第3話『雨上がりの校庭』
雨上がりの校庭。春の風がまだ湿った土の匂いを運んでいた。
剣哉は体育館の隅に立ち、竹刀を握りながら素振りを続ける。
水たまりを踏むたびに靴底が少し跳ね、竹刀の音が静かな空気に響く。
剣哉(独白)「中段の構え……まだまだだ。桜先輩に少しでも近づきたい……」
そのとき、校庭の向こう側から足音が近づいてきた。
振り向くと、そこに立っていたのは――山口桜先輩だった。
雨に濡れた袴の裾が軽く揺れ、竹刀を持った姿は凛としていた。
桜「こんなところで練習してるの?」
剣哉「あ、はい……つい、今日の感覚を確かめたくて」
桜「ふふ、熱心ね」
その声は澄んでいて、ほんの少しだけ柔らかさを帯びていた。
剣哉は思わず目を見開き、竹刀の握りが少し強くなる。
剣哉(独白)「……やっぱり、近くで見ると全然違う。かわいい……」
桜先輩は軽くうなずき、竹刀の先を天井に向けてこう言った。
桜「中学からやってたのね。じゃあ、入部も近そうだね」
剣哉「はい! 入部したら、精一杯頑張ります!」
その瞬間、校庭の隅から足音が近づいてきた。
高3部長、編切祐介が現れ、真剣な目で剣哉を見つめる。
編切「……新入生か」
剣哉「あ、はい……まだ正式には入部していません」
編切「構え、悪くない。入部したら手を抜くなよ」
剣哉「はい!」
桜先輩と部長が同じ空間にいる――それだけで、剣哉の心は静かに震えた。
竹刀を握る手に力をこめ、再び素振りを始める。
春の風が吹き抜け、雨上がりの校庭に竹刀の音がかすかに響いた。
剣哉は再び素振りを続けながら、心の中で桜先輩や部長の姿を思い浮かべる。
剣哉(独白)「まだまだ……もっと強くなる。桜先輩にも、部長にも、認められるくらいに」
そのとき、桜先輩が静かに歩き去ろうとした。
しかし、ふと足を止め、ちらりと振り返った。
桜「ふふ、頑張ってね」
小さく笑ったその表情は、春の光に溶けるように柔らかく、剣哉の胸に温かく残った。
剣哉(独白)「……あ、あの笑顔、絶対忘れられない」
竹刀を握る手に力を込め、剣哉は再び構えた。
雨上がりの校庭に、夕陽とともに、新しい決意が静かに燃え上がっていた。
ーー練習帰りの桜は、夕暮れの校庭を通って帰路につこうとしていた。
体育館から吹き抜ける春風に袴の裾が揺れ、竹刀を片手に歩く足取りは自然と軽やかだった。
桜(独白)「今日の練習も集中できたかな……」
家に向かう途中、桜はふと思い出す。
昼休みや放課後に、校庭や体育館の隅で自主練している新入生がいたことを――。
桜(独白)「あの子、まだ入部してないけど……真面目に練習してるなぁ」
家に帰ると、制服を脱ぎ、親友の夏希に電話をかけた。
桜「もしもし、夏希?」
夏希「おー、桜! 今日の部活どうだった?」
桜「うん、いつも通りだったけど……そういえば、気になる新入生がいたんだ」
夏希「え、誰?」
桜「まだ正式には入部してないんだけど、校庭で自主練してた子。真面目で、竹刀の構えもきちんとしてて……なんだか目を引いたの」
夏希「ふーん、剣道部もなかなか熱い新入生が来たのね」
桜「うん……今後が楽しみかな、くらいかな」
その後少し話してから電話を切ると、窓の外に沈む夕焼けを見つめた。
校庭で見た姿――竹刀を握って黙々と素振りする新入生が、頭の片隅に残っている。
桜(独白)「ああいう子が部活に入ったら、いい刺激になるだろうな……」
春の風が部屋のカーテンを揺らす中、桜の胸の奥に、ほんの少しだけわくわくする気持ちが芽生えていた。
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