Ⅱ
萌桃と親友
第25話
翌土曜日、萌桃と約束をしていた日。
今日は朝から、なんだか気持ちがずっとふわふわしてしまっていた。朝のメイクも上手く行っているか気になってしまう。
鏡に映る自分が普段よりも残念な感じに見えてしまった。どれだけ手を加えても、どこかが変みたいに見えてしまう。
今までメイク後の自分の姿なんてそこまで気にならなかったのに。鏡に映る不安げな姿のせいで、かなり頼りなく見えてしまっていた。
「うぅ……。これで大丈夫かしら」
ただ友達と遊ぶだけなのに、一体どうしたんだろう。
普段杏海と遊びに行く日にこんなにしっかりとメイクしたことなんて無かったし、自分の容姿を気にすることもなかったのに。
鏡を見続けていても、どんどん不安になってしまう。そうこうしている間に時間も来ちゃいそう……。
パッと時計を見ると、もう待ち合わせ時間が迫ってきていた。
「うわっ……、もう1時半じゃん」
今度は大慌てでクローゼットの中から服を引っ張り出してみるけれど、一体全体どの服が今の自分に合っているのかわからなくなってくる。
「仕方ない、これでいっか……」
自分の姿に不安になりながら、すでに時間ギリギリになってしまっている集合場所のショッピングモールに向かって早足で移動するのだった。
歩くことおよそ15分。待ち合わせ時間の2、3分前ギリギリになってしまった。当然、萌桃は先に来て、ポツンと立っていた。周囲に人がいる状態で見る萌桃は、普段以上に小さく見えた。
不安そうに立っているように見えたから、大慌てで彼女に駆け寄った。
「ごめんなさい。遅くなっちゃったわ」
わたしの姿を見て、萌桃が固まっている。何も答えてくれないから心配になってしまう。
一応遅刻はしてないけれど、時間ギリギリになってしまったから、怒っているのだろうか。
そう思ったけれど、怒っているというか、なんだかぼんやりとしていると言った方が近そう。
「萌桃?」
手を顔の前でぶんぶんと振ってみたら、萌桃がハッとしたように顔をあげた。
「大丈夫?」
「いえ……」
「なんだかぼんやりしてるわよ?」
わたしが覗き込むように顔を近づけると、萌桃が慌てて顔を逸らした。
「え? 大丈夫?」
なんだか様子がおかしいような……
「あの……」
萌桃が言いづらそうに俯きながら呟く。
「そ、そんなに綺麗な顔近づけられたら緊張してしまいますから……」
「綺麗って……」
苦笑いをしてしまう。
「お化粧姿、普段見ないから、とっても可愛くて……。いえ、もちろん普段も綺麗ですし、元々顔が良いっていうか……」
「大袈裟すぎて恥ずかしくなっちゃうからやめてよね」
これでもかというくらい容姿を褒められてしまってなんだか気まずい。お世辞を真に受けるのも恥ずかしいけれど、萌桃に褒められるとやっぱり嬉しくなってしまう。
とりあえず、化粧が変じゃないなさそうなのは安心した。
「大袈裟じゃないんですけどね」
そんなことを小さな声で萌桃が呟いたように聞こえたけれど、聞き間違いだったら恥ずかしいから、何も言わないでおいた。
「でも、良かったわ。わたしが遅くなったから、怒ってるのかと思ったわ」
「あ、いえいえ! そんな! 全然待ってないです! 楽しみでちょっと早く来すぎちゃっただけです!」
そんなことを言われたら、待ち合わせ時間ギリギリにやってきたわたしは萌桃と会うのを楽しみにしていないみたいじゃない。
「わたしも楽しみにしてたからね!」
「嬉しいです」
ニコリと微笑む普段通りの萌桃の姿に安心する。やっぱりこの子は笑っている時が一番可愛い。
「あれからお腹は大丈夫なの?」
「全然大丈夫ですよ」
ポンポンっと自分のお腹を叩いていてから、ニコリと笑ってピースサインをしてくれる。いつもの萌桃で安心する。
「ならよかったわ」
安堵をしながら、わたしたちは歩き出す。
土曜日のショッピングモール内は人が結構多くて歩きにくい。
「でも、本当にここで良かったの?」
「高校になってからお友達と遊びに行くことがなかったから、実はどうやって遊んだらいいかとか、よくわからなくて……」
この辺で遊べる場所で一番初めに思いついた場所は、わたしも萌桃も、このショッピングモールだった。
どこか気の利いた場所を教えてあげられたらよかったのだけれど、あいにくわたしも中学の頃からずっと友達は杏海くらいしかいなかったから、教えてあげられない。
とはいえ、大型ショッピングモールなら普通に楽しめる場所もたくさんあるし、それはそれで楽しいと思う。というか、萌桃と一緒に遊べる時点で、とても楽しいわけだし、文句なんてない。
「でも、これだけ色々なお店があったらどこに行けばいいか困るわね」
服に靴に食べ物に雑貨に、いろいろな店が多すぎて、どこに入れば良いのかわからなくなってしまう。
「どこか行きたいところとかあるの?」
「どこでも良いですよ。滝澤さんと一緒にお散歩するだけでわたしは幸せなので」
嬉しいけど、大袈裟じゃない? まあ、いっか。
「ていうか、ここを歩くのを散歩っていうの?」
「細かいことは良いんですよ」
相変わらずルンルン気分の萌桃がふと足を止める。ゲームセンターの目の前だった。
「何か面白いものでもあったの?」
「いえ、懐かしいなって思って」
「よく来てたのね」
はい、と頷く。
萌桃とゲームセンター。ちょっと意外かも。少なくとも、今の姿からはあまり想像がつかない。
わたしたちは店内に一緒に入る。萌桃が気になっていたのは、クレーンゲームだった。
「ああ、なるほどね」
萌桃がぬいぐるみのクレーンゲームの筐体の前に歩いて行っているのを見て、納得した。
ゲームセンターと萌桃はあまりイメージに合わなかったけれど、ぬいぐるみと萌桃ならイメージ通りかも。
すっかりぬいぐるみのクレーンゲームに気を取られている萌桃の幸せそうな姿を見ながら歩いていた。
「見てください、これすっごく可愛くないですか!」
指さす先にある大きな猫のぬいぐるみは確かに可愛らしい。萌桃の雰囲気によく合っていた。
萌桃が抱きしめたら、絶対に可愛いと思う。
「よし……」
萌桃は500円玉を取り出した。
「やりますよ」
真剣な目でぬいぐるみを見つめながら、500円玉を筐体に入れた。クレーンが作動する。
「クレーンゲーム慣れてるの?」
「いえ、まったく」
言っているそばからポロリとぬいぐるみが落下してしまっていた。
猫のぬいぐるみは、当然のように元の場所に戻ってしまう。
「ま、まだあと2回できますから……」
「何回やっても変わらなさそうだけど……」
案の定、2回ともすぐに落としてしまっていた。
「うぅ……。全然ダメでした……」
残念そうに項垂れていた。
「わたしもやってみるわ」
今度はわたしが500円玉を入れる。
と言っても、わたしもクレーンゲームをしたことがないから、当然下手なわけで。
3連続で持ち上げるどころか、ほとんど触れることもできなかった。
そんなわたしの様子を、萌桃は苦笑いをしながら見守ってくれていた。
「わたしたち、クレーン下手っぴ仲間でもあるみたいですね」
クスクスと笑っていた。この間のボッチ仲間に続き、クレーン下手っぴ仲間も加わったらしい。
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