第9話 上陸

 新門司港に着岸、そして下船が始まる。乗船時ロックもかけず、無造作に預けた自転車とは無事再会。新門司港のお洒落な建物を目にし、ほんの少しの時間だけど、ますます九州への期待に胸が膨らんでいることが、充分に感じられた。もちろん、最大の楽しみは彼女との再会だ。

 彼女は前日夜勤とのことだ。再会は夕方予定。それまでの時間、私は北九州観光することにした。もちろん、自転車でだ。

 まず、新門司から門司に向かうことにした。初めての地を一人で走るのも不安が無いわけではない。スマホには事前に自転車用のナビアプリを仕込んでいた。ナビの案内通り走ると、程なく、カニカキロードへ。蟹も牡蠣も九州にイメージが無かった私は不思議な気持ちで自転車を漕いだ。道はトラックが多く結構怖かった。特に坂を登り切ったあとのトンネルの中は。

 無事、門司港レトロに。『関門海峡ってこんな近いんや』正直な感想だった。日本の国のために、外国の船に闘いを挑んだ幕末の若者たちに思いをはせながら、64歳になっても恋に挑む自分を重ねるには、あまりにもおこがましいが、望みを叶えたい気持ちは同じだと腰に手をあて、海峡を見つめていた。

 門司港、門司そして小倉に向かう。私の趣味の一つが一人吞みであることは前にも

書いた。ジャンルは何でも来いだげど、ビールが1番かと。中でもサクラビールが好きで、是非とも資料館に寄りたかったが、時間的にも早く、まだ開館前、次にも行きたいところがあったため、サクラビールにはよらず、西に向かった。

 私は旅をするとき、仕事柄、行く先の日帰り温泉を訪れるようにしている。目的の日帰り温泉に向かった。周囲には普段見ているタンクや濾過器が設置してあり、私の働く場所と同じような景色が飛び込ん出来た。どこもおなじやなぁー。サウナや岩盤浴で汗を流し、露天風呂で疲れを癒す。なかなか、いい施設だった。もちろん、その後はビール。満足な時間を過ごして、温泉を後にした私は、次に小倉城に向かった。

 小倉城は戦国時代、細川忠興の居城として有名で、その奥方は明智光秀の娘たま。後のガラシャ。私が教科書に出てくる中で、最も好きな女性だ。小倉城に足を踏み入れた私は、純子さんを重ねていたかも知れない。

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