第2話【早朝の訪問者】
私には二つ歳の離れた弟がいる。
姉の私が言うのも何だが、良く出来た弟である。
今は実家を出て一人暮らしをしている彼は、大学を卒業し、企業に就職し、良い部屋を借り、長年付き合っている彼女もおり、……と、私からすると眩しいくらい一般的で理想的な人生を送っている。
バンドしたいとか言い出して、大学にも行かず定職にも就かず、挙げ句日本を飛び出し、一ヶ月ドイツ中を旅したり、あっちへフラフラこっちへフラフラしていた私とは大違いだ。
そんな弟なので、傍から見ると私の方が妹で、弟の方がお兄ちゃんに見えるらしい。
実際ご近所さんは皆、弟の事を『お兄ちゃん』と呼ぶし、お兄ちゃんだと勘違いしたままである。
身長も弟の方がずっと大きいから余計なのだろうか。お姉ちゃんとしては複雑なところだが、確かに弟の方が頼りになるし、しっかりしているのは事実なので仕方無いととうの昔に割り切っている。
そんな彼が、まだ実家にいた時だっただろうか。
現在私の使用している部屋は当時は弟の部屋だった。そして自室を持たない私は、母と同じ部屋で寝ていた。
父も母も起きるのが早く、弟も私より早く起きる事が多かった。
そんな朝の記憶だ。
私は自分のベッドで惰眠を貪っている訳だが、なんとは無しに気配を感じる。
なので、寝たふりをしながら薄く目を開けてその気配の元を確認してみた。
すると、ベッドの傍に立っていたのは弟だった。
一分もしない短い時間、弟は私のベッドの傍でじっとして、何事も無かったように去って行く。
それが何日もあった。
もしかしたら、私が寝ていて気付かなかっただけで、私が認識しているよりずっと多く、弟はこの行動を取っていたのかもしれない。
なんなん??
最初は、当然意味が分からなかった。
でも、私が寝ている時にやって来るので、きっと私には知られたくない事なのだろうと察せられて、本人に聞く事は憚られた。
行動の意味を計りかねている内に、私はひとつの答えに至った。
弟の様子を寝たふりしながら観察していたら、向こうもどうやら私を観察しているようなのだ。
今までの自分、弟の性格、行動パターン、……それを私の小さな脳味噌が解析し解き明かす。
弟がしていた事。それは、
【生存確認】、だ。
誰の? 私のに決まっている。
弟は、自分が私より早く起きた朝に、そっと私の元へ来て息をしているか、ちゃんと生きているかの確認をしていたのだ。
そうして、生存確認を済ませると安心して階下の居間へと降りて行く。そういう事だ。なるほど納得、スッキリした。
何故、弟が私の生存確認をするのか? そんなもの、生存確認をしないと不安になる要素がてんこ盛りの姉がいるからに決まっている。……その点に関しては、本当に申し訳無いと思っている。
要因は遡ればどこまででも遡れるし、話も尽きないところではあるが、折角なのでまた別の機会に書こうと思う。
今は実家を出て、私の生存確認も(今のところ)不要になった弟だが、それでも毎日実家へビデオ通話をしてくれるし、姉の弱音メッセージにも根気良く付き合って励ましてくれる。
月に一度は会って、美味しいご飯を食べに連れて行ってくれたり、ご飯を作ってくれたりもする。ちなみに私は食べる専門なので、美味しく頂くのが役目だ。
誕生日も律儀に盛大にお祝いしてくれる。私の好きそうなお店を予約して、色々プランを練ってお出かけしてくれる。
……自分で書いておいて何だけど、出来過ぎてないか、私の弟。
そんな弟だから、心から幸せになって欲しいと願っているのだが……。
いかんせん、弟の幸せへの障壁が私自身になるのだろうなあと自覚しているあたり、少し辛いものがある。
しかし、やっぱり私や家族に甘く、私達を優先してくれる弟が大好きなので、大きな声では言えないが『ずっと一緒にいて欲しい』と願っている。
これはもちろん、弟には内緒だ。
✦ あとがき ✦
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
メインでほのぼのあったか異世界モノを長編連載しておりますので、ぜひそちらも読んでみてください。
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