アイドルと仲良くなるには ~ついた嘘の後始末~ 第二部
ヤマメさくら
第二部
『再会の春』~俺は変わってない、お前が変わったんだろ~
第1話
〈バクダン投下〉
雨のせいで一日の予定が総崩れした日曜日の午後。
ある重大な噂の確認のために、俺は隼人に電話をかけた。
と言っても、からかい半分、暇潰し気分でもあったから、左手で携帯を耳に当て、右手ではクリーナーをコロコロコロ、自宅のリビングで床に両膝をついての掃除をしながらだった。
「なあ、そう言えば、あの女優と本当につき合ってんのかよ?」
適当に世間話をしたあと、本題に入った。
「まさか」
隼人は即答した。「俺は、女性に興味はない」
「はあ?」
コロコロコロ。
「つき合うなら、男ってことだ」
「ああ?」
「悪い、そろそろ切る。仕事だ」
「あ、ああ」
何だかよく分からないうちに、会話は終わった。
通話の切れた携帯を、横のソファに置いた。そしてペーパーについたゴミを一度確認してから、クリーナーを床の上でコロコロと動かし続けた――同じ場所を、最初からほとんどほこりなどなかった約三十センチ四方を丹念に。
だが、一分ほど経ったところで、この無益な動作は終わりを告げた。
(おい、何だって?)
停止していた思考が、のん気に掃除などしている場合ではない、と働き出したのだ。
(隼人のやつ、何て言った!?)
汚れたペーパーをはがして、クリーナーをケースにしまった。立ち上がって、丸めたペーパーをゴミ箱に捨てたあと、ソファに座った。
すぐに電話をかけ直すつもりだった。が、隼人の、仕事、という言葉を思い出してやめた。代わりに、携帯をソファからテーブルに移し、胸の前で腕を組んでそれをにらみつけた。
(さっきのあれは、何だったんだ?)
俺『なあ、あの女優と、本当につき合ってんのかよ?』
隼人『ああ、まあ、そんなところだ(苦笑)』
俺『マジかよ。あの子、清純派じゃなかったのか?』
隼人『それを言うなよ(さらに苦笑)』
俺『しっかし、アレだぞ。載る前に、こっちに一言あってしかるべき、だったんじゃないのか?』
隼人『それは申し訳なかったと思ってる。そちらには、明日にでもきちんと報告と謝罪に行くよ(真剣)』
俺『あはは。まあ、そんな堅苦しく考えなくていいからさ、今度、あの子、俺に紹介しろよ』
隼人『いや、それは断る。彼女がお前を好きになったりしたら困るからな(さらに真剣)』
俺『何言ってんだよ!(笑)』
と、こんなふうな、のん気な、くだらない、とも言える感じで、俺たちの会話は続くはずではなかったのか?(創作の後半は、やや自信過剰気味ではあるが)。
「女に興味がない? 何だよ、そりゃ」
俺は、携帯に向かってつぶやいた。そして考えた。考えに、考えた。日曜日の午後を、とても熱心に、隼人について考えることに費やした。
けれど、一人で考えたところで埒が明かないのは当然で(何かしらの答えが得られそうな恋愛話を、俺はこれまで、隼人から、一切聞いたことがなかったのだから。ちなみに、俺が一方的に自分の恋愛話を隼人にくっちゃべったことはある)、結局、話がしたい、と隼人にメールを送るという、単純な結論に行き着いたのだった。
「何の用だ?」
隼人から迷惑そうな声で電話がかかって来たのは、その夜、午前十二時を回ったころだった。
俺は隼人にたくさんの質問をした。隼人は面倒くさそうではあったが、確実に質問に答えた。
つまり、隼人から聞き出せたのは、昔から女に興味がないこと。家族はそのことを知っていること。今つき合っている相手はいるが、一般人であること。むろん相手は男で、あの女優とのことは根も葉もない噂であること(あっちの売名か? と俺が問うと、たぶんな、彼女自身は良い人であると思うんだけれど、と隼人は残念そうに言った)。なぜ、突然俺に重大な秘密を告白する気になったかと言うと、
「お前の間の抜けた声での馬鹿らしい質問に、無性に腹が立ったからだ。あんな三流雑誌のくだらない記事を鵜呑みにする人間がいるなんてな」
だった。
「このこと、どっかに売るなよ」
とも隼人は言った。特にお前のトモダチ、と(原田だ。サンリュウ雑誌の記者の)。
「もちろん」
俺はきっぱりと言った。そんなことをしてたまるか、だった。
話を聞きながら、心の中でずっと叫んでいたのだ。
(どうせなら、うちのCMに出る前に、告白してほしかった!)
そうしたら、こんな特大な爆弾を抱えたやつを、使ったりはしなかったのに! と。
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