第23話

 あれから早苗さんを病院に担ぎ込み、僕も怪我をしたので検診を受けることになった。


 とはいえ僕は意識もしっかりしていたし、擦り傷など以外に目立った外傷は見受けられないことから手当てを受けてすぐに解放される(一応今日は経過入院してと言われた)


 早苗さんの方は、怪我と意識を失っていることから要入院となったが現状では命に別状はないと診断された。


「カタコちゃん、お待たせ。」


「……センパイ!」


 包帯を巻かれて診断室を出た僕は、外で待っていたカタコちゃんに声をかけた瞬間に抱きつかれた


「うおっ、イテテ……!カタコちゃん、怪我っ、怪我してるからっ!」


「あっ、すいません……私ったら」


「まぁ心配かけただろうからね、これくらいの痛みは甘んじて受け入れましょうっ……」


「……そんな、センパイやユキちゃんはよくやってくれました。私が判断を間違えたんです、私がもっと早ければ……!」


「いや、カタコちゃんは街中の禍津を相手にしなくちゃいけなかったんだし……」


 聞けばカタコちゃんがこの夜討伐した禍津の数は30を越えたらしい。

 この数の出現にも驚いたところだが何より街中のそれを大きな被害を出さずに一人で対処したというのだから凄すぎると思う。


「結果的にカタコちゃんは間に合ったし、僕らも怪我はしたけど無事だったんですよ。カタコちゃんが間違えたなんてことはない、だからそんな悲しそうな顔しないで……」


「センパイ……」


「ほら、いったん病室に戻りましょう。早苗さんももう目を覚ましてるかも」


 この病院はカタコちゃん家(というより討魔剣士?)の息がかかっている病院らしく、なんの理由も聞かずに治療と隔離された病室まで用意してくれた


 僕と早苗さんはその病室を宛てがわれている、カタコちゃんも別に泊まっていって構わないとのことだ


「……」


「ユキちゃん……」


 早苗さんはまだ目を覚ましていない、が顔色は大分良くなっていて回復の兆しを見せていた

 討魔剣士だし、普通の人よりも回復は早いだろうとカタコちゃんは言っていたが……


「早苗さん凄かったんですよ、魔鬼も倒してさ」


「禍津も魔鬼も倒せるなら、もう一端の討魔剣士ですよ。落ち着いたらすぐに見習い卒業させてあげなくちゃいけませんね」


「……しかし、あのロボットは何だったんでしょう?禍津や魔鬼ってのとはワケが違いそうでしたけど……」


「さぁ……今は私の母たちや警察も含めて調べてもらってますが、証拠も少ないし何かわかるか……」


「肝心なロボットもカタコちゃんがスクラップにしちゃったしねぇ」


「うっ……あれはもう、頭に血が上ってて……その後の事まで考えてませんでした」


「カタコちゃんって脳筋なところあるよね」


「そ、それにしても不自然な点が多い事件ですからっ、後の難しいことは他の人の仕事だもん!」


「丁寧な現場仕事も大事だぞカタコちゃんっ」


 そして病室で一夜を過ごした僕ら、翌朝には早苗さんも無事目を覚ました。


「いやー、まったく不覚を取ったでござる!オウカどの、大変申し訳ない……カタコどの、かたじけないでござる……!」


「いやいや、僕こそ早苗さんには助けてもらったから!」


 病室のベッドの上で深々と頭を下げる早苗さん、僕こそ早苗さんには守ってもらったし感謝しかないのだけど……


「私こそごめんねユキちゃんっ!私があの場を離れなければこんなことにならなかったのに!」


「カタコどの!」


「ユキちゃんっ!」


「「ひしっ!」」


 早苗さんとカタコちゃんで抱き合って盛り上がっている、男の僕は女の子の盛り上がりにちょっと疎外感気味である(寂しい)


「しかし、流石はカタコどのでござる……あのロボットを余裕で倒してしまうとは!それにあの短時間で30を超える禍津の討伐とは……」


「ユキちゃんだって十分凄いよ、禍津も魔鬼も倒せるなら文句無しに一人前の討魔剣士だね!」


「はは、あのざまでは素直に喜べないでござるが……」


「早苗さん、自信持ってください!君は僕の認めた正義の討魔剣士さ!」


「むー……っ、オウカどの先ほどから思っていたのでござるが!」


「は、はいっ!」


「早苗さんなどと他人行儀な呼び方はよしてくだされ。拙者たちはもう共に命懸けの戦いに身を投じた同志、どうかユウキと名前で呼んでほしいでござるよ!」


 自分のことを名前で呼んでほしいという早苗さん、たしかに共に死線をくぐり抜けた仲だ。

 いつまでも苗字呼びというのはよそよそしいかもしれない


「あー、そう?じゃあ、ユウキちゃんで」


「ゆ、ユウキ……ちゃん?ちょっと、恥ずかしいでござるな……拙者、女扱いされるのは慣れてはおりませぬ故……」


「僕の可愛い後輩でもあるからね、ちゃん付け。」


「まぁ……オウカどのが、呼びたいなら……仕方ないでござるな……?うむ……仕方ない……」


「ユキちゃん?まさか……」


「か、カタコどの……その、拙者はめかけでも良いでござるから!」


「ユキちゃん!?正気に戻って!センパイだよ!?この人炒飯とピラフの区別すらままならないんだよ!」


「なんで急に僕のネガキャンするのっ」


「拙者、そういう純粋なところも……ポッ♡」


「ゆ、油断した……!そうだよ、なんでこの可能性を考えられなかったの……!センパイったら私生活や普段の振る舞いがカスなこと以外、大事なところは結構カッコいいんだから……!やっぱり二人きりにするんじゃなかった……っ!」


「んん〜?カタコちゃん、何か僕のことを褒めてるようなバカにしてるような気がするぞっ!何なんだい!」


「うるさいセンパイのスケコマシ!うわきもの〜〜〜!!!」



………


……



─────


「クククッ……ハハハハハッ!」


 ここは私が密かに活動する隠れ家の一角、そこで送られてきた映像とデータを確認し私は歓喜の声を上げた


「まさか、まさか『グレーターデモン』がまるで相手にならないとは!予想をはるかに上回る力だ!」


『グレーターデモン』

 私が秘密裏に開発している兵器の一つ

 名目は警備ロボットだが、その実態は"暴徒鎮圧用陸上人型戦車"である。


 しかし、グレーターデモンの用途はそんな矮小なものではない

 グレーターデモン本来の用途は、あらゆる兵器の……ひいては討魔剣士を越えた最強の兵器として世界の頂点に立ちその力をもって平和を築き上げることだ


「早苗ユウキ、彼女のおかげで可動におけるシステムが完成し……ようやく実戦投入が可能になったがまだ改良の必要があるな」


 魔鬼の強靭な肉体をベースとし、表社会には出ていないが世界最硬度の試作金属"魔鉄"による装甲、そしてそれを動かすのは禍津をエネルギーとした霊力の流れを制御する可動バイパススーツ


 私の頭脳を結集させた紛れもない最強の最高傑作!

 かつて所属していた組織から開発途中のたった3体しか持ち出すこと出来なかった試作機ではあるが、その力はそこらの討魔剣士など相手にならないことが証明できた


 しかし現代最強と言われる討魔剣士、伊達巻カタコの前にはその最強の兵器を持ってしても相手にならなかったのだ。

 彼女は私の想定していたデータを大幅に上回る力を持っている。


「流石は現代最強の討魔剣士、独眼蝶どくがんちょう……」


 今回手に入った戦闘データを元に、さらなる改良を進めなくてはならない。

 伊達巻カタコを越えること、それが目下の課題となるだろう。


「現状でグレーターデモンを改良するにはどうする……?まずは頭脳の根本的な見直しが必要か、コンピューター制御のAIではなくもっと生物的な……人間との戦闘に対応したものが必要だな。」


 今グレーターデモンに搭載している高性能AIは判断が機械的過ぎる、おかげで伊達巻カタコ以外にも一度不覚を取っていた


 禍津などが相手であればそれも構わないだろう、しかし討魔剣士などの人間的な相手を考えるのであればもっと本能、生物的な考え方を出来る頭脳に取り替えたほうが良いかもしれない。


「そして最優先は…従来の魔鬼を超える素体、か……クククッ」


 私がしている所業は決して人道的ではない、許されるものではないのだろう


 それでも私はより強き力を手にいなければならない、私の目的のために……


 あらゆる討魔剣士を越える、最強の力が必要なのだ。


 

─────

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