第25話【体育祭と中間テスト】

 相楽さがらの別宅でのプチ合宿の後、自宅に帰って来た紗子さえこ。この日はする事も無くてベッドでごろごろして、皆でお揃いで買ったキーホルダーや貸衣装屋さんで撮ったプリクラを見て嬉しそうな顔をしている。初めてできた友達と遊びに行った記念。


紗子

「…楽しかったなぁ。プリクラ撮ったりとか。ふふ」


 皆で撮ったプリクラと貴弥たかやとふたりで撮ったプリクラの画像を指でなぞりながら眺める。するとスマホが鳴った。画面には貴弥の名前。慌てて確認する。


一柳いちやなぎ貴弥〕

[今日会える?]


紗子

「わ!どうしたんだろう!?…大丈夫だよ、と」


 その後ちょっとやり取りして、紗子の家に貴弥が迎えに来てくれる事になり支度をして待つ。そわそわしながら待っているとインターホンが鳴って慌てて玄関のドアを開ける。


貴弥

「よ!どっか遊びに行こうぜ!」


紗子

「うん!/// どこに行くの?」


貴弥

「どこ行くかぁ…お前どっか行きたいとこあるか?」


紗子

「うーん…そうだなぁ…あ!大通りにできたって言ってたメイドさんのお店行ってみたいな!」


貴弥

あおい先輩が言ってたお店か。いいぜ!じゃあそこ行こ!」


紗子

「うん!」


 なんだかふたりで出かけるのが久しぶりな気がして、紗子はいつもよりちょっとお洒落をしている。貴弥は照れて褒めてくれたりはあまりしないが、態度に出るのでそれだけでも嬉しかったりする。うきうきしながら商店街を抜けて大通りへと出るとお店はすぐそこにあった。ほんとに喫茶Aoiからそんなに離れていない場所だった。開店時間からそんなに経っていないがけっこう混んでいる。


紗子

「すごいね!この時間から並んでる!」


貴弥

「だな。神崎かんざき先輩と佑真ゆうまは大丈夫って言ってたけど、ちょっと心配になるな」


紗子

「そうかなぁ?葵先輩のお店も開店前からいっぱい並んでるし、わたしは大丈夫だと思うなぁ」


貴弥

「確かに混み具合は負けてないとは思うけどな…オレはやっぱり自信無いや」


紗子

「貴弥なら大丈夫だよ!お客さんだって楽しそうにしてるじゃん!」


貴弥

「楽しんでくれてるんかなぁ」


紗子

「そうだよ!あ、順番きたよ!行こ!///」


 メイドさんに呼ばれて席へ案内される。飲み物を頼んで待ってる間に貴弥がそわそわしながら小さな包みを差し出してきた。


紗子

「なぁに?どうしたの?」


貴弥

「これ、水族館で買ったやつ…オレと同じやつ、なんだけど…///」


紗子

「え!?もらっていいの!?///」


貴弥

「おう///」


紗子

「ありがとう!/// 開けてもいい?」


貴弥

「うん///」


 包みを開けるとイルカのチャームが付いたピンク色のシャーペンが入っていた。


紗子

「わぁ!かわいい!///」


貴弥

「ちょっと子供っぽいかなって思ったんだけど…。お前、もうずっと同じ黒のシャーペン使ってるだろ?たまにはこういう、か、かわいいやつもいいかなって思って…///」


紗子

「ありがとう!/// 休み明けたらすぐ学校で使うよ!貴弥も同じやつ買ったの?」


貴弥

「おう。オレは水色のやつだけどな」


紗子

「そうなんだ! おそろい、すごくうれしいっ///」


貴弥

「そりゃよかった///」ホッ


 まったりしていると飲み物が運ばれてきた。


紗子

「あ!貴弥これ!わたしからも!///」


貴弥

「ん?くれるんか?」


紗子

「うん!タオルハンカチとわたしの作ったクッキーなんだけど。誕生日おめでとう!///」


貴弥

「おう!毎年ありがとな!」


紗子

「ハンカチタオルは男の子が使うにはちょっとかわいいかもしれないけどね。ふふ」


貴弥

「水族館のやつか。クジラの絵だ。大事に使うよ」


紗子

「貴弥、きれいなハンカチいっぱい持ってるから、どうかなぁ?って思ったんだけど、わたしがその柄気に入っちゃって」(*´˘`*)エヘヘ


貴弥

「そうなのか。かわいいなこのクジラ」


紗子

「うん!かわいいよね!…あ!蝶子ちょうこちゃんと咲妃さきちゃんはお誕生日いつなんだろう?今度聞いてみよ!ていうかカフェ部のみんなと八雲やくも先生とマリアちゃんと深優みゆう先輩も!みんないっしょにお祝いしたいな!///」


貴弥

「そうだな。せっかく仲良くなったしそういうのやりたいな」


紗子

「だよね!クリスマスとかもパーティーしたいな!プレゼント交換とか!ごちそうも蝶子ちゃんと神崎先輩とわたしで作って!///」


貴弥

「いいなそれ!オレ、お前の料理も好きだ」


紗子

「そ、そう?/// ありがと///」


貴弥

「正月、は…相楽の屋敷で盛大にやりそうだな。あと忘年会w」


紗子

「そうだね!また着物の蝶子ちゃん見れるかな?とってもきれいだよね!蝶子ちゃん」


貴弥

「そうだな。まさにお嬢様って感じ。相楽のお母さんもきれいな人だったんだろうな」


紗子

「うん。きっとそうだよ!あと蝶子ちゃんと佑真くんすごい美男美女だよね!笑っちゃうぐらい!ほんとにお姫さまと王子さまみたいな!///」


貴弥

「だなぁ。佑真はいいよなぁ!背が高くてうらやましいぜ!オレもあのぐらいまではいかなくても、葵先輩と神崎先輩ぐらい伸びないかなぁ〜!」


紗子

「これからじゃない?ていうか、佑真くんと並んでるからふつうに見えるだけで、葵先輩と神崎先輩もけっこう背高いよね」


貴弥

「かもなぁ。ふたりとも何センチなんだろう?」


紗子

「貴弥は何センチなの?」


貴弥

「オレ?オレは165だよ。やっぱり170は欲しいよなぁ〜〜〜〜〜」


紗子

「あと少しじゃん!きっと伸びるよ!///」


 そんな話をしながらふと、メイドさんを見る。可愛い。


紗子

「…いいなぁ…わたしもああいう服着てみたいなぁ…」


貴弥

「じゃあ葵先輩に相談してみたら?店で着られるかもよ?」


紗子

「うん。聞いてみようかな!/// メイド服着てみたい!///」


貴弥

「おう。でもホールも任されたりしてなw」


紗子

「えぇ〜それは困るなぁw それにホールはもう人足りてるでしょ?」


貴弥

「うん。そうなんだよなぁ。もともと葵先輩と八雲さんだけで足りてたところにオレたちが入ったから余裕があるんだよな」


紗子

「あ、そういえばさ?貴弥、蝶子ちゃんのおうちでいつもはなにしてるの?」


貴弥

「いつも?うーん、すばるさんと校長先生とトレーニングしたりしてるよ。あとは屋敷の掃除とか手伝ったり?」


紗子

「へぇ?楽しい?」


貴弥

「楽しいよ。でもナギのほうがなんでもうまくできてさ、くやしいんだよな」(⑉・̆-・̆⑉)ムゥ…


紗子

「そうなんだ」クスクス


 拗ねてアイスティーのストローをくわえてぶくぶくする姿に思わず笑ってしまう。


紗子

「もう少ししたら体育祭だね」


貴弥

「だなぁ。コンテストなにやらされるんだろうなぁ…こえぇよ…」


紗子

「あはは!女装コンテストね!負けたら神崎先輩怖そうw」


貴弥

「笑いごとじゃねぇ〜w」


紗子

「貴弥だって笑ってるw」


 ふたりでわちゃわちゃ笑っていると、執事さんがメニューを持って近付いてきて声を掛けられる。


執事

「お嬢様、お坊ちゃま、申し訳ありません。メイドがメニューの紹介を忘れてしまったようで、今少し説明させて頂いてもよろしいですか?」


紗子

「?はい」


貴弥

「?」


執事

「ありがとうございます。本日、当店サービスデーとなっておりまして。こちらのデザートメニューにカップル割りが適用されております。よろしければいかがでしょうか?」ニッコリ


紗子・貴弥

「「か、カップル割り!!?///」」


執事

「はい」


紗子

「うわぁ〜!美味しそう!でも…」


貴弥

「どっ、どれが食いたいんだ?頼めよ。…っせっかくだし…///」


 貴弥はもう顔を真っ赤にして目を泳がせている。その姿につられて顔が赤くなるのを感じた。


紗子

「あ、えぇと、じゃあ…この、フルーツたっぷりのパンケーキ、ください///」


執事

「かしこまりました。ありがとうございます」


紗子・貴弥

「「……///」」


紗子

「つ!付き合ってないけどっ、いいのかな!?///」


貴弥

「向こうが、カップルだと思って声かけてきたんだっ、平気だろ!?///」


紗子

「そっ、そうだよね///」


貴弥

「そうだよ…///」


紗子

「…///」


貴弥

「なんだよ…オレとじゃ、イヤかよ///」


紗子

「そんなことあるわけない!すごくうれしいよ!///」


貴弥

「そ、そうかよ…///」


紗子

「うん!///」


貴弥のこと、彼氏に見えてるんだ…///

うれしいな…///


 運ばれてきたパンケーキを一緒に食べて、ゆっくりしてからふたりは店を出た。次は電車に乗って安生あきのエンジョイタウンに向かった。ぶらぶらと色んなお店を覗いて、紗子はたまたま目に入った夏物のスカートを買った。帰りの電車でもたくさんいろんな話をした。[[rb:七瀬 > ななせ]]に着いて紗子はわざとゆっくりと歩いた。本当は貴弥が離れて暮らすのが少し寂しかった。今までは気軽に一緒に夕食を食べたり、部屋の窓を開けて話をしたりしていたのが出来なくなってしまったから。やがて紗子の家へと着いてしまった。


紗子

「今日はありがとう!シャーペン大事にするね!」


貴弥

「おう!また学校でな!あ、あと、いつでもLIMEしてくれよな!それは大丈夫だから」


紗子

「うん!ありがとう!じゃあね!」


貴弥

「おう!オレもありがとな!」


 紗子が家に入るのを見送って相楽の屋敷へと帰る。実は貴弥も少し寂しかったりしている。あまり遅くならない内にと歩いていると、少し先に見覚えのある人影。


貴弥

「あ!葵先輩!」


かなで

「うん?あぁ、一柳くん。やっほ!」


貴弥

「うす!先輩も今日は外出してたんすね」


「うん。ちょっとやっちゃんと一緒にね」


貴弥

「へぇ。お店のことすか?」


「それもちょっとあったね。すぐると佑真にお店見てきてもらったけど、自分の目でも見てみたくてシークレット*ガーデンにね。偶然会った常連さんになんか謝られちゃったw 気にしなくていいのにね」


貴弥

「え?今日メイドのお店行ったんすか?偶然すね!オレも今日行ったんす」


「お?一ノ瀬いちのせさんと?」ニヤニヤ


貴弥

「ニヤニヤしないでください!///」


「あはは!ごめんごめん!ところで体育祭は機動隊チームはコンテストで何にするとかって聞いてない?」


貴弥

「体育祭すか?まだ聞いてないんすよ…もう、こわくてこわくて…;;;」


「一柳くんもコンテスト出るんだ」


貴弥

「はい…;;; あと、将也まさやと校長先生も出るみたいです」


「絶対可愛い将也くんは勝てるかどうか怪しいけど、耀脩ようすけは楽勝だなw」


貴弥

「神崎先輩と将也は高得点取るだろうなぁ。でも八雲さんと葵先輩も手強そうっす」


「ホントに?嬉しいな」


貴弥

「八雲さんは3年連続グランプリ取ってたんすよね」


「そうそう。生徒会室に写真残ってたけどめちゃくちゃ美人だったよ!」


貴弥

「ちょっと見てみたいっす!」


「今度部活の時間に持って来てあげるよ。凄いよ?やっちゃん」


貴弥

「楽しみです!でも葵先輩もかっこいいすから女装きれいそうですよね」


「そう?ありがとう。でも、去年も一昨年もそんなに点取れなかったからなぁ。あんまりまじめにやってなかったってのもあるけどw」


貴弥

「そうなんすね」


 体育祭の話をしながら一緒に帰る。貴弥は奏って何だか掴みどころが無いなぁなんて感じながら屋敷までをゆっくりと歩いた。



◈◈◈



 屋敷に帰って来た奏はたまたま屋敷に来ていたすぐるとばったり会った。いつもみたいに軽く声を掛けようと思ったら、優の方から真剣な声で呼び止められた。


「なに?どうしたの?帰るところだったんじゃない?」


「…体育祭、今年で最後だろ」


「そうだね?」


「手ぇ抜いたら許さないからな。本気でやれよ」


「やだなぁ。俺はいつでも本気だよ」クスクス


「誤魔化すな。お前は手ぇ抜いてるだろ。授業もテストも人付き合いも全部だ。ムカつくんだよ。余裕こいてるのが」


「そんなことないよ」


「喧道は特にだ。わからないと思ったのか?あまり俺を舐めるなよ」


「急にどうしたの?」


「お前はもっと強いだろ。本気出して組み合えよ」


 優の言葉に奏の雰囲気が変わる。いつか廃墟のラブホテルに深優を助けに行った時のように、全くの別人のような顔になる。誰も知らない葵奏。


「…ふふ。俺が強い?どうしてそんなふうに思うの?」


「手の抜き方見ればわかる。あれは上手い奴じゃなきゃ出来ない。…それに、その顔。お前のその顔がお前の隠してるもの。俺の知らない奏だ。いつものふざけた葵奏が深優の言ってた創られた人格だろ」


「さて、何の事だか」クスクス


「まぁ、お前が体育祭で本気出せば俺は何でもいい」


「ずいぶんこだわるじゃない」


「とりあえず、そのすぐ引く癖直せ」


 それだけ言うと優は帰って行った。残された奏はふっと笑って口元を手で隠した。


「困ったな。優にもバレそうだ。ふふ」


 言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな奏は夕食を食べる為に大広間へと向かった。



◈◈◈



 そして日は経ち、ついにやってきた体育祭当日。

 校庭には生徒会長(執事室)チームと副会長(機動隊)チームに分かれて生徒が並んでいる。ちなみにカフェ部のチーム分けはこうだ。


【生徒会長(執事室)チーム】

・葵 奏(生徒会長)

・葵 八雲

藤澤ふじさわ 佑真

・相楽 蝶子


【副会長(機動隊)チーム】

・神崎 優(副会長)

・石井 将也

・一柳 貴弥

・一ノ瀬 紗子


 なぜ今年はこんなチーム分けなのかというと、校長であり相楽組機動隊隊長の耀脩の思いつきで、機動隊が執事室に喧嘩を売った形になったのだ。そして、両チームの代表の奏と優が宣誓をしていよいよ体育祭は始まる。100m走、綱引き、障害物競走、部活対抗リレー、3学年合同リレー、綱タイヤ取り、大縄跳び、騎馬戦をこなし会長チームの得点が230点、副会長チームが220点だ。中間発表と昼休みを挟み、ついに応援合戦!女装美人コンテストの時間だ!


実況

「さぁさぁ!やってきました!お待ちかね!女装美人コンテストの時間です!どんな女装が出てくるのか楽しみですねぇ!では始めていきましょう!まずは生徒会長チームの登場です!どうぞ!」


 実況の合図で曲が鳴りひとりずつステージに上がる。まずは1年生。1人目の1年生はやけくそでステージに上がり、2人目の佑真は泣きながらステージに上がる。佑真は地毛の金髪にリボンの黒いカチューシャをして、まるでアリスのようなデザインの水色の可愛らしいメイド服を着て、ボーダーのニーハイを履いている。


生徒①

「おぉ!!藤澤くん可愛い!!ちょっとデカいけど!!可愛い!!」


生徒②

「泣いてるのウケるw がんばれー!!」


佑真

「( ߹꒳​߹ )」


 2年生ふたりが登壇して、続いては3年生。1人目が登場して奏がステージに上がる。この日一番の歓声が上がった。髪を下ろし、片側を耳に掛け、膝丈のちょっと可愛いデザインのメイド服を着ていて、靴はヒールの高いものを履いている。メイクもバッチリだ。そして最後は八雲。八雲は黒いロングヘアのウィッグを被り低い位置でツインテにして前に垂らして、黒縁のメガネを掛け、ロングスカートのクラシカルなデザインのメイド服を着ている。背の高いふたりはまさにモデル体型の美人になっていた。


実況

「おぉっとこれは!かなりの高得点を狙えるのではないでしょうか!?葵くんも葵先生もまさに美女と言っても過言ではないですね!!新聞部の生徒はいっぱい写真を撮ってくださいね!!来月のバラの夢の特集にしますから!!」


八雲

「私もまだまだイケますね。優には悪いですが、4度目のグランプリはいただきます」フフフ


「やっちゃんまだまだ現役だね!ほら、佑真も笑って!」アハハ!!


佑真

「うまく笑えません…蝶子の前でこんな…|||」( ߹꒳​߹ )シクシク…


「頑張れ!!ランキング2位!!」


佑真

「うぅ…|||」


 ステージ上の主に佑真、奏、八雲が凄まじい歓声を浴びている。そして次は副会長チームの出番である。


実況

「さて!お次は副会長チームの出番です!バラの夢総合ランキング1位の王者、神崎くんの登場です!どうぞー!!」


 まずステージに上がったのは将也。副会長チームはセーラー服を着ている。将也は地毛をお団子にしてリボンで結び、紺色のセーラー服を着ている。スカートは膝丈で黒のオーバーニーハイを履いている。泣きながらもじもじしている姿にこれまた割れんばかりの歓声が起きている。お次は貴弥。貴弥はショートヘアのウィッグを被り、将也とお揃いのセーラー服を着ていて紺ソを履いている。スカートは膝よりちょっと下だ。2年生ふたりが登壇して次は3年生。3年生は意外な人物がエントリーしていた。それは将也の天敵、和田わだ和彦かずひこである。得点を稼ぐ為にバラの夢総合ランキング上位の彼も駆り出されていた。優の頼みは断らない和彦。和彦は黒のセーラー服に姫カットのロングヘアのウィッグを被り、黒タイツを履いていた。こちらも物凄い歓声が起きた。そしていよいよ只今2年連続グランプリに輝いている優の登場である。優は栗色のセミロングのウィッグを被り、真っ白なセーラー服(自前の白女中等部制服)で膝上丈のスカートに黒のタイツを履いている。顔をしっかり出しているレア優(ウルトラ美少女ver)に会場はちょっと静かになった。たぶん何人か落ちた。最後は副会長チームのお荷物もとい不安要素、濱田はまだ耀脩の登場だ。丈の足らないセーラー服。見事に割れた腹筋が見えている。ミニスカートから覗く筋肉質な脚。白いハイソックスを履いている。おさげのウィッグが完全にギャグだった。優の時とはうってかわって会場は大爆笑の渦に呑まれた。しかし耀脩は満足気である。


実況

「こちらもかなりの高得点を期待できますが、校長先生の仕上がりに若干の不安を感じますね」


耀脩

「なんだと!?こんな美少女に向かってなんて事を!!」


八雲

「美少女は無理です。もはや妖怪ですよあなた。どうしたんですかその化粧」


耀脩

「やっちゃんひどいー!!」ヽ(≧Д≦)ノウワァァン


「耀脩さんの分マイナスが入ってもこれはちょっと厳しいかなぁ」


 アピールタイムという地獄の時間が終わり、いよいよ審査の時である。審査は教師陣がおこなう。


実況

「では!先生代表の来栖くるす先生発表をお願いします!」


達也たつや

「えー、審査は教師5人、ひとり持ち点10点で審査しました。結果からいくぞー。結果は会長チーム30点、副会長チーム20点です。副会長チームかなり頑張りましたが、やはり濱田校長が足を引っ張りましたねぇ」


耀脩

「そんなバカな!!もっとよく見てくれ!!」


達也

「もう諦めてください。それではグランプリを発表します。グランプリに選ばれるとさらに20点が加点されます。グランプリは―…」


 全員が祈るように自分のチームから選ばれる事を祈った。


達也

「グランプリは3年生、神崎優君です。おめでとー」


八雲

「おや、負けてしまいましたか」


「これは譲れないです」


実況

「これで神崎くんは3年連続グランプリ獲得です!凄いですね!おめでとうございます!では皆さん!ステージ上のメンバーに大きな拍手をお願いします!」


 割れんばかりの拍手と歓声が響き渡って女装美人コンテストは無事に終わった。若干何名かに傷を残して。女装メンバーの着替えが終わり、またいくつかの競技をこなして最後のプログラム、喧道けんどうの時間がやってきた。体育館に用意された畳。耀脩が試合前に簡単な説明をしていざ開幕。始まると強制参加メンバーがどんどん勝ち進んで、それ以外の参加者は早々に散っていった。次は貴弥と奏である。


貴弥

「よろしくお願いします!」


「よろしくね」


八雲

「奏。何としても勝ちますよ。執事を舐めている耀脩に負ける訳にはいきません。わからせますよ」


「うん。わかってる」


とは、言ったものの…。

機動隊を負かせるなんて可哀想だよなぁ…。


(なんて言ってらんないよね。一柳くんには可哀想だけど負けてもらって、優と当たったら適当に負けよう)


 試合開始の合図と同時に貴弥が踏み込む。しかし奏はゆったりとした動作でそれをかわし、簡単に貴弥をひっくり返してしまった。


「脇ががら空きだよ。昴さんに教わらなかった?」クスクス


貴弥

「ってぇ〜…よく言われます;;;」


「まだまだですなぁ。ふふ」


貴弥

「くそ〜。ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 次は佑真と優である。向かい合って礼をする。開始という声と同時にふたりは動いた。佑真が攻撃を仕掛けようとしたその一瞬の隙を突いて、優は佑真を軽くねじ伏せた。


佑真

「ちょっと。こないだと全然違うじゃないですか。手加減してました?」


「少しな。今日は奏とやるまで負けられねぇから」


佑真

「ちぇ。悔しいから俺も機動隊の練習参加しようかなぁ」


「好きにしろ」


佑真

「はぁーい。好きにしまぁーす」


 ちょっと拗ねた佑真が畳を降りて優もそれに続く。勝ち進んだのは奏と優と八雲と耀脩である。次は奏と優の対戦である。向き合ってみてわかる。奏はやはり本気では無いということが。いい加減にしろと声を掛けようとしたその時、外野から声が飛んで来た。


八雲

「奏。真剣にやりなさい。相手は優です。手加減は要りませんし、そんなのは相手に失礼です。本気を出しなさい!」


 八雲の怒った声に奏は目を伏せると「しょうがないなぁ」と呟いて薄く嗤った。そして全身から力を抜いてゆったりとした姿勢でゆっくりと優をその目に捉える。ゾッとした。いつもと違う奏。見たことの無い奏。


(…これでも、まだ本気じゃねぇんだろうな)


 開始。先に動いたと思った優は次の瞬間には投げられていた。全く見えなかった。音も無く綺麗に投げられた。優は何が起きたのかわからない顔をしている。そして次には苦笑いをした。


「…やっぱりお前、強ぇじゃん」


「これで満足してもらえた?」


「嫌味かよ」


「まさか」


 「さ、次は審判だ」と言って奏は下がって行った。その姿にちょっとだけ満足した優も起き上がって下がった。次は八雲と耀脩である。


八雲

「覚悟は出来てるんですよね?」ニッコリ


耀脩

「こわ…まだ怒ってた?てか、やっちゃんとやるの久しぶりだね!そっちこそ覚悟はできてるのかな?一応これでも機動隊の隊長なもんで負けられないんだよね」


八雲

「ふふ。あまり、執事を舐めない方が良いですよ」


 ビリビリとした空気の中で先生対決は始まった。凄い速さで攻撃と防御がなされ、肉と肉のぶつかる鈍い音が響く。


八雲

「はい。取りました」


耀脩

「!?うわっ」


 ばたんっという大きな音がして耀脩はねじ伏せられた。押さえ込んでいる八雲はにっこりと笑っている。


八雲

「有事の際、貴方達機動隊が抜かれた時、最後に主人を護るのはそばに居る私達使用人です。そう思って、業務の間に稽古をしているんですよ。最初に言いましたよね?執事を舐めないでください、と」


耀脩

「機動隊より強いなんてありかよ」


八雲

「もう少し気合を入れて稽古した方が良いんじゃないですかね。それと、ご褒美、楽しみにしていますよ?」クスクス


 やっと八雲が手を離して耀脩は悔しそうに立ち上がる。しかし、どこか嬉しそうでもあった。最後は葵兄弟の対決である。静かに向き合う奏と八雲。


八雲

「喧道は会長チームの勝ちです。どちらが勝っても得点は私達のものです。ですが、本気でいきますよ」


「どうしたのやっちゃんまで。俺はいつでも本気だよ?」


八雲

「さて?では、いきますよ」


 開始の合図がされて八雲が動く。その攻撃をまたもゆったりとした動作でかわす奏。そして貴弥の時のように簡単に八雲をひっくり返した。


八雲

「ふふ。負けてしまいました」


「もう、満足?これで良いでしょ?」


 結果は1位奏20点、2位八雲10点となった。そして総合は会長チーム590点、副会長チーム580点で会長チームの勝利で幕を閉じた。



◈◈◈



 体育祭が終わり、奏はお屋敷でも神社でもない小さなマンションに来ていた。部屋に上がってリビングのソファーに少し乱暴に座ると、テーブルに置いてある煙草を手に取り1本取り出すとくわえて火を着け、深呼吸をしてため息にも似た息を吐いた。髪を解いて頭をがしがしとかいてもうひとつため息をこぼす。


「…本気本気って、何をそんなに俺にさせたいわけよ。はぁ〜」


―ピンポーン。


「?誰。まさ兄ぃも耀脩もまだ仕事中のはず」


 よろりと立ち上がってインターホンを確認してふっと笑い、玄関を開けに行く。


―ガチャリ。


「なぁに?こんな所までついてきちゃったの?」


「!お前、煙草…」


 ドアを開けるとそこに居たのは優と将也だった。


「やだ。バレちゃった。ナイショにしてよね?何事も無く卒業したいんだから。ほら、上がんなよ」クスクス


 リビングに優と将也を通して、自分はベランダの窓を開けてそこに座った。一応煙がふたりのところにいかないように気を使ったらしい。


「で?どうしたの?俺に何か用事だった?」


「あぁ、いや、また喧道の稽古相手やって欲しくて…声、掛けようと思ったんだけど…お前、なんか様子違うし、屋敷にも神社にも向かわないから気になって…」


「それでついてきちゃったんだ。喧道の相手ねぇ…手が空いてる時だったら良いけど…」


「頼む。というか、ここは何なんだ?」


「ここ?ここはね、俺と雅春まさはるさんと耀脩の秘密基地だよ」


「雅春さんと耀脩さん?」


「そう。家主は雅春さんで使ってるのはさっきの3人。俺は煙草吸う時とぼーっとしたい時に使ってる」


「八雲さんは知ってるのか?」


「あのふたりが俺を構ってるのは知ってるけど、煙草の事は知らないよ」


「…」


「ショック?俺が実はこんな奴で」


「いや、驚いたけど…」


「ふふ。さて、吸い終わったし帰るよ。ここ、一応秘密基地だから他の人入れないの。忘れ物しないでね。俺が怒られちゃう」


「なんか、邪魔したみたいだな」


「構わないよ」


 マンションを出て3人で帰る。何となく誰も話そうとはしなかった。やがて分かれ道に来て何事も無かったかのように別れた。


(優にもバレちゃったし、そろそろ煙草やめようかなぁ…でも、他のガス抜き方法知らないしな…。まさかあそこの部屋に優が来るとは…)


 胸元のドッグタグの飾りの鎖を指に絡めて遊ぶ奏。屋敷に着いてやがて夕食の時間になり、深く考えるのをやめた。なるようになるさ。



◈◈◈



【さくらみ荘】


咲妃

「今日の葵先輩、なんだかずっと変だったね」


「そうだな。…俺には本当の奏は引き出せねぇのかな…」


咲妃

「本当の葵先輩?」


「そう。何となくは感じてたんだ。あいつが俺に対してすぐに一歩引いてしまうことは」


咲妃

「…ゆっくりでいいんじゃないかなぁ?葵先輩もゆっくり優のこと見ててくれたんでしょ?」


「まぁな…でも、あいつ卒業したら七瀬を出てひとり暮らししながら大学に通うって言ってて…卒業までに知りたいんだ、本当の奏を…」


咲妃

「優…」


「…ところで、お前はひとり暮らしの話どうなってるんだ?」


咲妃

「うん…」


 ひとり暮らしの話題を出されて少ししょんぼりする咲妃。


咲妃

「お母さんが、どうしてもいいって言ってくれなくて…」


「そうか。もう何日かしたらお前の親帰って来るから、ちゃんとゆっくり話しろよな」


咲妃

「うん…」


「じゃあ、飯にするか。何食いたい?」


 優は咲妃の頭を優しく撫でながら話題を切り替えた。



◈◈◈



【相楽別宅】


 夕食を食べながら体育祭の話をする蝶子と佑真。


佑真

「今日あなたすごい活躍だったわね」


佑真

「ありがとう。でもそんな事ないよ。喧道もすぐ負けちゃったし」


蝶子

「優はもう何年も訓練しているのだもの。しかも、隊長補佐役よ?しょうがないわ」


佑真

「でも悔しい〜!」


蝶子

「ふふ。それよりあなた、女装綺麗だったわよ」クスクス


佑真

「思い出させないでぇ|||」


 思わず頭を抱える佑真に蝶子が笑う。


佑真

「でも意外だったなぁ。喧道、奏さんが優勝なんて」


蝶子

「そうね。でも、奏も陰で努力をしていたから」


佑真

「…奏さんてさ、なんて言うか…お兄ちゃんしてるよな」


蝶子

「お兄ちゃん?」


「こう、なんて言っていいかわからないんだけど、自分の事を後回しにして俺たちを立ててくれるなって」


蝶子

「そうかしら?気が付かなかったわ…だから、八雲兄さまが怒っていたのかしら」


佑真

「本気出せって言ってたね。なんか当たり障りなく適当に過ごしてるイメージあるなぁ」


蝶子

「…奏も何かを抱えてるのかしらね。私達にはわからない何かを」


佑真

「そうかもしれないね」


 食事を終えたふたりは風呂を済ませて今日の疲れを癒すようにさっさと眠りについた。



◈◈◈



 ご飯もお風呂も済ませた紗子は部屋の窓を開けて、向かいのカーテンの閉め切られた貴弥の部屋を見つめながら貴弥と電話をしている。よくお互い窓を開けて顔を出して話していたのを思い出しながら。


紗子

「今日はおつかれさま!貴弥」


貴弥

『おう。おつかれ。サエは今日は転ばなかったな』


紗子

「ね!びっくり!大縄跳びもひっかからなかったし!でも部活対抗リレーとか合同リレーとか足遅くて迷惑かけちゃったな」


貴弥

『迷惑なことないだろ。一生懸命がんばったんだから、誰も責めないだろ』


紗子

「えへへ。ありがとう/// あ!そういえば、貴弥の女装すっごくかわいかったよ!!」


貴弥

『やめろぉぉぉぉぉ!!!!思い出させるなぁぁぁぁ!!!!』( ߹꒳​߹ )


紗子

「みんなすごい美人だったよね!校長先生はすっごくおもしろかった!あと腹筋すごかった!」


貴弥

『校長先生腹筋マジですごかったなw きれいに割れてたw 葵先輩と八雲さんと神崎先輩とあと和田先輩?はむちゃくちゃ似合ってたな!佑真はちょっとごつかったw 咲妃ちゃんはまぁ当然かわいいよな!』


紗子

「葵先輩と八雲先生と神崎先輩と和田先輩すごかったよね!すっごいモテそう!」


貴弥

『実際モテるだろ。お店でもそうだけど、学校でもバラの夢のランキング上位だぞ』


紗子

「貴弥も負けないぐらいかっこいいよ!ランキングにも入ってたよね!」


貴弥

『いやいや負けるってw 無理だってw なんかもう骨格から細胞レベルで次元違うってw テレビ出れるレベルだって。佑真と葵先輩と八雲さんと神崎先輩は。顔で稼げるわ』


紗子

「そうかなぁ?貴弥だってかっこいいと思うけどなぁ?」(´•ω•`)


貴弥

『無理だよwww』(ヾノ・∀・`)ムリムリwww


紗子

「でも楽しかったよね!体育祭!」


貴弥

『そうだな。あ、もうこんな時間か。そろそろ寝るか。オレも部屋に戻らないと。あったかくして、ちゃんと窓鍵閉めて寝ろよ?』


紗子

「うん!大丈夫!ありがとう!おやすみなさい!///」


貴弥

『おやすみ!じゃあな!』


 電話を切って窓を閉める。カーテンを閉じようとしてふと「なんで窓開けてるのわかったんだろう?」と思った。まいっかと電気を消してベッドに入り、来月のバラの夢絶対買わなきゃ!と笑って眠りに落ちていった。



◈◈◈



【相楽邸 八雲個室】


 自室で今日一日の報告書をまとめている八雲。部屋の襖が軽くノックされて声が掛けられる。


八雲

「何ですか?今報告書をまとめているので少し待っていてください」


耀脩

「待てないかな。やっちゃん喧道の相手してよ」


八雲

「私がですか?」


耀脩

「そう。このままじゃ悔しいから。機動隊隊長として情けない」


八雲

「私達執事室は手隙の時にしっかり集中して稽古しています。機動隊ももう少ししっかり集中してやってはいかがですか?」


耀脩

「ちょっと違うんだなぁ。俺は稽古して欲しい訳じゃないんだ。やっちゃんから一本取りたいだけ」


八雲

「私から?…そうですね。では、賢児けんじ君からまずは一本取ってきてください。そうしたら相手になってあげますよ」


耀脩

「賢児から?どうして」


八雲

「賢児君からすら一本取れないようでは、私からなんて夢のまた夢ですよ。ましてや奏なんて相手にすらならないでしょう」


耀脩

「…」


八雲

「少し、隊長という立場にあぐらをかいていたのではないですか?まずはそこから見直して改善していった方が良いですよ」


耀脩

「…わかった。賢児から一本取ってくればいいんだな。すぐに取ってきてやる」


八雲

「だと、良いですね。私の執事室は皆強いですよ。ふふ」


 それから数日、耀脩は時間ができる度に賢児に挑んでいるが、やはり八雲の言う通り強かった。いまだに一本取れないでいる。


耀脩

「あぁ!クソっ!もう一本!」


賢児

「またですか?もういい加減休憩にしませんか」


耀脩

「もう一本頼む!」


賢児

「もう…八雲さん何とかしてくださいよ」


八雲

「そうですね。少し休憩にしてはどうですか?焦っては取れるものも取れませんよ?」


耀脩

「…っわかった」ハァ…


 そんな耀脩達の隣ではひとりでトレーニングをしていた奏のところに優と佑真と貴弥が押し掛けていた。優は稽古相手を頼みに、佑真と貴弥は教えを乞いに頭を下げに来たのだ。


「…困ったな。俺は教えるほどまじめに稽古してないし…」


「優勝しておいて何言ってやがる」


「そんなこと言われてもなぁ。俺も昴さんに教えてもらっただけだし、そのまま頑張ればいいんじゃない?」


「俺は教えて欲しいなんて言ってない。相手になってくれって言ってるんだ」


貴弥

「オレは教えてほしいです!お願いします!」


「一柳くんはなんで俺なの?」


貴弥

「オレはどうしてもナギから一本取りたくて。昴さんの稽古だけじゃ足りない、と思って」


「さっきも言ったけど昴さんの稽古でも足りるよ?俺がそうなんだもん」


佑真

「でも!やっぱりちょっと変わったことしたくて。奏さんお願いします!」


「えぇ…もう、耀脩といい、どうしたのよみんな」


「あはは!モテモテだな奏!」


「昴さん。笑ってないでなんとか言ってくださいよ」


「たまには良いんじゃないか?教えてやるぐらい良いだろ?減るもんじゃないし」


「そんなこと言われても…俺、機動隊みたいに毎日まじめに稽古してるわけじゃないし…」


「だからだろ?機動隊よりも少ない時間でそれだけ強くなれたんだ。誰だって教えを乞いたくなるだろう。俺に遠慮してるならそんな事は気にしなくてもいいぞ」


(困ったな…昔の喧嘩三昧な毎日で力つけたなんて言えないし…)


「ん?どうした?」


「はぁ…」


 やれやれと肩を落とすと「しょうがないか…」とこぼして貴弥と佑真を見る。


「じゃあ、俺がいつもやってるトレーニングだけね?あとはひたすら組み手するんだよ?」


貴弥・佑真

「「ありがとうございます!!」」


渚斗

「かっなでにーちゃーん!!///」


「ナギ?どうしたの?」


渚斗

「オレにも教えてぇー!!」アハハ!!


「えぇ…ナギもなの?」


渚斗

「だって体育祭で優勝したんでしょ!?オレもオレも!!///」


「あのねナギ。一柳くんがナギを倒したいんだって俺のところに来たの。ふたりとも俺に教わってたらつまんなくない?ナギは昴さんに、一柳くんは俺にって分かれて教えてもらった方がおもしろそうじゃない?どっちの教え方が上手いかみたいなさ?」


渚斗

「え〜?うーん…そうかなぁ?…そうかも!絶対負けないからなー!貴弥にーちゃん!」((⊂(∩///`ω´///∩)⊃))フンフン


貴弥

「お、おう!」


(騙されてる。騙されてるぞ渚斗)クスクス


渚斗

「武芸会で勝負だー!!」


貴弥

「武芸会?」


「相楽の家で行われる行事のひとつだよ。普段の稽古の成果を見せる会だな。なんと優勝するとお小遣いも貰えるんだ」


貴弥

「へぇ」


佑真

「それって執事室もですか?」


「いや、機動隊だけだ。けど、今年はどうかな?体育祭の話を聞いた大旦那様がおもしろがってルールを変えるかもしれないな」


佑真

「俺も出てみたいなぁ」


「じゃあうんと稽古しないとな。大旦那様がルールを変えてもいいと思うくらいにな」


佑真

「うす!」


大鷹佐おおたかのすけ

「なんだ?佑真も出たいのか?」ヒョッコリ


佑真

「∑わ!じーちゃん!」ビクッ


大鷹佐

「そうだな。昴が言う通り、今年はルールを少し変えるか」フム


「…執事室も参加ですか?」


大鷹佐

「奏。お前の気持ちがどうあっても、もう隠し通せるものじゃないぞ?観念したらどうだ?」カッカッカッ


「大旦那様まで…」ハァ…


大鷹佐

「能ある鷹は爪を隠すと言うが、いつまでも隠していては勿体無いぞ?」


「大旦那様がここまで仰るんだ。諦めろ奏」クスクス


大鷹佐

「そういう事だ。八雲、出掛ける。車を出してくれ」


八雲

「はい。只今。耀脩、程々にしてくださいね」


 そう言って八雲は先に道場を出て行き、続いて大鷹も出て行った。残った耀脩はまた賢児に何度も挑んで、奏は貴弥と佑真にトレーニングを教えた後、優の相手をした。


「稽古も良いけど、体育祭も終わってそろそろ中間試験だろ?勉強もちゃんとしろよ?」


 膝から崩れ落ちる貴弥。忘れていた。中間試験?なにそれこわい…。


佑真

「大丈夫か貴弥;;;」


貴弥

「ダメだ…オレはもうダメだ…|||」


佑真

「勉強なら俺が教えてやるよ。大丈夫」


貴弥

「すまねぇ…|||」( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)


佑真

「じゃあ、放課後に勉強会するか。たぶん紗子ちゃんと咲妃ちゃんも困ってるだろうし」


「あ、じゃあ部室使う?部室の方がやりやすいでしょ?」


佑真

「そうっすね。奏さん達もどうすか?咲妃ちゃんは優さんが居た方が頑張れると思うし」


「あー俺はいいかな。普段の授業で間に合ってるし」


「俺も。でも咲妃の勉強は見てやろうかな」


渚斗

「いいなぁ。勉強会楽しそう。オレも高校生になったらまぜてくれる?」


貴弥

「たのしそう…???」


渚斗

「楽しそうだよ!友達と集まるなんてなんでも楽しいじゃん!」


「なら中学の友達と集まればいいだろ?」


渚斗

「みんなテスト勉強しないんだよね。オレの友達もふだんの授業で間に合ってる感じだから」


貴弥

「ふだんのじゅぎょうでまにあってる…???」( ᐕ)


佑真

「ダメだなこりゃw 達也さんの授業じゃ全然足りないよ。大丈夫。貴弥が悪いわけじゃないよ」


「あはは!達也さんの授業じゃあねぇ。ほとんど自習だもんな」


「達也さんはほんとよく教師になれたよな」


 この日はこのままちょっと達也の謎についてまったり話して解散となった。



◈◈◈



 それから数日、放課後の部室では勉強会が開かれていた。紗子と咲妃と貴弥は泣きながら勉強している。奏はというと勉強会には参加せずに深優と会っていた。中間試験の勉強をしようと深優に誘われて神崎の屋敷に来ていたが、奏のペンは進まずぼーっと深優を眺めていた。


深優

「…奏君、ノート真っ白だよ」


「え?あーうん。なんか手につかなくて。別に頑張らなくても赤点は取らないし、いいかなって」


深優

「集まった意味無いじゃん」


「意味無くないよ。深優ちゃんに会えるだけで俺には意味あるよ」


深優

「ゲーム?」


「そうそう。だから俺のことは気にしないで深優ちゃん勉強しててよ」


深優

「そんなに見られたら気になるよ」


「そう?じゃあ俺もやろっかな」


深優

「…奏君は悔しいって思わない?」


「ん?なにに?」


深優

「僕はテストの結果が貼り出されて、ひとりでも僕より点数を取ってる人が居ると悔しいって思う。優にだって負けたくない」


「俺は思わないな。赤点さえ取らなければそれでいいと思ってる。順位とか気にならないな」


深優

「そう。でも、前に負けず嫌いだって言ってなかった?」


「あー…なんて言うかな?1対1になると負けたくないんだよね。大勢居ると全員は無理だからほどほどでいいやってなっちゃうの」


深優

「ふーん?…じゃあ勝負しよう奏君。僕とどっちが良い点数取れるか」


「どうしたの急に」


深優

「僕は奏君が優に負けるのも嫌。負けたら1日勝った方の言う事を聞く」


「…いいよ。負けても文句言わないでね?」クスクス


深優

「すごい自信。奏君こそ覚悟しといてよ」


「うん。さってさて。じゃあまじめにやろうかな」


 そう言って奏はやっとまじめにテスト勉強を始めた。それを見た深優も何事も無かったかのように再開する。この日は夜まで勉強をして奏は夕食をご馳走になって帰った。


 翌日―。


【カフェ部部室】


「何だ。少しはやる気になったのか」


「え?うん。まぁ。深優ちゃんと点数勝負しようってなってね」


「ふーん?」


将也

「できた!優!終わったよ!」


「ん」


「あ、優ってさ、いつもテストの順位どれくらい?」


「俺?俺は真ん中よりちょっと上ぐらいだけど」


「そっか」


「何だよ。俺とも張り合うのか?」


「いやいや、深優ちゃんに俺が優に負けるのもイヤって言われて。どのぐらいなのかなって思っただけだよ」


「上等じゃねぇか。トップ取ってやるよ」


「ちょっとやめてよ。俺そんなに頑張れないよ」


「お前どうせテストも手ぇ抜いてるんだろ」


「またその話?やめてよもう」


「…決めた。俺は卒業までにお前に本気出させる。学校でも家でもお前を超える」


「そんな大袈裟な」


「お前のその余裕ぶった態度腹立つんだよ。ちゃんと俺を見ろよ」


「見てるよ。ずっと前から」


 そう言って笑う奏に優はまた子供扱いされたような気がしてムッとした。一体どれだけ頑張れば奏は自分の事をちゃんと見てくれるんだろうか。優の中はそれでいっぱいになっていた。



◈◈◈



 ここのところずっと何かにつけて本気を出せと言われたり、喧道の指導を頼まれたりと自分のペースを乱されまくりな奏はまた雅春のマンションへと来て煙草をふかしていた。


―ガチャリ。


雅春

「来てたのか奏」


「やっほー」


 くわえ煙草で手をひらひらとさせて雅春を迎える。


雅春

「1回帰ってから来たのか」ヨイショ


「制服に煙草の匂いついちゃうからね」


 ふとテーブルを見ると、灰皿にはちょっとした吸い殻の山ができている。


雅春

「なんかあったのか?今日はまた随分吸ってるな」


「うーん。ちょっとね〜。最近やたら本気出せ本気出せってなんでかめちゃくちゃ言われるんだよねぇ。当たり障りなく適当に過ごしてたらダメ?」


雅春

「悪くはないけど。でも俺も、俺の弟はこんなに凄いんだぞって自慢したいな。せっかくまだ若いんだし、一度くらいは本気出してもいいんじゃないか?」


「えぇ?雅兄ぃまでやめてよもう」


雅春

「高校生活もラスト1年なんだし、やってみろよ。損は無いぞ?」


―ガチャッ!!!バタバタバタッ!!!バンッ!!!


耀脩

「見てー!!陽舞はるまくんの新作出たのー!!///」o(>∀<*)o


雅春

「お前も飽きないな…」


「ほんとねぇ」


耀脩

「だって!!奏全然ヤらせてくれないじゃん!!」(๑˘・з・˘)ブ-


「それは耀脩が俺をその気にさせられなかったからでしょ」


 耀脩が奏をガチで好きなのは相楽組ではあまりにも有名な話である。そのせいでたまに彼女欲しいと口走っても無理だろと言われる。ちなみに陽舞くんとは耀脩激推しのゲイビの男優である。髪型や雰囲気がどこか素の奏に似ているのだ。こんな耀脩だがゲイではない。葵奏という人間がめちゃくちゃ好きなだけである。でも実は別れたけどキープし続けている元カノが居るとか居ないとか…。


耀脩

「じゃあもう1回チャンスちょうだい!!今度こそその気にさせてみせる!!」フンスッ


「無理でしょ。別にいいけど」クスクス


 そう言って苦笑いしながら煙草を手に持つと、ソファーに寄りかかって耀脩を呼んだ。雅春はやれやれと肩を落とすと缶ビールを開け、仕事用PCの電源を入れて仕事を始めた。耀脩のこのノリにはもう慣れたもんだぜ。耀脩はというと「やりぃ!」と嬉しそうに奏に近付いてソファーに片膝を乗せて覆い被さってキスをする。舌を絡ませて反応を確認するがうんともすんともだった。顔を離すと奏が舌を出して笑った。


「残念でした〜」


耀脩

「クソー。自信無くすわぁ。俺キス超上手いんだよぉ?女の子が腰抜かしちゃうぐらい。あ、もしかして不能…だったり?」


「ちゃんと勃ちますぅ。もう経験済みですぅ」


耀脩

「な、なんだと!?俺以外の奴とヤッたのか!?俺以外の奴と!?!?もういい!!陽舞くんの新作観る!!」(> <。)フーンダ!!


 拗ねてテレビの前で体育座りをしてディスクを再生する耀脩。ふと仕事をしていた雅春が手を止めて奏を見る。


雅春

「驚いたな。お前そういうの興味無かっただろ」


「まぁね。可愛い子に初めてもらって欲しいって頼まれちゃってね」


雅春

「それで?意外だな。お前そういうの全般的に断ってただろう」


「ちょっと特別な子なの。なんでもしてあげたくなっちゃう」クスクス


雅春

「へぇ?余程好い子なんだな。どんな子なんだ?」


「優の妹だよ。深優ちゃんていうの」


雅春

「優の妹?それはまた意外なところと。…じゃあ、尚のこと今のままじゃ居られないな」


「えぇ?どういうこと?」


雅春

「神崎の跡取りだろ?今のまま、ふわふわしてられる相手じゃないぞ。お前だって神社継がないといけないんだから。真剣に考えないと」


「あー…そういうのは3学期になってから考えるよ。今はまだ自由でいたい」


耀脩

「…」


 そう言って肺いっぱいに煙を吸って吐き出す。雅春も「そうだな」と言って、PCの画面に視線を落とした。雅春と耀脩は奏が荒れていた頃から知っている。その理由も。だからあまり強くは頑張れとは言わないようにしている。この話もここでお終い。やがて最後の一本と決めていた煙草を吸った奏は先に帰って行った。


雅春

「…少し達観し過ぎてるよなぁ、奏」


耀脩

「俺はって線引きしちゃう癖がついちゃってるよな」


雅春

「卒業するまでに何とかしてやりたいが」


耀脩

「難しいだろうね」


 やがてふたりとも黙り、再生されたエロ動画の音が虚しく響いた。



◈◈◈



 中間試験が終わった日の部活の時間。紗子と咲妃と貴弥がぐったりしている。テストからの解放で力が抜けたらしい。


八雲

「テストお疲れ様でした。どうでしたか?」


紗子

「解答欄は埋められたと思います…」(꒪ω꒪υ)


貴弥

「オレは解答欄が1個ズレてた気がする…もうダメだ…」( ߹꒳​߹ )


将也

「オレは解答欄埋まらなかった…せっかく優に教えてもらったのに…」( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)


八雲

「おやおや。奏と優はどうでしたか?」


「まぁまぁかなぁ」


「俺も」


八雲

「蝶子さんと佑真くんは?」


蝶子

「私もまぁまぁできたんじゃないかしら」


佑真

「俺は楽勝です!」


八雲

「ふふ。楽勝ですか。結果がどうあれ皆さんよく頑張りましたね。ところで今年のお屋敷での武芸会ですが、ルールが変わったので今お知らせしておきますね」


佑真

「お!どうなったんですか!」


八雲

「今年は機動隊だけではなく、執事室も参加となりました。もちろん佑真君の参加もOKとなりました」


佑真

「ははっ!やった!///」


「あーあ俺はやだなぁ」


「逃げんなよ?」


「逃げないよ。屋敷での行事だもん」


学校の体育祭の事とはいえ、適当に手を抜くなんて出来ないな…。

あぁ…めんどくさい…。

目立ちたくないのに…。


紗子

「武芸会?ってなんですか?」


八雲

「相楽組の年中行事で、平たく言ってしまえば喧道の大会です。日頃の稽古の成果を発表する場でもありますね」


紗子

「へぇ〜!」


蝶子

「紗子と石井君も応援に来る?」


紗子

「え?いいの?」


蝶子

「ふたりとも一柳君と優の応援したいでしょう?」


紗子

「うん!///」


将也

「オレもいいの?」


蝶子

「えぇ。もちろん。私からお爺さまに話しておくわ」


紗子・将也

「「やったぁ!!」」


八雲

「良かったですね。ふふ。奏は良いんですか?」


「え〜なにが?」


八雲

「深優さんを招待しなくても、です」


「うーん…深優ちゃん退屈しちゃわないかなぁ」


蝶子

「誘ってみなさい。それも私がお爺さまに話しておくわよ」


「まぁ、じゃあ、聞くだけですよ?」


 それからは毎日、武芸会に出る面々は稽古に励んだ。奏はというといつも通りに手が空いた時間にちょこっとトレーニングをするだけだった。そして、耀脩はというと、まだ賢児から一本取れないでいた。焦りが積もって余計に空回りしてしまう。賢児はあまりにもしつこい耀脩に少しうんざりしながら付き合っていた。それからまた少し日が経ち、中間試験の結果が張り出された。


「…」


男子生徒①

「凄いな神崎!今回はすげぇ上に入ってるじゃん!」


「…でも、負けた」


男子生徒①

「え?負けた?誰に?」


「…奏」


男子生徒①

「え?葵?そういえば今回は」


 優はムッしながら貼り出されている順位表を睨んだ。


【三年 中間試験順位】

――――――――――――――

席次|  氏  名  |点数

 1 | 葵 奏    |700

 2 | 武田たけだ 由利香ゆりか|696

 3 | いぬい 千遥ちはる   |694

 4 | 神崎 優   |692

 :

――――――――――――――


男子生徒①

「でも10位以内に入ってるのすげぇよ。俺なんて下から数えたほうが早いもんなw」


(満点かよ…やっぱり手ぇ抜いてたんじゃねぇか…)チッ


「あれ?試験の結果出たの?」


男子生徒①

「おい!葵すげぇじゃん!トップだぞ!いつもは真ん中らへんのくせにw」


「うん、まぁ、今回はちょっとテストの点数勝負してたからね」


男子生徒①

「へぇ?そんなことしてたんか。もしかして神崎とか?」


「いや、彼女と。勝ったら1日言う事聞くなんて言われたらさ。やるよね?」クスクス


男子生徒②

「なんだそれ!超うらやましいじゃねぇか!なにすんだぁ!?このやろう!!///」


「んーなににしようかな?とりあえず結果教えるのに写真撮ろっと」


「…」


 撮った写真はすぐに深優に送った。すると返信はすぐに来た。同じく結果の写真とひと言だけのメッセージ。


〔神崎深優〕

[僕の負けだ]


「お、勝った。なにしてもらおうかな」


「…深優は」


「うん?」


「あいつは結果どうだったんだ?」


「あぁ、4位だって。でも優のが点数は勝ってるよ」


「そうか」


「そうやってすぐ深優ちゃんと張り合うんだから。ふたりともそっくりだよね」クスクス


(…今回はだいぶ頑張ったんだけどな…しかし、屋敷の手伝いもして、神社の手伝いもして、合間に稽古もして、俺達の相手もして…いつ勉強なんてしてるんだ?本当に授業だけなのか?)


 優はもやもやしながら掲示板を離れた。そして1年生組みはというと…?


【一年 中間試験順位】

――――――――――――――

席次| 氏  名  |点数

 1 | 相楽 蝶子 |700

 1 | 藤澤 佑真 |700

 :

――――――――――――――


男子生徒①

「藤澤は完璧超人かなんかなのか…?」


男子生徒②

「相楽さんもすげぇな…」


紗子

「ふたりともすごいね…」オォ(*˙꒫˙* )


貴弥

「佑真マジすげぇな…授業中いつも寝てるのに…」( ˙꒫˙ )


将也

「オレたちに勉強教えて、それ以外でもやってたってこと…?うそでしょ…」(´・∀・` )


佑真

「おっす!3人ともどうだった?追試受けなくて良さそう?」ヒョッコリ


紗子

「わたしはギリギリ大丈夫だったよ!」


貴弥

「オレはひとつ落とした…||| やっぱり解答欄がズレてたらしい…|||」


将也

「オレは3つダメだった…|||」


佑真

「あらあら。紗子ちゃんはおめでとう!ふたりは追試頑張ろっか!俺また教えるし」


貴弥・将也

「「はい…|||」」シクシク…


蝶子

「紗子、頑張ったわね。おめでとう」


紗子

「ありがとう!ちょうど蝶子ちゃんが教えてくれたところが出てよかったよ!///」


蝶子

「そう。良かったわ。ふふ」


佑真

「そういえば優さんと奏さんはどうなったのかな?」


「負けた」


佑真

「∑わ!優さん!」


「あいついつもは真ん中よりちょっと上ぐらいのところに居るくせに、今回はひとりだけ満点でトップで俺は4位で負けた」


佑真

「…手、抜いてたってこと?」


「だろ?いきなり満点なんか出せねぇだろ。将也、テストどうだった?」


将也

「∑う"っ…3つ赤点でした…|||」


「そうか。まぁ、頑張ったんじゃないか。追試も頑張るぞ」


将也

「うん…|||」


「というか、耀脩さんの話は本当だったんだな」


佑真

「え?耀脩さん?」


「お前、入試トップだったんだろ?お前にまで負けてんのかよ…」


佑真

「俺は、勉強する時間だけはいっぱいありましたから…現実逃避するのにちょうどよかったんです。それだけですよ」


「…そうか。次は負けないからな」


佑真

「ありゃ?俺とも張り合うんですか?」クスクス


「当然だろ。弟に負けてるなんて悔しすぎるだろ」


佑真

「あはは!次も頑張りますよ!」


 「あぁそうかよ」と言って優は3年の教室へと帰って行った。1年生組みも教室へと戻った。そしてそれから追試の為の勉強会がまた開かれた。



◈◈◈

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