第5章 素通り面接<佐伯 比未子>
|「君が今日、面接の子?」
結局わたしの面接を担当してくれたのは
月形 アツシさんだった。
オーナーは前日に食べた
当たってダウンしているらしく
アツシさんに面接を一任したということだった。
「はい。緋山さんにご紹介いただいて……」
「驚いたな。女の子だとは聞いてなかったから。
うちは覚えることは多いしきっと大変だよ」
「大丈夫です。今日からでも頑張ります!」
アツシさんは少し笑って、
手に持っていたカップを磨いた。
いつきさんも女の子みたいな顔をしてるが
アツシさんもメガネが似合う
「インテリ系のイケメン」
という表現が当てはまるような男性だった。
「比未子さんはあいつの知り合いの中でも
真面目な人だね。緋山には感謝しなきゃ」
その言葉にわたしは少しだけ顔が熱くなった。
「真面目なのは……きっと今だけですよ」
アツシさんは一瞬だけ目を見開き、
すぐに笑った。
「ははは…正直な人だね。
緋山が好きになる理由がわかったよ」
「えっ?ひ、緋山さんがわたしを?」
「あれ?違うのかい?」
「ち、違います!わたしたちそんなんじゃ…」
アツシさんはとんでもない事を言い始めた。
確かに変な間柄であるのはわかってる。
一緒に住んでいるのにキスすらしていないのだ。
「そうなの?僕はてっきり君が
あいつの彼女なんだと思ってたよ。
履歴書の住所もあいつの住所に
なってるから同棲中なのかな?って」
その時カフェのフロアから
呼び出しベルが鳴った。
「おっと、呼ばれてる。
ごめん、少しだけ待っててくれるかい?」
そう言うと彼はフロアの方へ
足早に消えていった。
***
「初日、お疲れ様。悪かったね。
今日は面接だけのはずなのに
こんな時間になっちゃって」
閉店後、アツシさんが
紙コップを二つ持ってきて、
一つをわたしの前に置いた。
結局面接の後にお店が忙しくなり、
そのまま閉店時間まで働く流れに
なってしまったのだ。
「ありがとうございます。
疲れたけど…すごく楽しかったです」
「そうか。緋山、最近どう?」
「アツシさんが想像してる通りだと思います」
「というと?」
「ガソリンがなくても走る車みたいな感じ?」
アツシさんは笑いながらカップを口に運ぶ。
「ははは。あいつといると退屈しないでしょ?」
「はい、毎日が刺激的です」
「わかる、僕もあいつといると退屈しないんだ」
わたしはその言葉に笑って、小さくうなずいた。
「でも、お日様みたいに眩しい人ですよね」
アツシさんはふと真顔になり、
コーヒーを見つめた。
「そうだね。比未子さんみたいな人が
あいつのそばにいてくれたら
僕も親友としては安心だよ」
その時、フロアの鳩時計が鳴った。
それは21時の知らせ。
「じゃあお疲れ様でした!
また明日11時に来ます!」
わたしはそう言って頭を下げ、店を後にした。
「そう…あいつは眩しい。
眩しすぎるくらいにね…」
アツシさんが悲しそうな目で呟いた
その言葉がかすかに聞こえた気がした。
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