桜の木の下にはさ

白香

掘ってみたくならない?

「桜の木の下には屍体が埋まっている。なーんて言うけどさ?」

そう言ったのは、千羽 神奈だった。

「じゃあ、他はどうなんだろうね?」と問われる。「うーん、どうなんだろう。確かに、他の木も掘ったことがない。というか、木の下を掘ろうって考えることがまずないからね。」

「やっぱり、そうだよね。」

「桜の木の下だって掘ったことがないし、本当に屍体が埋まっているかは分からないよ?」と言うと、待ってました、と言わんばかりに「そうだよね?!じゃあさ…ちょっと掘ってみない?私じゃ、掘る力強くないから。」

いつものパターンだ。いつもこうやって振り回されている。一度やると決めたらテコでも動かない。「掘るって言っても、桜にも色々あるじゃん?」「じゃあ、あの告白スポットの桜の下を掘ろうよ!」と食い気味に提案される。

ここの学校には、桜の下で告白すると、必ず成功するとか言う迷信…言い伝えがあるのだ。

「なんか、バチが当たりそうだけど…」

「いいのいいの。大丈夫。多分。」不安になる。


「それはそうと、もし本当に、屍体が埋まってたらどうするつもりなの?」「その時はその時。蓮がいつもみたく何とかしてくれるでしょ?」

やっぱり俺だよりか。

「言っておくけど、怖いのは苦手なんだ。別に死体が出てきたから逃げるとかはないと思うけど。」少し怖がってる。「え、守ってよ?後ろにいるからさ」「分かったよ…」とは言うものの、言葉とは裏腹に恐怖の感情が出てくる。


「…やっぱりさ、屍体が出てきたら怖いじゃん?」

「めちゃくちゃ怖がってんじゃん!」「そりゃそうだろ!屍体なんて見たことないし!」と押し問答のようになる。


「桜以外にも掘らない?」と提案してみる。

「いいじゃん!それ。何の木掘る?でも、木じゃなくても、良いのかもね。」「と言うと?」

「ほら、たとえば…うーん。花壇とか?」「掘っちゃダメだろ。」「そうだよねぇ…やっぱり花も根っことか掘っちゃダメだし、木が一番良いよね。梅とかはどう?」「いいね。じゃあ梅だ。先に梅ね。桜の木の下に本当に屍体が埋まってたら困るからな。予行練習みたいな。」「なにそれ」鼻で笑われた気がする。


「次の、お休みの日にしようよ。」と彼女が言う。「なんで?今からでもいけるんじゃない?」と聞いてみる。「今からだと、掘るの大変だし、1日に二つの木を掘るのって、掘り返す訳ではないけど、大変そうじゃん?準備も必要でしょ?」うん、確かにそうだ。「だから、土曜日、日曜日に集まって、土曜日に梅、日曜日に桜でいいんじゃない?」ちゃんとしている。神奈の割に。計画が練られている感じがする。「雨が降ったらどうすんだ?」「あ」 図星かよ。

「その時はまた今度にしようよ。それでいい?」

「分かった。」そう言って学校を後にした。少し、楽しみだ。


土曜日、待ち合わせ場所は公園だ。公園の梅を掘るらしい。神奈曰く、ちょっとだったら掘ってもバレないバレない!って言っていた。いい加減だ。


「ごめ〜ん!待った?!」と言いながら大慌てで走ってくる。「いや全然。今来たところ。スコップもあるし準備完了したぐらい。早速掘ろうか。」「うん!よろしくね!」


掘り進めること数10分、何も出てくる気配がない。深く掘ったら怒られるかなと思って、チキりながら掘る。そうすると、「もうちょっと掘れるんじゃない?」と後ろから野次が飛んでくる。「人様に迷惑かけられねぇだろ?だからそんなに掘りたくないんだ。」「蓮そういうところあるよね。」どういうところだよ。


カツン

「ん?」「お?」何かに当たったことに気づいた。神奈も変な音に気づいたらしい。

「ねぇ!蓮!何だろうね!ワクワクしない?」

「ちょっとする。けどカツンって言ったよ。骨だったらどうするの…」「…絶対そんなことないって!」嘘つけ。今固まっただろ。


そうして、何が音のした先を細かく掘り進める。心なしか神奈との距離が少し離れた。古いロボットのおもちゃが出てきた。

「…なんだこれ?」これには神奈も意外だったようで、後ろでポカーンと口を開けていた。

「いかにも子供向けのおもちゃ…って感じだな。これ。もしかしたら、誰かがタイムカプセルみたいに埋めたんじゃね…?」…「戻しておこっか。」


その後、そっと戻した。誰かの思い出の蓋を開けてしまったかもしれない。少し沈黙していると、神奈がそれを振り払うように言った。

「あーあ!蓮が怖がってるところ見られると思ったのに。」何をいうんだ。「はー!?それを言うならお前だって怖がってただろ?!」「そんなことないもーん!」と、また押し問答になった。結局、その日は何も収穫は得られなかった。

桜の木の下には屍体が埋まっている然り、

梅の木の下にはロボットが埋まっている。


神奈と別れたその日の夕方、少し桜を掘るのが怖くなった。今日だって、梅の木から何も出てこないだろ、と思っていたらロボットが出てきた。所詮、出てくるものはその程度かもしれない。ただ、本当に屍体が出てきたら…?ああみえて、神奈も怖がりである。


神奈を守るためには、先に桜の木の下を掘って確認するべきだろうと思った。もし、屍体があれば、警察に通報するか、適当にその辺に捨てよう。何もなかった、って終わるのが一番平和に終わる。


そう思って、家に帰ってから、学校の桜の木の下まで行った。土曜日、部活も終わったから、しぃんと静まり返った学校で一人で桜の木の下を掘るのは、もう、不審者なんじゃないだろうか。

そう思いながら、掘り進めていく。

すると、土とは違う、土とは似た感触の何かにぶつかった。


「…え」



日曜日、待ち合わせは学校だった。

いつも通り神奈が遅れそうになりながら、学校に来る。「今日土掘るだけなら、そんな可愛い服着なくてもいいでしょ…。」

「可愛い?ありがとね。でも私は掘らないからね。蓮が掘るから!」他力じゃん。

「何が出るかな、本当に屍体が埋まってたりしちゃうのかな〜?!」とか言ってる割に、彼女は余裕そうだった。一通り掘る。何か出るかもしれない。「何もでないんだけど。」そう言うと、神奈は えっ…?と驚いたような顔をしていた。「本当に?いや、何かあるかも、もうちょっと掘ってみてくれない?」と言われて、掘る。もちろん、何も出ない。

「うそ…?ちょっと、スコップ借りていい…?」

「掘る気、無かったんじゃないの?」「うるさい。早く貸して。」と言われて、スコップを渡す。

神奈は何かを探すように、必死に掘った、服が少し汚れようとお構いなしだ。やがて、疲れたのか。止まった。「なんで…ないの…?」泣いている。「何か、探してたのか。」「うん、そうなんだけど、なくて…」「…まあ、ちょっと、後ろにいてよ。」泣いている彼女を後ろに下げ、桜の木の下に立つ。


「これを掘り当てたあなたはとても幸運です。」

神奈がそれを聞いた瞬間、涙が引っ込んだ。

続け様に読む。

「私は、好きな人がいます。きっと、あなたです。でも、いつもは面と向かって言うことができないんです。だから、手紙にしようと思いました。桜の木の下なら、きっと言えるって、勇気が出るって思ったから、埋めました。

私はあなたに告白します。返事は、あなたの後ろの人にお願いします。」


一通り読み終わると、神奈は真っ赤な顔をしていた。「ごめんね。」と言おうとした瞬間にビンタが飛んでくる。痛い。桜の木の下には紅葉も咲くのか。


「昨日、やっぱり、怖くなっちゃって。学校に来て、少し掘ってみたんだ。そうしたら、これが出てきちゃって…。多分、神奈は今日これを僕が見つけるって言う算段だったんだと思う。」

少し、怒っているような、不機嫌なような、でも嬉しそうな、神奈は頷いた。

「だからと言って、見つけたって言うのは違う。だから、一芝居打とうと思って。」と言ったら、神奈が抱きついてきた。「本当に、亡くなったのかと思った…。受け取ったのが、蓮でよかった。」と涙を流しながら言う。再度「ごめんね」と言った。

「それで、返事なんだけど」

そういうと、神奈は離れる。

「まず、こんな遠回りじゃなくてよかったと思う。」おそらく予想外の返事だったのだろう。「それに、こんな紙にそんなに服汚しちゃって、僕のために来てきたんでしょ?」小さく頷く。恥ずかしそうに。

「でもね。」

「そんな神奈が好き。これが僕の返事だよ。どうかな?」嬉しそうだ。正解らしい。


「嬉しい…」と弱々しくいいながら駆け寄ってくる。抱きつく力が一段と強くなった。


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桜の木の下にはさ 白香 @natsuodayo

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