Day7-2 新たな切り口 side小南チヒロ

木曜日 昼時。



私こと小南チヒロは部室にて、今朝トウマ君から送られてきた『音声データ』を聞いていた。


私の傍らにはリコちゃんと萩野後輩が座っている。

⋯⋯トウマ君から送られた際には添えられたメッセージに『リコちゃん先生と萩野ユウカと共に聞いて下さい』と書かれていたためだ。


その文字が連ねられている段階で、そこに記録されている内容に凡その見当は付いていたのだが⋯⋯出てきた情報は想像の遥か上をいくものであった。




「あークソッ!カスオスどもがよぉ!!」


トウマ君がカラオケ店で得てきた情報──それはまさしく不純異性交遊が行われているという確たる情報であった。


思わず本日3本目のカカオシガレットを噛み砕いてしまうが、そうなるのもやむを得ない。

これまで『最悪の想定』として据えていたことが、現実に行われているということなのだから。



おそらくこうして私が憤慨することを見越して、リコちゃんや萩野後輩と共に見るように勧めてきたのだろうが。


「はぁ⋯⋯頭痛くなってきた⋯⋯」


リコちゃんは頭を抑えるようにして机に頭を伏しているし。


「⋯⋯⋯⋯」


萩野後輩に至っては放心している始末だ。まぁ、実際にそれくらいインパクトが強い証拠ではある。

あー、想像しただけでイライラしてきた!




「と、取り敢えず落ち着いて小南さん。大事なのはこれを『どう防ぐか』と『どう露見させるか』よ」


私のことを落ち着かせるべく、リコちゃんが4本目のカカオシガレットを口に差し込んでくる。

もぐもぐ⋯⋯許すまじ瀬高ヒイロ⋯⋯。


「⋯⋯この音声データが証拠になる可能性は?」

「限りなく低いでしょうね。それこそ瀬高君を告発するためだけのヤラセの可能性を問われて有耶無耶になると思うわ」


通常であればそれで良いだろう。

警察という第三者が介入したという事実が、瀬高やその関係者の足を重くさせる。ただしこれはお金と時間に余裕がある場合の話だ。


「御影アカネさんの状況を鑑みるに、あまり悠長にはしていられないわ。防衛ラインは維持しつつ、より強力な『状況証拠』が必要ね」



「アカネ」という名前が出てきて、ようやく萩野後輩の意識が戻ってくる。放心していた間の記憶が曖昧なのか、我に返ってから少しだけ慌てたような様子をみせた。


「萩野後輩。この音声データを聞いての感想を一言どうぞ」

「う、うぅ⋯⋯。思ったより集団での犯行なのかなって思いました」

「おや、意外と冷静な意見」


からかうために発言権を寄越したが、思いも寄らない角度からの意見が飛んできたので、少しだけ面食らう。


確かに言われてみると⋯⋯サッカー部だけではなく、そのOBさえも絡んできている。高原セイタが19歳であることを加味すると、煙草を用意できていることから、更に上の存在がいる可能性もあるだろう。


つまりこれは⋯⋯瀬高を核とした組織的犯行。




これまでの想定では、瀬高を中心としたサッカー部軍団が相手であるとしていた。現に昨日はサッカー部員を引き連れて、私の元へとやって来た。


しかし思いのほか、彼らは勢力を伸ばしている──最悪なケースは、地域の半グレ集団と繋がっている場合だ。そうなれば命の危険だって考えられる。


引き際を見誤ることだけは避けなければ。



「⋯⋯この音声データの他に、トウマ君が色々と情報を送ってくれた訳だけど、改めて現場を抑えるには情報やら手段が足りていない」


トウマ君から送られてきた沢山の写真の1つに、カラオケ店『歌天原』の5階のフロア地図があった。


どうやら瀬高はこの階層にあるVIPルームフロアを毎回使用しているらしく、501号室と部屋までも固定だそうだ。



「実際にトウマ君もVIPルームに入れたみたい。501の部屋ではないけれど、まぁ部屋の作り自体はそう大差はずよ」


内装は綺羅びやかで、天井には小型のミラーボールが備えられている。いかにもVIP待遇といった印象を受けた。


「⋯⋯内装が凝っているだけなら、良かったんだけど」

「外装も凄いの?」

「外装というか⋯⋯セキュリティがね。どうやらVIPルームは電子錠形式で、部屋ごとの専用電子カードキーを使用しないと開けられないみたい」


写真で送られてきたうちの1つに、硬質状の黒いカードが写っている。どうやらこれがカードキーのようだ。


例え瀬高がカラオケルームに女学生を連れ込んでいる現場を捉えたとしても、VIPルームに入っていったが最後、現場を抑えることが不可能となるだろう──。



「中に入るためには予備のキーか、もしくは従業員用のマスターキーを手に入れるしかない」

「⋯⋯ってことは、やっぱり接触するしかなさそうなんだね」


リコちゃんが少しだけ気不味そうな表情を浮かべているが、やむを得ない事態なのだ。例えそれが『全然関わりのない生徒の個人情報』を無断使用した結果だとしても。



「放課後、私と萩野後輩で美術部に向かい、高原セイタの弟──高原セイジへと接触するわ」


必要なのは協力者。

それも瀬高一派に関与しつつ、かつこちらが一方的に利用する立場を維持出来るような存在が。

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