第13話 魔女、依頼を受ける
「そのままの状態で、少々お待ちください。ご存じかもしれませんが、軽く冒険者について説明させていただきますね。冒険者には、ランク制度があります。順にE、D、C、B、A、Sランクとなります。一般に、Eランクが初心者、D、Cランクが一般、B、Aが上級者と言われています。ランクによって、受注できる依頼が変わってきます。ランクが上がるほど高難易度の依頼を受けられるようになり、比例して報酬も上がりますね。依頼を一定数受注しするか、もしくはギルドからの昇級試練を受けることで、昇格が可能になります」
『Aランクが上級者なら、Sランクは何なのだろう?』
リュビアがそう(思念会話で)呟いたので、代わりに私が彼に問うことにした。
「Aランクが上級者であれば、Sランクは何と呼ばれているのですか?」
「Sランク冒険者は……何というか、格が違います。Aランクまでは、ギルド長に承認されることで昇格可能なのですが、Sランクは、王族直々に任命される必要があります。今は、世界で八人しかSランクがいないのですよ。世界に名を轟かせていて、もはや冒険者というよりは『英雄』として扱われています」
『八人しかいないの!? すごいなぁ。でもわたしはね、ラーシェならSランクになれると思うんだ。だって、ラーシェはめちゃくちゃ強いから!』
どうだろう。王族直々に任命されるということは、それほど素晴らしい功績をあげないということだ。それよりも、リュビアがこのように思う理由を知りたい。私は彼女の前で強力な魔法を使ってはいないが、彼女なりの観察眼や勘というものがあるのだろうか。
話しているうちに、手に触れている魔石から魔力を感じなくなった。
「登録が完了しました。こちらが、あなた専用のギルドカードになります」
ライナスさんからカードを受け取る。薄いが頑丈で、記録用の魔石板と目視できない大きさの魔石が埋め込まれている。これで、魔力を識別しているのだろう。解体して詳しく見てみたいが……流石にやめておこう。
リュビアがカードを見たそうにしていたので彼女の傍に置く。私は、ライナスさんに気になることを尋ねるとしよう。
「登録、ありがとうございます。ところで、あなたの目的は何なのですか?」
私の言葉に、彼は目を瞬かせた。こんな特別待遇をしておいて、何も言ってこないということはありえないだろう。彼のように、一見紳士そうに見える人は腹の内を疑っておくのが吉だ。
あなたの思惑などお見通しですよと言うかのような顔で彼の顔をじっと見つめていると、彼は笑い声を上げた。突然のことで、リュビアが驚いている。
「ははっ。どうやら、あなた様には隠しきれないようですね」
「面倒な依頼ですか?」
「我々にとっては面倒な部類になりますが、あなた様にとっては、簡単な依頼だと思いますよ」
そう言って、彼は一枚の紙を私の前に置いた。それに目を通している間、彼は話を続ける。
「最近、フェロスに入った冒険者が重症を負って帰ってくるということが増えていましてね。情報を集めたところ、どうやら悪性魔物が発生したようなのです」
「悪性魔物……」
久しぶりに聞いた単語を、私は呟いた。
『悪性魔物って、何なの?』
『悪性魔力に侵された魔物のことだよ。悪性魔力というのは、生命を蝕み、物体を腐敗させ、精神を歪ませる性質を持つ、負の力に満ちた魔力のこと。歪んだ魔力で、人体にとっても最悪のものだ。魔物がこれを過剰に取り込むことで暴走化した状態を、悪性魔物と呼んでいる』
説明はしているものの、昔は悪性魔力というものは悪魔が出現した箇所でしか発生しないものだと言われていた。知らない人も多いくらい珍しいものであったのだが、今では魔力の歪みが多くできて、悪性魔力も広がっているのかもしれない。
「あなた様なら、悪性魔物も簡単に討伐できるのではありませんか?」
「……どうして、そう思われるのですか?」
「先日、あなた様が多量の上級魔物の素材を換金していたとの話を聞きまして。上級魔物をお一人で討伐できるのであれば、悪性魔物も相手にできるのではないかと判断しました。それに……あなた様と直接お会いして、確信が強くなりましたよ。こう見えて私はAクラスの冒険者でもあるので、目利きには自信がある方です」
なるほど、そういうことか。私は普段から魔力を抑制しているが、視える人には視える。この人は、視える人なのだろう。ということは……。
「そちらの、可愛らしい小鳥さん。どうして幻影魔法をかけていらっしゃるのですか?」
『うぇ!? わたしのこと、ばれてる!』
当然、リュビアのことにも違和感を覚えていることだろう。これも、彼の判断材料の一つだろうか。幻影魔法は高難易度になるので、私がかなり腕のいい魔法使いだと考えたのかもしれない。
「幻影魔法をかけている理由はお伝えできませんが……まあ、悪性魔物であっても、簡単に討伐できると思いますよ」
「依頼を受けていただけるのですか?」
「断れるような場でもありませんしね。それに、怪我人が多数出ているのであれば、早く対処した方がいい」
ライナスさんはにこりと微笑んで、感謝の言葉を告げた。こういった、腹に一物を抱えていそうな人を相手にするのは苦手だ。
「報酬は弾ませていただきますね。どうか、よろしくお願いします」
「私は何でも屋になるつもりはないので、いつでも依頼を受けるとは限りませんからね」
ギルドに囲われる前に、先に手を打っておかないと。牽制するように笑みを浮かべると、彼も同じように笑みを浮かべた。
『うわぁ。二人とも、圧がすごいよ』
『リュビア。正体を気づかれないよう、気を付けてね。この人、油断できないから』
『う、うん。できるだけ、小鳥になりきるよ』
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