19 花上に騒ぐ
「やあやあおかえり二人とも」
「遅かったわね。どこまで行ってたの?」
イルを連れて花畑の方へ戻ってみれば、テリアとリオル兄さんがシートの上で向かい合っていた。テリアの方は座っているだけだが、手頃な石の上に座り込んだリオル兄さんは、なにやら妙なものを手にしていた。
「なんですか、それ」
「これはね、アコースティックギター」
「知ってます。そうじゃなくて」
問題はなぜここにあるのかということだ。大方、出発前に船に積んでいたんだろうけど……
「今からこのギターを使って、ワタリドリをここに呼び寄せるんだ」
「呼び寄せるって……どうやって?」
「おや? ジオなら知ってると思ってたんだけど」
そうは言うけれど、俺の知識も随分偏っているからな。ましてやここ最近は……あまり自分から、何か調べたりはしていなかったし。
「リオルさんが言うには、ワタリドリは音楽が好きなんですって!」
「へぇー……音楽が?」
意外だ。もちろん、魚が大きな音に引き寄せられるって話は聞いたことがあったけれど、正直なところ鳥には真逆のイメージを持っていた。実際、飛行船の近くを飛ぶ鳥を追い払うために、最近の船にはスピーカーが備え付けられてるって話も聞いたくらいだったし……
「音楽っていっても、なんでもはダメなんだよ!」
「……そうなのか?」
「うん。ジオみたいに音痴だと、近付くどころか逃げちゃうからね!」
随分な言いぐさだが、イルも知っていたとは驚きだ。いや、もしかすると出発前に、リオル兄さんから伝えられていたのかもしれないが。
「事情は分かりましたけど、引き寄せるったってどうするんです? うちの船にはスピーカーなんてありませんよ」
「君がそう言うと思ってね、ほら、テリアさん」
「はーい」
そう言って彼女が構えたのは、俺がいつも使っているラジオ付きベルトだった。とっさに探ってみたら、確かに腰には無くなっている。どうやら一度気を失っているうちに、身ぐるみをはがされていたらしい。
『あー、あー、あー。ラララ~』
「ああ……俺の船から」
「そういうこと」
ラジオのマイクを手に発せられたテリアの声が、みかん箱の方から聞こえてきた。どうやら修理のついでに、勝手に改造されてしまったようだ。
「事情は大体分かりました。ただ……」
「ただ?」
「実はさっき、イルを追っていった先で、変な人に会ったんです」
別に口止めされているわけでもないので、森の中で会った覆面の女性と、彼女に言われたことについて共有しておく。
「なにその怪しい人……」
「あからさまな不審者じゃないか。危なかったね」
「ええ、本当に」
言いながらイルに視線を送ったが、彼女は俺から目を逸らして、テリアの方へ駆けて行ってしまった。調子のいいヤツめ。
「まあ、鉱山街はここから結構離れてるし、問題はないんじゃないかな」
「そうですかね?」
「うん。ていうか、ワタリドリを引き寄せるのに都合のいい平地って、そこまで多くは無いからさ……」
言われてみれば、この花畑は周囲の森に比べて随分と開けているように思う。自然豊かなルヴェールの中で、平坦で視界の通った場所なんて、ここか湖か街くらいのものだろう。
「だったらまあ、止めはしませんよ」
「おや、協力してくれないのかい?」
「大した力になれませんし、どうせ俺は音痴ですから」
自分で言ってから、まるで拗ねているみたいな口調になってしまったと思う。それで丸切り誤解でもないのが悲しいところだが、正直なところ俺に何かできるようなことはなさそうな気がするのだ。
「へえ、大した力になれない、ねぇ……」
なんて会話を続けていたら、話を聞いたテリアが走り寄ってきた。
「もうジオット、なーに言ってるのよっ!」
「うわあ!? なんだよ!」
そのまま立ち尽くした背中を勢い良くバシンと叩かれて、思わず抗議の声を上げてしまう。
「あらあら、ひょっとして覚えてないのかしら?」
「……なにが?」
訪ねた途端、テリアは背中の翼をひょこひょこと動かしつつ、いたずらっぽく俺に笑った。
「この島に着く前に話してた、私と歌って踊るってヤツ! また今度って言ってたでしょ?」
「……あ」
「こんな絶好の機会があるのに、またまた逃げたりしないでしょうね?」
参った。言い訳めいた口約束とは言え、確かに覚えている話題を引っ張り出されてしまっては、誤魔化してしまうのも気が引ける。
「まあ……別にいいけど、俺が歌える曲なんて知れてるぞ?」
「それについては大丈夫! ですよね、リオルさん?」
「うん。さっき伝えた通りだよ」
何の話だろう。と思って、先ほど彼らがギターに対して向かい合うように座り込んでいたことを思い出す。
「せっかくだし僕らのオリジナルで行こう。メロディは任せてくれていいから、君らが歌詞を考えてくれ」
なんていうか……無茶ぶりのレベルが上がってないか?
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