第4話 転生の鬼、拳と共に立つ

「……また、ここからだ」


暗黒の虚無の中、キトは静かに目を開けた。

果てしない闇の空間に、光が一筋だけ差し込んでいる。

4度目の転生。

この感覚には慣れない。身体が組み上がり、魂が地上へと引きずり降ろされるように墜ちていく。

全身を突き抜ける重力の中で、キトは静かに誓う。

「……今度こそ、神を殺す」

冷たい風と共に目を開けたとき、彼は草原の真ん中に横たわっていた。

青空がまぶしい。白い雲が流れ、小鳥の声が響く。

前世までの地獄のような戦いが嘘のような穏やかさだった。

だがキトは、もう甘い幻想に酔う少年ではない。

心の奥には、燃え上がるような憎悪と決意がある。

「ここから始める。奴らを……神を、必ず殺す」

キトは立ち上がり、草原を見渡した。遠くに小さな村がある。

木造の家々から白い煙が上がり、家畜の鳴き声も聞こえる。

一見すると穏やかに見える光景。だが、キトの感覚は違和感を拾っていた。

「……静かすぎる」

風に混じる焦げた匂い。足元に転がる破片。

村の入口をくぐった瞬間、壊れた柵と血の跡が目に飛び込んできた。

村の奥から、怒号と悲鳴が響く。

「うおおおおおおっ!!」

「逃げろ、やつらが来たぞ!!」

十数人の盗賊が村を襲っていた。

炎が家を舐め、悲鳴が夜風に溶ける。

武器を手に怯える村人たちの前に──ひとりの少年が立ちはだかっていた。

拳を握りしめ、敵を睨みつける。

筋肉の締まった体、炎のような瞳。

「ここは……俺の村だ! お前らになんて、絶対に渡さねぇッ!!」

彼は一歩踏み出し、拳を振り抜いた。

ドゴォッ!!と鈍い音が響き、盗賊の一人が吹き飛ぶ。

ただの人間の拳とは思えない破壊力。

「……ほう、いいな」

キトは口元をわずかに緩めた。

そのとき、盗賊のリーダーらしき男が背後から少年に剣を振り下ろす。

「死ね、ガキィ!!」

その瞬間、黒い影が滑り込んだ。

「邪魔だ」

キトの蹴りが盗賊の腹を貫き、男は地面に叩きつけられる。

突風のような一撃。空気が震える。

少年は目を見開いた。「お前……」

「通りすがりだ。……だけど放ってはおけねぇ」

キトは剣を抜いた。

赤黒いオーラが刀身を包み、周囲の空気を震わせる。

「鬼」の力が解き放たれ、盗賊たちの背筋に冷たい汗が走った。

少年フィストは拳を構え、キトの横に立つ。

「なら、背中は預ける。俺はこの村を守る。それが俺の全てだからな」

「いい覚悟だ。……いくぞ」

剣と拳が並び立つ。盗賊たちが一斉に襲いかかる。

キトが一歩踏み込み、剣を横薙ぎに振るうと、三人が吹き飛んだ。

斬撃が地面を抉り、土煙が舞い上がる。

「はぁああッ!!」

フィストの拳がうなりを上げ、敵の顎を撃ち抜く。

骨が砕ける音と共に、男が吹き飛んだ。

少年の拳には、“守る”覚悟が宿っていた。

盗賊リーダーが怒り狂い、叫ぶ。

「化け物どもがッ!! まとめて殺せぇ!!」

数人が一斉にキトに向かって突撃する。

キトは剣を地面に突き刺し、右腕を広げる。

赤黒い紋様が皮膚に浮かび、鬼の力が爆ぜた。

「……沈め」

地面が爆発した。

衝撃波が走り、盗賊たちの身体が一瞬で吹き飛ぶ。

その迫力に、フィストでさえ目を見張った。

(こいつ……人間じゃねぇ。だけど、強い──!)

「行くぞ、拳野郎」

「……フィストだ!」

「覚えとく」

ふたりは背中合わせに立ち、最後の数人を殲滅した。

フィストの拳が心臓を打ち抜き、キトの斬撃が空を裂く。

戦いは、ほんの数分で終わった。

倒れ伏す盗賊たち。

残ったのは、二人の息遣いと、かすかな夜風だけだった。

「……強ぇな、お前」

「お前もな」

視線が交わり、言葉はいらなかった。

互いの力と覚悟を感じ取ったのだ。

その夜。

焚き火を囲んで、フィストは語った。

この村がいかに貧しく、神の加護を得られずに見捨てられてきたか。

盗賊たちに何度も襲われ、そのたびに仲間を失ってきたこと。

そして、自分はこの村を守るために拳を鍛え続けたこと。

「俺は……この拳で、村を守る。それしか、俺にはできねぇからな」

キトは静かに夜空を見上げた。

「俺も……守りたいものがある。奪われたものを、奪い返すためにな」

「奪われた……?」

「ああ。神にな」

フィストは拳を握った。

「神なんて、俺たちのことなんて見ちゃいねぇ。だったら……俺もぶっ壊す側に回る」

キトは手を差し出した。

「……いいのか? この道は、血で染まるぞ」

「平和なんて、最初からなかった。だったら、拳で未来を殴り抜ける」

二人の手が固く握られる。

焚き火の光が、二人の顔を照らした。

「俺はキト。鬼だ」

「俺はフィスト。この拳で、未来を守る」

こうして、神を討つための旅が本格的に始まった。

最初の仲間は、拳を掲げる少年。

この出会いが、やがて世界を揺るがす戦いの始まりになることを、このとき誰も知らなかった。

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