第5話 竜、魔法を学ぶ


「美味しそうだなー。早く食べたい」

「調味料もないから、味付けはできないのだけどね。本来だったら、塩等で味付けをして食べたら、もっと美味しくなるんだ」

「今まで食べてきたものに比べたら、味付けがないくらい平気だよ! それに、こうやって焼いてあるのを食べるのは、いつもより美味しく感じそうじゃない?」


 リュビアの言葉に笑みをこぼしながら、私は木に背を預ける。焚火の火力を調整しつつ、汚れた手を水魔法で洗浄しておく。リュビアも小さな手を出してきたので、洗浄してあげる。この洗浄はただ単に水で洗い流すだけでなく、汚れも落としてくれる優秀な魔法だ。


「わたしも魔法使いたいなぁ」

「そうだね。リュビアも魔法を使えた方が、自分の身を守れるようになるからね。私が使い方を教えてあげるよ」


 私は体を起こしてリュビアに向き合う。リュビアは嬉しそうに尾を動かしている。竜も嬉しい時には犬の様に尾を振るのだろうか。


「まず、魔法を発動するためには自分の魔力を制御する必要がある。リュビア、自分の魔力を感じることはできる?」

「魔力。魔力ね。やってみるよ」


 リュビアは目を瞑ってむむむ……と唸る。リュビアの魔力の様子を視ていると、それがゆっくりと動いているのが分かる。どうやら魔力を感じ取れたようだ。


「多分これが魔力、かな? 不思議な気分……前世じゃこんなもの感じたことなかったから。ま、竜の姿になった時点で前世とは全く違うんだけどね」


 魔力に馴染みのない転世人にとって、魔力が不思議なものだというのは当然の感覚だろう。私にとっては最初から存在するもので、あるべきはずのものだという感覚だから、何も思わないけど。


「じゃあ、次はその魔力を外に出す練習だ。魔法は、魔法陣に魔力を込めて発動するものだけど、その前に魔力を一定量ずつ外に出せるようにならないと。感じ取った魔力を一本の糸のように扱うとやりやすいよ。魔力は形を持たないから、想像しやすい形で扱うと魔法の発動にも繋がるんだ」


 再びリュビアは目を閉じる。上手いように魔力を扱えているようだ。リュビアは魔法を使うのに向いているかもしれない。


「出ろ……外に出ろ……」


 むむ、と難しい顔をしているリュビアだが、魔力は問題なく外に放出できている。


「上出来だよ、リュビア。本当は魔力を扱うのが初めてじゃないのかと思ってしまう程だ。これなら魔法もすぐに習得できるよ」

「ラーシェリアにそう言ってもらえると嬉しいよ」


 リュビアは素直でいい子だ。教えがいがある。


「それじゃあ、その魔力を魔法陣に込めてみよう」

「魔法陣を使うんだね。かっこいいな」

「まず魔法陣の説明から始めたほうがいいね。それぞれの魔法に基礎の魔法陣があって、基礎の魔法陣に手を加えたら応用の魔法が使えるようになる。魔法の種類の説明は……また後でしよう。とりあえず魔法を使う感覚を覚えておいた方が良い。火魔法の基礎の魔法陣は、こんな感じ」


 枝を使って地面に魔法陣の形を書く。火魔法の基礎の魔法陣が一番単純で、丸と三角を組み合わせただけのものだ。


「思っていたよりも単純なんだね。魔法陣と言えばもっと複雑なものを想像していたよ。読めない文字が書かれていたり、幾何学模様がいっぱい書き込まれていたり……」

「こういうものかな?」


 リュビアが想像していたであろう複雑な魔法陣を一つ書いてみる。魔法文字と言われる文字も書く必要があり、かなり難しい魔法陣となっている。


「これが飛行魔法の魔法陣。複雑でしょう?」

「凄い! これぞ魔法陣って感じ。でも、こんなに複雑な魔法陣が沢山あるってこと? 覚えるのが大変そう……」

「魔法陣の全てが基礎の魔法陣が元になっているから、基礎は大事なんだ。それじゃあ、この魔法陣の形に魔力でなぞってみて。糸の様にした魔力をそのまま魔法陣に沿わせていくといいよ。例えば、指から魔力を出して、そのまま魔法陣をなぞるとその形になるんだ」

「なるほど。やってみる」


 リュビアが小さな指で地面に書いた魔法陣をなぞる。


「魔法陣が輝いているよ!」


 リュビアは魔力を想像する時に、色がついているものと想像したようだ。その方が魔法陣を書く際に分かりやすいからいいのだけど。逆に私が先に説明しておくべきだった。


「次はそれと同じ要領で空中に書いてみて」

「空中に……」

「難しく考えないで、さっきなぞった通りに魔力で書けば上手くいくよ」


 分かった、といいリュビアは空中に魔法陣を書く。地面に書いたものより少し大きいが、問題はない。私は少し焚き火の方を確認し、肉を裏返しておいた。


「できた! これでいいの?」

「うん、上手だよ。今度は、その魔法陣の中心に魔力を注ぐ。全体に魔力がいきわたったら、ほとんど完成だよ」


 私の言う通りにリュビアが魔法陣に魔力を注ぐ。魔法陣の輝きがさっきよりも増した。


「今すぐに魔法が発動できそう!」

「魔力を魔法陣に通すように押し出す。そうすると魔法が発動できるよ。魔力の量は多すぎなければどのくらいでもいい」

「よしっ、火の玉、出ろ!」


 リュビアがつくった魔法陣が光を発する。するとリュビアの前に火の玉ができ、すぐに消えた。魔法陣も同時に消える。


「おおおっ!! わたしも魔法が使えた!」

「これが魔法を発動する一連の流れだよ。簡単な魔法だったら、魔法陣に魔力を通したときの魔力の感覚を覚えておけば、魔法陣をいちいち書かなくても発動できるようになる。そのためには何度も魔法を発動する必要がある。だから、魔法は練習あるのみだよ」

「頑張って魔法の練習をして、竜の魔法使いになりたい!」

「そのためにはまず魔法陣を沢山覚えないとだめだよ。他の基礎の魔法陣も紹介しよう」


 その後も私はリュビアに魔法について説明を続ける。

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