新しい友達(萌桃's Story)
第40話
「失敗しちゃったなぁ……」
家に帰って自室に戻ってから、大きなため息を吐き出した。もう少しで滝澤さんに告白できそうだったのに。
「まあ、嫌われなくて済んだってことにしておけばいいかな……」
小さくため息をついてから、ベッドの上でクッションを抱きしめながら、背中を丸めて横になる。ギュッとクッションを抱きしめながら滝澤さんのことを考えた。
「まあ、今週末も一緒に遊びに行けるから良いかな……」
本音を言うと滝澤さんと2人だけで行きたかったけれど、チケットをくれた子にそんなことを言うのも失礼な気がしたから、その気持ちは心の中にしまっておいた。ベッドで横向きに寝転びながらスマホを触る。送信先はもちろん妃菜乃ちゃん。
”滝澤さんに告白しようとしたけど、ダメだった~😭😭😭”
送信ボタンを押した瞬間に既読がつき、すぐに電話がかかってくる。妃菜乃ちゃんはわたしがメッセージを送ったらすぐに電話をしてくれる。どうせ電話をすることになるのだから、初めからかけておく方が早いのだろうけれど、なんとなくわたしからかけるのは緊張してしまうのだった。
耳元に触れさせたスマホの画面からはかなりテンションの高そうな大きな声が聞こえてくる。
『モモピ、マジで告白しようとしたの!?』
うん、と頷くと妃菜乃ちゃんが感心したような声を出す。驚きとか喜びとか混ざった声。
親友が告白を失敗した割には元気そうな声なのは、妃菜乃ちゃんなりの気遣いなのかな、なんて思ったりする。
『意外と覚悟決まってるじゃん』
「この間妃菜乃ちゃんに言われて、このままだったら滝澤さんが誰かの彼女になっちゃうかもって思ったら、やっぱりうかうかしてられなくて」
今日は久しぶりに滝澤さんと一緒に帰れる大チャンスもあったわけだし、これも運命かもしれないと勘違いして告白してしまった。
『やればできる子じゃん』
妃菜乃ちゃんがケラケラと笑う声が聞こえてくる。妃菜乃ちゃんに褒めてもらえたのが嬉しかったけれど、結果的には告白はできなかったわけだしまだ褒めてもらえるようなことはできてない気がする。
『でもでも、ダメだったってことは滝澤さんに振られたってことだよね? あたしが慰めに行ってあげようか?』
「ねえ……。フラれた報告なのになんか嬉しそうじゃない?」
『そんなわけないじゃん。大好きなモモピが失恋してそんなこと思うわけないじゃん!』
「まあ、そりゃそうだよね」
変なことを聞いちゃったと思って少し反省する。妃菜乃ちゃんが冗談でもわたしの失恋を喜ぶわけがないんだし。
「フラれたというか、邪魔が入っちゃったんだよね……」
『え?』
「なんか告白しようとしたら滝澤さんの友達がちょうど屋上に来て……」
『ちょうど?』
「そう。告白寸前の一番いいところで」
『ふーん……』
妃菜乃ちゃんが訝しがる声が聞こえてくる。
まあ、そうだよね。さすがのわたしでも正直あのタイミングは怪しいと思ったもん。
それこそ……
『どこかで聞き耳でも立ててたんじゃないの?』
妃菜乃ちゃんはわたしが思ったことと同じことを言う。そう考えてしまうくらいちょうどのタイミングで入ってきたから、その可能性は十分あると思う。
それでも、わたしは苦笑いをして否定しておいた。
「そんなわけないじゃん」
人の感情なんてどうせわからないんだから、表に出ているもの以外は見ない方が良い。期待も、不安も抱かない。そう決めてる。
わたしは滝澤さんの友達の持ってそうな感情を推察しない。ただ、3人で一緒に遊園地に行こうと誘ってくれた優しい友達。今はそれだけの人。少なくても、今は。
『モモピはさぁ、もうちょっと人のこと疑う癖付けた方が良いんじゃない?』
「滝澤さんの友達は悪い人じゃないんだから、疑う必要なんてないよ」
『モモピのそういうとこ好きだけど、そのうち詐欺にでも遭いそうで心配になるね』
妃菜乃ちゃんは大きなため息をついた。
『だいたい、告白を邪魔してきたんだから、良い人じゃないじゃん』
「偶然だって。遊園地のチケットだってくれたんだから」
『チケット?』
「そう、なんかチケットを2枚持ってて、わたしと滝澤さんに渡してくれたんだ」
『なるほど……』
妃菜乃ちゃんがスマホ越しに呆れたような声を出す。
『なんか怪しいからあたしも行って良い?』
思いもしなかった言葉をかけられて、思わず咳き込んでしまう。
「い、良い訳ないでしょ!?」
滝澤さんの友達にチケットをもらっているというのに、勝手に見ず知らずの妃菜乃ちゃんを連れて行っても良いわけがない。
『いやいや、もちろんわたしの分のチケットは自腹だよ?』
「いや、そういう問題じゃなくてさ……」
呆れたように笑ったけれど、まだ妃菜乃ちゃんは納得いかないようだった。どうやら、本気でついて行こうとしているらしい。
『うーん、でもさ……。ちょっと心配。なんか嫌な予感がするんだよね……』
「会ってもないのに?」
『あたしの勘、結構当たるし。ねえ、やっぱりついて行きたいんだけど』
「いや、さすがにダメだって……」
妃菜乃ちゃんはなぜか滝澤さんの友達のことを怪しんでいた。
「人のこと、悪意の気持ちを持って見たらダメだよ」
わたしたちの間での特別な言葉だった。おかげで妃菜乃ちゃんは大人しくなる。
『わかったよぉ……。じゃあ、せめて遊園地の名前だけでも教えてよ』
「教えたら着いてきそうだから嫌だって」
『ついて行かないよ~』
とても怪しいな。そう思ったけれど、今度は妃菜乃ちゃんに意趣返しをされてしまう。
『人のこと悪意の気持ちを持って見たらダメなんでしょ? ついて行かないから大丈夫だって』
「ずるいなぁ……」
呆れつつも、遊園地の場所を伝えたのだった。それを聞いて、妃菜乃ちゃんは満足気に笑う。
『オッケーオッケー、行かないから安心して』
「大丈夫かなぁ……」
滝澤さんの友達がいて、さらに妃菜乃ちゃんまで来たら面倒なことになりそうで怖いんだけど……
そんな心配をしながらも当日を楽しみに待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます