Day7-1 カラオケ店『歌天原 南八雲店』

木曜日



本日も学校へと登校出来ないため、制服には袖を通す事なく朝を迎える。


だがいつまでも呑気に朝の時間を過ごすことはせず──登校するのと同じくらいの時間帯に家を発った。




「⋯⋯ここが例のカラオケ店か」


目的地は、瀬高がよく女の子を連れ込んでいるカラオケ店⋯⋯もとい『歌天原 南八雲店』へとやって来た。


この辺りの地域『南八雲』は、中央商店街や高校から少し離れた地域にあるため、特定の用事がない限りは中々訪れない場所。

特徴としては、客層が少し大人寄り⋯⋯というかアダルトな雰囲気をまとっていることだろう。あまりジロジロと見てはいけないような看板が並んでいる。


少なくとも高校生がここを歩いているのを警察官が見つければ、声を掛けられることとなる。

それこそ平日の日中から制服で歩いていようものなら、一発で学校への連絡間違いなしだ。



(流石にココへ小南先輩は連れていけないな⋯⋯)


別段、すこぶる治安が悪いわけではない。

ただなんというか⋯⋯異様な感じがするというか。

少なくとも慣れていない人が1人で歩くことをおすすめしない。


⋯⋯じゃあ俺は大丈夫なのかって?

そりゃ勿論、この辺りにあるカドショの常連なのでね。余裕ですよ余裕。

成人プレイヤーが通い詰めている事もあってか、レアカードが相場より少し安いんだよね。本当に助かってます。




「しゃっせー。会員証は持ってますかー?」


夜勤明けなのか、気怠い感じで入口の店員が応対する。

名前は⋯⋯おっと、どうやら早速ビンゴのようだ。


「他系列店の会員証なら持ってます」

「じゃオッケーでーす」



彼の名前は『高原セイタ』⋯⋯このカラオケ店を経営している家族の一人であり、サッカー部OBだ。


昨日小南先輩から電話で教えてくれた、おそらく今も瀬高と関係性があると思われる人物。共謀しているのか、それとも利用させられているのか。


当たり前ではあるが、アストラルカードを通して觀ても有益な情報は見つからない。果たしてどちらなのか──最初の接点が分岐点だ。




「⋯⋯えっと、瀬高ヒイロという人を知ってますか?」


まずは無難な切り出し。

それを受けた相手の反応を伺うが⋯⋯彼は眉を僅かに動かしただけだった。


「今度瀬高先輩にプレゼントを用意しなくちゃいけなくて⋯⋯。あの人が最近、クールスター(Xool Star)にハマってるとは聞いたんですけど、自分ガキなんで用意出来なくて⋯⋯へへ」



クールスター(Xool Star)とは煙草の銘柄の1つだ。

瀬高と学校玄関口でかち合った時に判明した内容──彼は煙草を吸っているという裏付けともなる情報だ。


当然、瀬高は学校で煙草を吸っていない。誰かに見つかれば指導されるから。

となると瀬高が煙草を吸っていることを知っている人物だと仄めかすことで──相手は勝手に、俺と瀬高が『同類』であると認識する。



「へェ、一年坊が学校サボって朝からココに来るなんてな。随分と体のいいパシリを見つけたみたいじゃねぇか」

「へ、へへ。恐縮です⋯⋯」

「アイツは煙草を与えておけば素直になるからな。いつもは俺が代わりに買ってやってるんだよ」


⋯⋯それ、普通に犯罪なのでは?

なんかこう、未成年に煙草を買い与えた罪的な。


「あァ⋯⋯そうだなぁ。最近良いヤツを手籠めにできそうだって言ってたから、ゴムでもあげれば喜ぶんじゃねぇか?」

「ゴ⋯⋯ゴムですか。ちょっとそういうのは」

「なんだお前、まだ『おさがり』をもらってないのかよ!」



くそっ、聞いているだけで胸糞悪くなってくるな。

だが⋯⋯まだだ。今はその時じゃない。


緊張のあまり手のひらに汗が満ちるが、ズボンの裾を握るようにして掴むことで、怒りの衝動を抑え込む。


大丈夫、大丈夫だ。

アカネはまだ大丈夫。大丈夫なんだ⋯⋯。



「ま、あんまり顔色を気にしなくても良いだろ。無理に取り入ろうとする方がアイツも嫌がるだろうからな」

「⋯⋯っすね。もう少し考えてみます」


自身の気持ちの昂ぶりを抑えるのに意識を割いていたからか、話の主導権を完全に委ねてしまっている。

このままだと会話が途切れてしまい⋯⋯彼の記憶には『パシリA』という印象しか残らないだろう。


何とかして好印象を与えないと、アストラルカードで情報を抜き取れない!


考えろ、考えろ俺!

瀬高がもらって素直に嬉しいもので、かつ法には触れないものは───。




「──あっ、こんな事を聞くのは失礼かもですけど、このお店にクーポン券とかって⋯⋯あったりします?」

「ないこともないが⋯⋯お前、持ってるのか?」


よし、ここだ。手繰れ!


「いや、自分は持ってないんですけど。もし自分に融通していただけるのであれば、その分の差額を『お渡し』出来るかな⋯⋯と」

「⋯⋯あぁ、なるほどね」



店員の男はニヤリと笑みを浮かべる。


「いいぜ。たまたまここに御得意様向けの20%OFF割引券がある。5000円で譲ってやるよ」


どうやら、こちらが意図している内容が伝わったようだ。

店員は『美味い話だ』と言わんばかりの顔を浮かべていた。



────言ってしまえば、割引券なんてタダの紙切れだ。

例えばチラシとかで配布して、持ってくれば会計時にその分を差し引く。謂わば店側の裁量で決まる。


ならばその割引券を『店員が高値で売れば』どうなるか。答えは簡単。店にはお金が入らず、店員のポケットマネーになる。


「あ、ありがとうございます!」


彼の気分が変わらないうちに、さっと5000円を差し出す。「もっと釣り上げておけば良かったな」とか小声でほざいていたが、敢えて聞かなかったことにしよう。




「⋯⋯で、結局お前はカラオケルームを使うのか?」

「あっ、はい。フリータイムでお願いします!」


そのまま店員の男はホクホクな様子で会計を行い、部屋番号を案内してくれた。どうやらかなり印象は良いはず。これならば!


さっと物陰に入り、彼から気付かれない位置でアストラルカードを通してみると────。


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名称:高原 セイタ



19歳。実家のカラオケ店『歌天原』の店員として働いている。

最終学歴は八雲高等学校。サッカー部に所属していた。


以前は弱小サッカー部であったが、瀬高が一年生として入ってから、地区大会で優勝出来た。このことがキッカケで当時1年生である瀬高を部長へと推薦した。


今でも瀬高とは交流をもっており、実家のカラオケ店で『VIP部屋』を提供している。


『VIP部屋』のうち、番号501の部屋は火災報知器の感度が経年劣化していることから、いつもその場所へ通すようにしている。


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