第2話 「運命の王女と王城への招待」

 森を抜けた草原の向こうに、白亜の城が巨大な姿でそびえ立っていた。

 太陽の光を浴びて、城壁の石は淡い黄金色に輝き、遠くからでも威厳を放っている。城門の上には王国の紋章――金色のライオン――が誇らしげに掲げられていた。


 隣で歩くリリアは、顔を少し赤らめながらも、しっかりとした足取りで歩いている。第一王女でありながら、逃げ惑う姿は昨日の出来事で一変した。


「レン……昨日は、ありがとう」

「いや、当然だろ。あんな魔獣、俺にとっては朝飯前だ」


 リリアは少し笑った。小さな笑顔だが、その瞳には感謝と少しの恥ずかしさが混ざっている。

 俺はその表情を見て、思わず胸が少しだけ熱くなる。



 城門前に到着すると、衛兵たちが整列してこちらを迎えた。

 第一王女の護衛に加え、俺の姿を確認すると、一瞬目を見張った者もいた。

 確かに、黒いジャケットに剣を携え、周囲を圧倒するオーラが漂っている――普通の人間ではない何かがあることは誰の目にも明らかだった。


「レン様、こちらへ」

 衛兵のひとりが道を開け、王城内へと案内する。

 城の内部は豪華さを通り越して、圧倒的な格式を放っていた。大理石の床、壁に飾られた王家の紋章、天井から吊るされた豪華なシャンデリア。


 リリアが小声で話す。

「ここ……本当に、城なのね」

「お前、初めて見たのか?」

「ええ……私、子どもの頃から王城で暮らしてるけど、毎日見ている景色とは違うように感じる」


 俺は微笑む。異世界に転生して、初めて「日常」を見ることができる。これもまた、面白い体験だ。



 王座の間に通されると、玉座に座る王――リリアの父――が俺をじっと見つめた。

 体格は大きく、威厳ある姿勢。長年王として国を守ってきた威光が全身から滲み出ている。


「……第一王女の護衛をしていた者か?」

「いえ、私は……」

「そうか、お前がレンか。ルミナ様に選ばれし者か……なるほど」


 王はゆっくりと俺の周囲を一周する。

 その視線は、単なる観察ではなく、能力やオーラの本質を見抜こうとしているようだった。


「私の王国を守る覚悟はあるか?」

 俺は軽く肩をすくめた。

「覚悟は……必要ないです。俺、最強ですから」


 王は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて笑った。

「ふむ……面白い者を呼んだものだな。ならば、国のためにも力を貸してもらおう」



 その後、リリアが俺に近づき、小声で話す。

「レン……王城での生活は、少し大変かもしれないわ」

「ふーん、どういう意味?」

「王族の護衛や儀式、国民との接見……色々あるの」

「なるほど。まあ、俺は暇じゃないから、面白そうなのだけやるか」


 リリアは少し不満そうな顔をしたが、笑顔を崩さなかった。

 俺の最強ぶりは、王城内でも噂になるだろう。これで、自然と注目を浴び、ヒロインとのハーレムフラグも進行することになる。



 その日の午後、王城の広間で最初の試練が行われることになった。

 王は城内の訓練場に案内し、俺に魔獣討伐の実演を依頼する。


 広間には王城の兵士たち、そしてリリアも見守っている。

 緊張感の中、魔獣の訓練用幻影が出現した。

 巨大な狼型の魔獣、牙と爪から青い光が漏れている。


「……これは、本物と同じ挙動をする幻影だ」

 俺は呟く。手にした剣が自然に光を帯び、体中に力が漲る。


 魔獣が突進する。

 俺は一瞬で位置を見切り、指先で小さく空間を操る。魔獣は空中で止まり、体勢を崩す。


「ふっ……」

 一瞬の間に剣を振ると、斬撃が光となって魔獣を貫く。

 幻影は音もなく崩れ、煙のように消えた。


 リリアは目を大きく見開き、感嘆の声を上げた。

「す、すごい……レン、あなた本当に……」


 俺は笑う。

「チートですから」


 これで、王城内での「最強」の立場も確定した。

 王族や兵士たちからの視線が変わり、自然と俺中心の物語が動き出す。



 夕方、王城の庭園を散歩していると、リリアが小声で話す。

「レン、明日からは正式に王城で生活してもらうわ」

「了解。まあ、俺にとっては楽勝だろう」


 その時、空に不穏な光が差し込む。遠くの山脈に赤い光――魔王軍の影――が見えた。


「……なるほど、これからが本番か」

 俺は剣を軽く握り直し、胸が高鳴るのを感じた。


 リリアも俺の横で、何か決意を秘めた表情を浮かべている。

 こうして、俺の異世界での生活――最強としての冒険――が本格的に始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る