神殺しの転生勇者

神田 双月

第一部:覚醒の勇者編

第1話 「目覚めと異世界」

 ――風が耳に届く。


 頬を撫でる感触は、冷たいコンクリートや硬い床ではなく、ふかふかとした草の上だった。


「……ここ、どこだ?」


 目を開けると、空は深い青色に染まり、雲ひとつない晴天だった。太陽は高く昇り、光を全力で降り注ぐ。空気は澄み、草や土の香りが鼻に届く。遠くの丘には白亜の城が見え、雪を抱いた山脈がさらに奥に連なっていた。


 夢……だと思いたかった。


 しかし、体を起こして自分の服装を確認すると、学校の制服ではなく、黒いジャケットと動きやすいズボン、腰には見知らぬ剣がぶら下がっていた。手に取ると、軽すぎず重すぎず、手に吸い付くような感触がある。


「……これは……異世界転生?」


 心のどこかで笑ってしまう。

 日本にいた高校生の俺――天城レン――が、剣と魔法の世界に飛ばされるなんて。漫画やゲームならテンプレだが、現実として目の前に広がる景色は圧倒的にリアルだった。



 周囲を見渡す。草原の奥、木々のざわめき、遠くの山の稜線。風に揺れる草の一本一本が、まるで息をしているかのように動く。小鳥が舞い、蝶が飛ぶ。空気の匂いは爽やかで、鼻の奥に染み渡る。日本では味わったことのない、世界そのものの鮮明さに、心臓が早鐘を打った。


 地面に手を触れる。土は湿り気を帯び、柔らかく沈む。太陽光を受けた草の葉がキラキラと輝き、まるで無数の宝石が転がっているかのようだ。遠くの山々には雪が残り、冷たい空気が混じる。

 この世界は――美しい。だが、同時に危険も潜んでいる予感がした。


 足元の草を踏むたび、軽く柔らかい音が響く。風が頬に触れるたび、体の中の血液まで揺さぶられるような感覚。耳を澄ませば、遠くの小川のせせらぎ、森の奥の鳥の鳴き声、草原の中で虫たちが奏でる微かな音まで聞こえた。


 目を閉じ、深呼吸すると、体中の細胞が光を吸収するように熱を帯びる。

 まるで世界そのものが俺に呼びかけているようだった。



 その時、背後から声が響いた。


「ようこそ、この世界へ」


 振り向くと、金色の髪を長く垂らした女性が立っていた。

 肌は雪のように白く、純白のローブには金の刺繍が施され、光をまとっている。まるで神話の一部が現実に現れたかのようだった。


「……女神か?」

「その通りです。私はこの世界アールフェルドを統べる創造神、ルミナ。レン、あなたをこの世界に召喚しました」


 瞳の奥に強い光が宿る。まっすぐ見つめられた瞬間、心臓が強く鼓動した。


「俺の名前、知ってるのか?」

「もちろん。あなたの魂は特別で、この世界の鍵となる存在です」


 ルミナが手を掲げると、目の前に光のパネルが浮かび上がった。



【ステータス】

• 名前:天城レン

• レベル:∞(計測不能)

• スキル:【神殺し】【不死】【全魔法習得】【限界突破】【空間転移】【完全適応】

• 属性:全属性

• 加護:女神の祝福(最上位)



「……え?」

 思わず声が出る。

 レベル∞、スキルはチート中のチート。

 手を握るだけで空気が震えるような感覚がある。


「レン、あなたはこの世界の勇者です。この力を使い、魔王軍の脅威から人々を守ってください」

「いや、俺そんなタイプじゃ……」


「それでも、選ばれたのです」

 瞳に揺るぎない光が宿る。胸の奥で熱が走る。


「……わかったよ。やってやろう」

「ええ。あなたの決意が、この世界の運命を動かします」



 ルミナが微笑むと、光が全身を包んだ。

 力が体中に行き渡り、感覚が研ぎ澄まされる。風の揺れ、草の香り、遠くの鳥の羽ばたきまで鮮明に感じる。


 ――これが最強の感覚か。



 歩き出すと、遠くから甲高い悲鳴が響いた。

「きゃああああっ!!」


 反射的に駆け出す。森の奥から、金色の髪を揺らす少女が魔獣に襲われていた。巨大な牙と爪、唸る息。彼女は逃げ惑い、絶望の表情を浮かべている。


「……俺がやるか」


 指を鳴らすと、魔獣は音もなく吹き飛び、跡形もなく消えた。


 少女は唖然と俺を見つめる。

「えっ……何が……?」

「大丈夫か?」

「わ、わたし……リリア・アルトリア。この国の第一王女です」


 まさかの正統派ヒロイン登場。俺は思わず笑った。

「……ふふ。俺、異世界ライフ、順調すぎるな」



 その時、空に光が差し込む。女神ルミナの声が風に乗って響いた。


「レン、あなたの冒険は、今、始まったばかりです――」


 胸に力がみなぎる。世界最強として、俺の新しい人生が幕を開けた。

 空は青く、太陽は眩しい。

 そして、俺は確かに、最強として生まれ落ちた。

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