『さよなら』の翼 ~空色の未来に、この想いを~

マクスウェルの仔猫

第1話 あっちもこっちも、変わんなかった。

『こいつ、まだ十字架つけてんぜ!』

『僕、カッコいい! とか思ってんじゃねえの?』



 ああ……またこの夢か。

 検証続きで寝てなかったもんな、やれやれだ。

 

 放課後の校舎の陰で、俺の胸倉を掴んでいたぶり続けるコウジ。そうそう、コウジの取り巻きに毎度毎度ご丁寧に囲まれてな。



 俺の首から、にび色の十字架がもぎ取られる。


『うらあ、取ったあ!』

『よっしゃ! おら、早く神召喚してみろや!』

『悪魔だったりしてな! ひゅ~♪』

『ぼっちの自分に酔ってんじゃねえよ!』

「や、やめろ……! 返して! 返せ!」

『おお? 女みたいな顔してこっわ~い』

『男らしいツラにしてやんよ!』


 交互に殴られ蹴られ、転がる俺。顔は父さんご自慢の母さんと姉さんに似たんだよ。ほっとけや。


 蔑む目。

 ほくそ笑む目。

 嘲笑う目。


 んで、そいつらに紛れて俺を冷ややかに見下ろしている優美がいる、と。


『私、やっぱり間違えてた。顔だけじゃなくって、強い人が好き』


 優美がコウジに近づいていく。お前、顔だけじゃなくっていろいろホメてくれてたよな?


 今度帰ったら全員見つけだしてOSHIOKIオシオキ……いや待て待て待て。今の俺だとシャレにならん。


『お? おおお?! 優美ちゃんが俺、指名? そうだろ? そうだよなあ! こんなヤツ、好きとか間違いだよなあ!』

『間違いだった、かも。ね、遊びに行こ?』




 ちゃりりっ。




 優美が、起き上がれない俺の身体に十字架を乗せた。ある日、不用意に近づいてきて。コウジ達から俺をかばって。優美を好きだったコウジの怒りを燃え立たせ。


 そして。


 あからさまに孤立していく焦燥感とイジメに負けていった。結局俺に残ったのは、激しくなったイジメと絶望感だけだったとさ。アホくさ。


 ま、最後にこんな泣きそうな顔されたら責める気にもならんがな。


 はいはい、次。



 お馴染みの、聖カルニアス戦闘訓練場ってか。


 五人がかりで狼の魔獣と闘っている。テメエ鈴木、どさくさ紛れに蹴るなっつうの。俺、狼に剣で切りかかってるはずなのに、他の四人と魔獣に総攻撃喰らってんだもんな。そりゃ毎日ボロボロにもなるわ。


 剣や魔法で連携をしながら確実に狼にダメージを与えていく召喚者四人と、怒鳴られては攻撃を喰らい、のたうち回る俺。こいつら本当に手加減ねえよな、一般人に毛が生えたようなステイタスだってわかってんのに。


 俺はまだこの時、転生特典を女神に封印されていたからな。ま、アイツはただの駄女神だから仕方ねえ。桔梗のとっさの判断がなかったら、とっくに死んでいただろう。


 召喚の儀で呼び出されたのは四人。

 召喚された人間は、五人。


 一番使えない者は放逐せよ、の王の言葉。

 一か月の間、俺らは試され続けた。


 そして俺は無能と判断され、慈愛溢れる第三王女セレナに庇われて召し上げられた。……のはいいものの、その後一週間セレナに惚れている近衛達に目の敵にされて狙われる羽目となった。弱り目に祟り目ってなまさにこの事だろうよ、ははは。


 挙句の果てにぼっこぼこにされた挙句、隙を見て命からがら逃げだしたって訳だ。ナイス逃げ足。ま、聖カルニアス、俺が日本に行ってる間に封印魔王領にちょっかいかけて無くなってたけどな。どんなオチだよって話。


 場面が、また切り替わる。

 ホント、何なんだっつの。



 桔梗の神社か。


 いつものように神社の本堂に辿り着いて倒れこむ俺。嫌なテンプレだこと。


 前髪を切りそろえて後ろ髪を背中まで垂らした桔梗。本当にラノベに出てきそうな見た目してるよな、ロリ属性だし。アキバに連れて行ったら速攻で撮影会が始まりそう。でも桔梗暴れそうだから無理か。


『ふう。泥まみれで神域に入ってくるなど、芳人でなくば仕置きだぞ?』

「……ごめん」

『ま、よい。唐草、これを胸に乗せてやれ。今日は傷が多いから多めにな。礼はそのカバンの中のたい焼きで許そう』


 稲穂色の兎が、咥えていた札を俺に乗せた。俺もあん時の桔梗の札まだ再現できないんだよな、神お手製札。


 まあ魔法で再現できるけど、厨二の浪漫だしな。


「いつもありがとう。でも桔梗はたい焼き好きだねえ。たまには別のモノ食べてみたら? ケーキくらい買えるよ?」

『鯛は吉兆を呼ぶ魚だからな。それに一個で十分だ、自分で稼いだ小遣いは自分の為に大いに使え。叔父、とやらは未だに小遣い銭をよこさぬのか?』


 保険金、ガメてやがったからな。面倒見てもらってるだけでありがたく思えって言われたら親兄弟がいない居候の俺には何にも言えないよな。ま、こっちから戻って全てを知った後は叔父の目の前で自宅大爆発を起こしてやったけどな。


 あれは不幸な……そう、事故だった。ムシャクシャして緻密な計算の上でやってやりました、はい。


「大丈夫だよ。いつもお世話になってるお礼だし、お小遣いはネットで稼げるし」


 自作フィギア様々だったよな。あんな見映えの作品でよく買ってくれたもんだ。つっても購買層が女性ばっかりだったのは未だに謎だ。


 礼のDMで顔画像つけるからじゃないの、って言われたから慌てて適当な絵に変えたけど、その人の「養ってあげる」発言に怖くなってそのフリマサイトはやめたっけ。意味わからん。


『不憫な……。そういえば、今日は首飾りはどうした?』


 制服のポケットから鎖がちぎれた十字架を見せる。


『そういう事か。どれ、直してやろう』

「直せるの?!」

『容易い事だ。そも、神器を創り出すのは誰だと思っているのだ?』


 桔梗に渡した十字架が淡い光を放ち、鎖がつながる。


『ほれ、できたぞ。早う甘味よこさぬぐああ?!こ、これ!抱きつくな!泣くな!』

「ぐすっ……ありがどう! ぎぎょー!」

『断末魔の如く呼ぶのはやめい! はあ、芳人は全くもって受けるべき優しさや慈しみが足りておらんの……これ! 装束に鼻水つけるでない!』


 桔梗が、わしゃわしゃと俺の頭を撫でている。


 ありがとな、桔梗。

 お前だけが心のよりどころだったよ。


 一昨日も先週も会ったけど。



 そろそろ起きるか。召喚逆フリーフォール、桔梗が投げた小刀で受けた手の痛みに絶叫するシチュだけだし。


 いつもこうだ。夢の中、鉄板のシナリオの中で俺は泣いて喚いて虚ろになって絶望していくだけ。はは、もうどうでもいいことだらけだけどな。


 あっちもこっちもうんざりだ。

 

 早く。


 













 消え去りてえ。
















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