャビュが起ったのだ。


「私……この文字、前にも見たことがある?」


 いや、この文字というより……そう、『いわなべみずこ』。


 その響きに、聞き覚え? 見覚え? があったのだ。


 誰かの名前? ペンネーム? ライターネーム? モデルさんの……カメラマンの方? 編集者?


 いや、違う。


 そういうのじゃない。


「そうだ、確か……」


 私は過去に私が聞き、そして保管してきた怪談のファイルを開く。


「どれだっけ……ええと、確か、あの、群馬県の」


 一つ目の怪談はすぐに発見できた。


 それは、2023年に群馬県高崎市に在住の男性から聞いた、『真っ赤な人』というタイトルの怪談だった。


 真っ赤な人――全身の皮膚が赤く、目と口が闇のように黒い、笑顔の怪人。


 その怪人と出会った語り部の男性の脳内に響き渡る、『イワナベミズコ』の文字。


「……そうだ」


 そこで、捩れていた糸と糸が解けるように、更に思い出した。


 2017年に聞いた怪談。


 千葉県成田市で暮らす男性が、2014年当時(各怪談のタイトルには、体験当時と思われる年代を予測し付けている)九十九里町沿岸で遭遇した怪現象。


 そこにも、『イワナベミズコ』と、あの“真っ赤な人”が登場していた。


 この怪談は、少々特殊な事情があって私も読み返す事が少なく、それで記憶から抜け落ちてしまっていたのだろう。


 とにもかくにも、私が数年を掛けて聞き集めてきた怪談の数々――その中の三つに、類似した単語が登場している事が判明した。


『イワナベミズコ』


『祝鳴戸みず湖』


「……いわなべみずこ……どういう意味?」


 この単語は、一体何を意味しているのだろう。


 GoogleやYahoo!等の検索エンジンで調べてみたが、詳細は不明。


 しかし、何か、奇妙な因縁のようなものを感じるのは事実だ。


 北海道、群馬、千葉……登場する年代もバラバラだが、その全てに『イワナベミズコ』という文字(言葉)が関わっている。


「もしかしたら……日本中を探せば、まだ『イワナベミズコ』が登場する怪談が見付かるかもしれない」


 完全な好奇心だった。


 私は、自身のSNSに、こんな内容の投稿を行った。




『イワナベミズコ』の怪談を探しています。


 完全一致でなくても、それに類似した名称が登場する、または関係していると思われる人物、動物、建造物、場所、事件、文言等が登場するものであれば、どんなものでも構いません。


 どうか、ご協力下さい。


『イワナベミズコ』の怪談を聞かせてください。




      * * * * * *




 その先で恐ろしい真相と出会う事になるとは、この時はまだ知る由もなかった。

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