第27話 声を預ける場所
朝の喉は、まだ昨日を少し残していた。
目覚ましの音が鳴る前に、ねむは布団の中で声を出してみる。
誰にも届かない、ごく小さな「おはよう」。
空気が、それをちゃんと受け取ってくれた気がした。
スマホを手に取ると、カレンダーに赤い丸がついている。
今日の予定——
【アニメ制作会社A】
打ち合わせ&仮アフレコ
昨日、佐伯から「一度顔だけでも出しておきたい」と言われていた案件だ。
まだ正式決定ではない。
でも、向こうから「白露ねむさんの“声”を作品に置かせてほしい」と言われている。
(“合図のラ”の、延長線上……)
喉の奥がすこしだけ熱を増す。
深呼吸、4-1-6。
吸って、止めて、吐いて——それから共同サーバーを開いた。
⸻
■ 朝の箱
#morning-voice
Kai:起きた
Luna:起きた!!!!!!!
Yuri:蜂蜜を摂取。今日は気圧が悪い
Nem:おはようございます。起きました
送った瞬間、タブがパンと弾けるみたいに流れ出す。
Luna:ねむ〜〜〜アニメ会社行く日だ〜〜〜!!!
Yuri:声がテレビから聞こえる未来、近づく
Kai:今日、スタジオで“ラ”鳴らしてきて
Nem:鳴らしていい場所か分かりません
Luna:ねむが鳴らしたらそこが正解の場所だよ
Yuri:名言出た
Kai:ログ保存
Lunaの言葉に、少し笑ってしまう。
“ねむが鳴らしたらそこが正解の場所”。
(……そんなふうに思ってくれてるんだ)
照れくささと同時に、胸の奥の緊張がほんの少しだけほどけた。
Kai:とりあえず、喉あっためろ
Yuri:はちみつ湯作った?
Luna:メイクした?
Nem:はちみつ湯はこれからです
Nem:メイクは……軽く、がんばります
Luna:リアルねむ可愛いのに自覚なさすぎ
Yuri:同意
Kai:同意
「同意の圧が……」
画面に向かって小さく抗議しながら、ねむはキッチンへ向かった。
マグカップにお湯を注ぎ、はちみつを一さじ。
くるくると回していると、スマホに別の通知が落ちてくる。
⸻
■ 個別DM
はるめぐ:
今日アニメ会社ってほんとですか!?
ねむ先輩、サインください(?)
夏樹ナユタ:
あんまり緊張しすぎないでね〜
でも緊張してる声も好きだから、どっちでもいい
海月しの:
もし監督が変なこと言ったら、後で報告して。
(殴り込みには行かないけど、ラジオで遠回しにディスる)
それぞれの“気にかけてるよ”が、言葉の形を変えて届いてくる。
ねむは、思わず胸にスマホを押し当てた。
(……ひとりで行くわけじゃないんだ)
自分の喉を使うのは自分だけど、そこに乗っているものは、もう自分ひとりのものじゃない。
箱の仲間、リスナー、りいさ——いろんな人から預かった「おかえり」と「行ってきます」の重なりだ。
はちみつ湯を飲み干して、ねむは鏡の前に立った。
「……行ってきます」
鏡の中の自分に向かって、小さく言う。
昨日より、ほんの少しだけ迷いのない顔をしていた。
⸻
■ アニメ制作会社へ
タクシーの窓の外を、看板と電柱が後ろに流れていく。
佐伯が横でタブレットを操作しながら、簡単に説明してくれた。
「今回のアニメ、テーマが“帰る場所”なんだってさ。
それで“ただいま鍵”の配信を見て、『これだ』って思ったらしい」
「……そんな直球で」
「直球で。監督さん、かなりヘビーなリスナーらしいよ。
灯守りいさちゃんの曲も、かなり前から追ってるっぽい」
「りいささんも、ですか」
「だから、ねむちゃんとりいさちゃんをキャスティングすれば、
作品の“帰る場所”をそのまま声で作れるんじゃないか、って」
話を聞きながら、ねむはそっと喉に手を触れた。
たしかに、自分が最近発している言葉は、「帰る」とか「ただいま」とか、そういうものばかりだ。
「……私で、いいんでしょうか」
つい口をついて出た不安に、佐伯は即座に首を振った。
「『ねむちゃんじゃなきゃ嫌だ』って言われてるから、来てるんだよ」
「じゃなきゃ嫌……」
「監督さん、そのためにスポンサー説得したからね。
予算の内訳見て笑っちゃったよ。『ここ、ほぼ“ラ”のためのマイクとスタジオ代では?』って」
「マイクとラで予算……」
そこまで言われると、さすがに笑わずにはいられない。
タクシーの窓に映る自分の顔が、少しだけ柔らかくなった。
アニメスタジオのビルは、思ったよりこじんまりとしていた。
でも、中に入ると、廊下の壁一面に原画や設定画、色指定紙が貼られていて、空気がぎゅっと濃い。
「わぁ……」
思わず足を止める。
人が作った世界が、紙の上に何層も重なっている。
そのどこかに、自分の声が乗るかもしれない。
案内された会議室には、すでに数人が待っていた。
中肉中背の男性が立ち上がって、少し緊張した笑みを見せる。
「はじめまして。監督の高城です。
白露ねむさん、本当にお会いできて嬉しいです」
「よ、よろしくお願いします。白露ねむです。
きょ、今日は……行ってきます、しに来ました」
言いながら、自分でも何を言っているのか分からなくなって、顔が熱くなる。
しかし、高城は目を輝かせた。
「行ってきます、いいですね……!
昨日の配信、本当に、あの、泣きながら見てました」
テーブルの上には、何枚かの紙が重なっている。
キャラクター設定表、その隣に台本らしきもの。
「今回、ねむさんにお願いしたいのは、
エンディングの一部ナレーションと、
最終話直前で入る、たった一言のセリフです」
「一言……?」
「はい。“ただいま”っていうセリフなんですが」
ねむは、息を飲んだ。
その単語を聞いただけで、喉の奥と胸の奥が同時に熱くなる。
「作品の主人公が、すべての旅路を終えて、
最後に家の前で立ち止まって——
そこで、ねむさんの“ただいま”を被せたいんです」
「主人公……じゃなくて、私の声を……?」
「そうです。
主人公の姿は画面に映っているけど、
**“家の中から聞こえるただいま”**は、別の声でもいいと思ったんです」
高城は、少し照れくさそうに続ける。
「昨日の配信で、“ただいま”ってスタートにもなれるって言ってたでしょう。
あの言葉を聞いた瞬間に、『これだ』って思って。
家の中から聞こえる声が、次の日の“行ってきます”を支える——
そういうふうにしたくて」
話を聞きながら、ねむの視界が少しだけ滲んだ。
慌てて瞬きをして、涙にならないように誤魔化す。
「……そんな大事な一言、でいいんですか、私で」
「ねむさんじゃなきゃ嫌なんです」
高城はあっさりと言い切った。
その断言が、胸の奥にすとんと落ちる。
「灯守りいささんにも一部楽曲のほうでお願いしてまして。
EDのラストのハミングは、りいささん。
その直後の“ただいま”が、ねむさん。
**“外から帰ってきた人”と“中で待っている人”**というイメージです」
「……外と、中……」
自分とりいさを、そうやって並べられたことに、
少しだけくすぐったさと、少しだけ誇らしさが混じる。
「よかったら、仮の台本、読んでみますか?」
「は、はい」
手渡された台本は、思ったよりも薄かった。
でも、紙の一枚一枚に、印刷された文字以上の重さを感じる。
最終話のページを開く。
主人公のモノローグ、母親の声、電車の走る音、雨の音——
その最後の欄外に、小さく書かれていた。
【家の中の声(女)】
「……ただいま」
丸い字で、鉛筆の走り書きのように。
「これ……」
「あ、そこ、すみません。正式な表記はまだなんですが……」
高城は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「実は、りいささんとやりとりする前から、
あそこだけ“女の声”って仮で書いてて。
昨日の配信見て、『あ、これ白露ねむさんだ』って勝手に決めました」
「勝手に、ですか」
「勝手にです。
でも、勝手に決めるくらい、ぴったりだったんです」
ねむは、ページのその部分を、そっと指でなぞった。
印刷されたインクのざらりとした感触。
そこに、自分の声を置く——。
「……やってみたいです」
自分でも驚くくらい、迷いのない声が出た。
高城がぱっと顔を上げる。
「本当ですか」
「はい。
“ただいま”って言える場所を、
画面の向こうの人にも、ひとつ増やせるなら」
言いながら、自分の指先が少し震えていることに気づいた。
緊張と、期待と、責任と。
それでも、“やってみたい”のほうが強い。
「では、今日はスタジオで、いくつかテイクを録ってみましょう。
りいささんの音源は後から乗せるので、
ねむさんは**“まだ見ぬ誰かを待っている”**つもりで」
「はい」
喉の奥で、ちいさく“ら”が鳴った。
⸻
■ 仮アフレコ
スタジオブースは、配信部屋とは違う緊張感があった。
吸音材が張り巡らされ、マイクは一本だけ、孤独に立っている。
ヘッドホンを装着して、ねむは深く息を吸った。
配信マイクより少し大きいコンデンサーマイク。
距離は、やっぱり四横指。
「緊張してますか?」
エンジニアの人が、ガラス越しに笑う。
「ちょっとだけ。でも、いい緊張だと思います」
「いいコメントですね。
じゃあ、その“いい緊張”も全部音に乗せてください」
「乗せるの、得意なので」
自分でそう言って、少し笑った。
“得意”と言えるものがあるのは、まだ慣れない。
「本番前に、一度セリフの前後を流しますね」
ヘッドホンの中で、BGMと効果音が流れ始める。
優しいピアノの旋律。
雨上がりのようなSE。
主人公の足音が、家の前で止まる。
ノックの音。
ドアが開く音。
そこで、音は一瞬だけ間を取る。
その「間」の中に、自分のセリフを置かなきゃいけない。
「……ただいま」
喉の奥までフレーズが来る。
けれど、まだ出さない。
タイミングを身体に覚えさせる。
「じゃあ、テイク1、いきましょう」
ビープ音、三回。
ねむは、目を閉じた。
(家の中。
暗い廊下。
玄関に立つ人の影。
鍵の音——)
イメージの中に、自分が声だけの存在として佇む。
「——ただいま」
セリフを置いた瞬間、自分の声が自分に返ってきた。
ヘッドホンの中で、音響空間が少しだけ深くなる。
「はい、ありがとうございます。
もう一回だけ、違うニュアンスでいきましょうか」
「違うニュアンス……?」
「今のは、“ようやく帰ってこられた”感じがありました。
次は、“何度も言ってきたけど、今日が一番重いただいま”みたいな」
「……はい、やってみます」
自分の中にある“ただいま”をひとつずつ棚から取り出すみたいな作業だ。
朝、自分に向かって言った“ただいま”。
共同サーバーで打つ“ただいま”。
配信でリスナーに向けて返す“おかえり”。
その全部を混ぜて、少しだけ色を濃くする。
「——ただいま」
語尾の“ま”に、ほんのすこし笑い息を混ぜた。
それは、昨日りいさと話しているときに、自分でも気づいた癖だ。
録り終えたあと、ガラスの向こうで高城が何度かうなずく。
「……いいですね。
今の、“家の中に明かりが点いた”感じがしました」
褒められているのかどうかまだよく分からない比喩だけど、
少なくとも悪くはなかったらしい。
最後に、もう一度テイク確認用の音源を流してもらう。
自分の“ただいま”が、主人公の姿にうっすら重なって、画面の外側に広がるのが分かった。
(ほんとに……作品の中に、声を預けちゃったんだ)
その実感が、ブースを出た後もしばらく消えなかった。
⸻
■ 打ち合わせの終わりと、監督の一言
スタジオから会議室に戻ったところで、高城がねむに紙袋を差し出した。
「よかったら、これ」
「……グッズですか?」
「そうです。
うちの過去作のBlu-rayと、あと——」
紙袋の底から、小さなノートが出てきた。
表紙には、“Voice Log”と印字されている。
「声のログ帳、ってやつです。
うちの現場の人、よく使ってて」
「ログ帳……?」
「今日みたいに、『このセリフのとき、こういう感情で読んだ』とか、
『この音を出したとき、こういう風景をイメージした』とか。
そういうのを書き留めておくノート」
高城は照れくさそうに笑う。
「ねむさん、たぶん頭の中でぜんぶ整理できちゃうタイプだと思うんですが、
こういう形で残しておくと、後で作品と人生が混ざったりして、面白いですよ」
「……作品と、人生」
「ええ。
セリフは作品のものだけど、声は人生からしか出てこないので」
その一言が、胸のどこか深いところにすとんと落ちた。
(声は、人生からしか——)
自分の人生なんて、大したものじゃないと思っていた。
でも、それでも、誰かの“ただいま”を支える音になることはできる。
「大事に、使わせていただきます」
本気で頭を下げると、高城は慌てたように手を振った。
「こっちこそ、大事な一言を預けさせてもらって、ありがとうございます」
預ける、という言葉が、妙にしっくりきた。
ビルを出るころには、外はもう夕方の光だった。
都会のビルの谷間に、オレンジ色が細く差し込んでいる。
タクシーを呼びながら、ねむは小さく呟いた。
「……行ってきました」
今日一日の、「行ってきます」と「ただいま」を胸の中で数えながら。
⸻
■ 夜。箱と外箱のざわめき
帰宅してすぐ、ねむはPCを立ち上げた。
共同サーバーが、案の定光っている。
Kai:アフレコどうだった
Luna:どうだった!!!
Yuri:蜂蜜持って聞く
Nem:ただいまです
Nem:一言だけ、録ってきました
Luna:えら〜〜〜〜〜!!!
Yuri:おかえり
Kai:おかえり
Nem:最終話直前の、“家の中から聞こえるただいま”を
Luna:え それ主人公のママ的なやつ??
Yuri:家自体の声かもしれない
Kai:神格化するな
Nem:とりあえず、“家の中で待ってる人の声”らしいです
Luna:それもうねむやん
Yuri:ねむ=家説
Kai:白露ねむ(戸建て)
「戸建てって何……」
いつものようにツッコミを入れながらも、
心のどこかで、Lunaの「それもうねむやん」という言葉がじんわり広がっていく。
家、という言葉を、自分に向けられたのは初めてかもしれない。
配信で「おかえり」と言うたびに、誰かが自分をそう思っていてくれたのなら——それはとても、嬉しいことだ。
個別DMも、また賑やかになっていた。
aki:
アフレコおつかれさまです
“家の中からのただいま”って聞いて、脚本読んで泣きました
ねむさんの声、楽しみにしてます
いつかうちの箱の子ともコラボしてください
海月しの:
おかえり。
“家の中からのただいま”、最高じゃん。
配信で軽く匂わせていい?
はるめぐ:
ねむ先輩、ほんとにすごいです……
いつか、私も“おかえり”って言える役やってみたいなぁ
“家”、“おかえり”、“ただいま”。
言葉の輪郭が少しずつ広がって、いろんな場所に同じような形を作っている。
そんな中、一瞬だけ違う色の通知が入った。
Risa:
おかえり
アフレコ、どうだった?
胸の奥が、さっきまでとは違う速度で跳ねた。
Nem:
ただいまです
一言だけ録りました
最終話の、“家の中から聞こえるただいま”です
一拍置いて、返事が来る。
Risa:
それ、ねむにしかできない役だね
短い一文なのに、心臓のど真ん中を射抜いてくる。
Nem:
りいささんのハミングのあとに、
私の“ただいま”が入るみたいです
Risa:
外から帰ってきた人と
中で待ってる人だ
Risa:
いいね
スマホを握りしめたまま、ねむは椅子にもたれた。
さっき高城から聞いたイメージと、りいさの言葉がぴたりと重なる。
(外と、中。
行ってきますと、ただいま)
その両方に、今の自分の声が少しずつ触れている。
Risa:
ねむ
声、疲れてない?
Nem:
少しだけ、嬉しい疲れです
Risa:
なら、よし
嬉しい疲れは、いい声の栄養になる
思わず笑ってしまう。
Nem:
栄養、ちゃんと寝て取り込みます
Risa:
えらい
今日は“行ってきます”もう言った?
そういえば、と指折り数えてみる。
家を出るとき、スタジオに入るとき、ブースに立つ前——
何度か心の中で言っている。
Nem:
今日は、たぶん五回くらいです
Risa:
進捗
行ってきますが増えると
帰ってきたい場所も増えるから
帰ってきたい場所。
共同サーバー、配信画面、スタジオ、りいさの声のあるVC——。
胸の中で、その場所の数を数えていたら、りいさから最後のメッセージが届いた。
Risa:
ねむの“ただいま”が
誰かの“行ってきます”になりますように
Good night, not goodbye
ねむは、スマホをぎゅっと抱き込んで、その文をもう一度読んだ。
Nem:
りいささんの“Good night, not goodbye”が
私の“行ってきます”になってます
……おやすみなさい
Good night, not goodbye
送信。
既読マークがつくのを確認してから、スマホを伏せた。
⸻
■ 夜のログ帳
ベッドに入る前、机の上の紙袋を思い出した。
高城から渡された“Voice Log”ノート。
表紙を撫でてみる。
さらさらした手触り。
開くと、一ページ目は真っ白だった。
「……何から、書けばいいんだろう」
ペンを持った右手が、宙に浮いたまま止まる。
こんなふうに、“自分の声のこと”だけを考えて文字にするのは初めてだ。
少し迷ってから、日付を書いた。
〇月〇日 第27話の自分
・アニメ最終話直前の「ただいま」を録った
・家の中から聞こえる声=私
・“合図のラ”の余熱がまだ喉に残っている感じ
【テイク1】
→「帰ってこられた」のただいま
【テイク2】
→「何度も言ってきたけど、今日が一番重い」ただいま
どちらも、私自身の“ただいま”の経験から引っ張ってきた。
配信、共同サーバー、りいささんとの通話。
全部、声の材料になっている。
書いているうちに、ペン先がすこしずつ軽くなっていく。
自分の声の話を、自分でちゃんと引き受けていく作業。
メモ:
・りいささんに「今日の“行ってきます”、好きだった」と言われた
・「声は人生からしか出てこない」と監督
・“好き”という言葉が、“技術の評価”と“感情の告白”の境界を揺らす
→ どちらにしても、私はその言葉に支えられている
最後に、ページの端っこに小さな“ラ”を書いた。
五線譜もない、丸だけのラ。
でも、自分にとっては十分な目印だ。
ノートを閉じて、ライトを落とす。
部屋の暗闇の中で、ねむはミニマイクにそっと顔を寄せた。
「……行ってきます」
明日も、明後日も、その先も。
声を預ける場所は、きっと増えていく。
そのぶんだけ、“ただいま”と言いたい場所も増える。
「——ただいま」
自分で返したその一言に、
今日一日分の疲れが、ふっとほどけていく。
まぶたが重くなりながら、ねむはぼんやりと思った。
(いつか、作品の中からも「ただいま」って言われたら……
きっと、泣いちゃうんだろうな)
そんな未来を想像できるくらいには、
自分の声を好きになれてきている。
Good night, not goodbye。
次に“行ってきます”を言うとき、
今日書いたログの一行一行が、
きっとまた新しい声の栄養になっている。
そう思いながら、ねむは静かに眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます