第3話 ようこそ、遊部へ!②
「はーい。どうぞ〜」
中から女性の声が聞こえ、心臓の鼓動はまた一つ加速する。僕は一呼吸置いてから『し、失礼します』と言葉を発して扉を開け、部室内へ足を踏み入れた。
中は想像していたよりも広々としており、小教室くらいの広さを感じる。部室として使うには贅沢な広さだ。
机や椅子やロッカーはもちろん、本棚やソファ、そしてトランプや将棋盤やおもちゃの刀、さらに多種多様なボールなどが視界に入る。遊部という名に恥じない部室内だ。
「ごめんなさい。今、部室内の片付けをしてて」
部室端でしゃがみ込んでいた女子生徒は膝に手をつき立ち上がり、僕の元へと駆けてくる。
彼女の姿を視界に収めた僕は、思わず息を呑んでしまった。
想像していたイケイケ女子とは真反対と言ってもいいだろう。佇まいから落ち着きを感じさせてくる。
触れなくてもサラサラなのがわかる腰まで伸びた艶めく髪。垂れた目からは優しさが伝わり、スカート丈は長すぎず短すぎない。黒のタイツに包まれた足も魅力的ではあるが、何よりも目を奪われてしまう、胸元の息苦しそうなシャツのボタンに。
リアルでこのような表現を使用する機会があるとは思いもしなかった。
「こんにちは。初めましてですよね? 私、三年の
ニコッと優しく微笑んでくれて、ご丁寧に一礼までしてくれた。
僕も『い、一年の
「百瀬先輩って言いづらかったら、もも先輩でも凪先輩でも、立花くんが呼びやすいように呼んでくれて構いませんからね」
もう一度ニコッと微笑んでくれる。
なんだこの先輩は? 第一印象通りの優しさに、兎にも角にも可愛い……! 先輩に会いたいがためにこの部活に入ってもいいくらいだよ。というかいるだろ、そんな
「じゃ、じゃあ、その、凪先輩とお呼びしてもいいですか……?」
「もちろんですよ。これからよろしくお願いしますね、立花くん」
心臓の高鳴りが止まらない。まだ入部すると決めてもいないのに、脳内は凪先輩との甘い部活動生活を思い描いている。
好奇心に負けた自分よ、ありがとう。お前がいなければ凪先輩と出会うことはなかった。本当にありがとう。
「今日は体験に来てくれたみたいだけど……ごめんなさい。今、部長が席を外してて。すぐ帰ってくると思うから、それまで座って待っててもらってもいいですか?」
「も、もちろんです!」
背筋を正して凪先輩に応え、近くの椅子を引いて腰を下ろす。
凪先輩は僕に背を向けシャツの袖を捲ると、床に散らかっている備品の片付けを再度始めた。
「ところで、立花くんはここ以外にも体験しようと考えてる部活動はあるんですか?」
片付けをしながら、僕を退屈させないようにと会話をしてくれる凪先輩。その優しさに、また心臓が高鳴る。
「あ、いや、ここ以外はまだ考えてないです」
「そうなんですね。中学の頃は、部活動やってましたか?」
「はい。ソフトテニスをしてました」
「ソフトテニス、楽しいですよね。私、遊び程度ですけど何度かソフトテニスはしたことあるんですよ。もしよかったら、今度一緒にやりませんか?」
「も、もちろん! 僕でよければ!」
「ふふっ、楽しみにしてますね」
ダンボールを抱えながら僕に振り返り、スマイルを一つ。素敵なスマイルにつられて、僕も笑顔を咲かせる。
「運動部に所属してたってことは、身体を動かしたりするのは嫌いってわけではないんですね」
「はい。むしろ結構好きで、スポーツとかも定期的にできるのであればやりたいなぁって思ってます」
「うち、ソフトテニスはないですけど、硬式テニス部は男子もありますよ。そっちには体験行かないんですか?」
「あー、えっと、なんと言いますか……僕、スポーツは友達とワーワー騒ぎながら楽しみたい派でして。高校の運動部って、勝手なイメージなんですけど、結構ガチガチと言いますか……。別に大会を目標に頑張るのが嫌いってわけではないんですけど、僕、趣味がゲームをすることなので、テニスは好きですけど、できることならゲームを優先したいなって思いがありまして」
「そうだったんですね。私も、スポーツすることは好きですけど、立花くんと同じで友達と楽しみたい派です。私たち、結構気が合うかもしれませんね」
またまた素敵なスマイルと共に嬉しい一言。
立花涼介、恋という名の沼に沈んでいきそうである。
僕のような平凡男子が高嶺の花である凪先輩となんて万が一にもあり得はしないが……夢見てしまうよ、気が合うかもとか言われたら……!
「凪〜ダンボールもらってきたぞ〜」
甘い妄想に
扉は僕が目を向けると同時に開き、畳まれたダンボールを両脇に抱えた男子生徒が部室内へと入ってきた。
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