第49章 決意の単独追跡《中濱 唯》

スタジオを出た次の日の夜


表参道のビル街を抜けて、

灯りの少ない路地に入る。

ビル風が吹き抜ける狭い路地。


(あいつら…どこ行ったんや)


うちは見たもんしか信じひん。

相方が罪を犯したならそれを見届けて

うちも一緒に償わないかん。

それが音を通じて繋がった

吹雪との信頼の形やと思っとる。


全てをハッキリさせたい。

そのためにはアツシくんと比未子ちゃんから

真実を聞くほかない。


もちろん彼らの行き先なんてわからん。

うちは探偵でも捜索のプロでもない。


せやけど見つけ出す自信はあった。

うちは歩きながらおとんの秘書に電話を入れる。


ひまわり医療機器本社ビルの

社長室のドアを開けると

電話をかけた秘書が立っていた。


「お嬢様、――何かご用でしょうか?」


「新幹線のチケット取ってほしいねん」


「承知しました。どちらまで?」


「東北新幹線、盛岡や」



***


1日前、

昨日の深夜、部屋の明かりを落とし、

ベッドの上でスマホを開く。


比未子ちゃんの裏アカ。

それだけが、唯一の手がかりやった。


(まさかとは思うけど…)


フォローリストをスクロールしていくと、

ひとつだけ見慣れない名前が目に止まる。


「Café BLUE M – Morioka, Iwate」


(…岩手?)


画面を開く。

投稿されたばかりの写真には、

“雪の積もるテラスと、白いマグカップ”。


キャプションにはこう書かれとった。


《雪の街、静かな朝》


その一文を見た瞬間、あたしは確信した。


「ビンゴや!見つけたで…」


***


翌朝7時半。

東京駅のホームに立つ。

コートの襟を立て、

改札の向こうに見える新幹線を見つめた。


自由席やない。

しっかりとグリーン車を予約されとった。

うちはただの脛かじりでしかないのに

社長令嬢として育っただけで“特別枠”や。


(贅沢やってわかってる。でも…

 今回は、その特別枠をフルに使わせてもらう)


車内に乗り込むと、

座席の革の匂いが微かに落ち着きをくれた。


外の景色が動き出す。

東京のビル群が、すごい速度で

あっという間に遠ざかっていく。


窓に映る自分の顔は、

もう“傍観者”じゃなかった。


「うちが吹雪の分まで…」


その胸の中に、ひとつの決意が燃え上がる。

怒りを含んだ覚悟の言葉が、唇を震わせた。


「あいつら、引っ叩いてでも

 絶対連れて帰ったるんや」


新幹線のアナウンスが流れる。

「まもなく盛岡…盛岡です――」


うちは深く深呼吸をして

自分に気合いを入れた。


「待っときや、吹雪…

 うちが真実を明らかにしたる」


新幹線は雪の街へと滑り込んでいく。

窓の外、白く滲む空が

まるで「まだ終わっていない」

と告げているようだった。

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