Day6-1 学校、行けなくなりました

翌日 水曜日の朝。


いつも通りの時間帯に目を覚ますが、身体を起こしてから思い出す。


「⋯⋯そうか。今日から学校に行かないんだっけ」


昨日は、不本意ながらも学校内でお尋ね者になってしまった。

そのせいでユウカを巻き込んでしまったり、母さんが学校に来たりと、色々なことが起きた訳だが。


⋯⋯その中でも一番強烈な出来事を思い出す。


『どうか私を魅了しつづけてくれ』


そう言い残して去っていった小南先輩の後ろ姿が、今でも瞼の裏に焼きついて離れなかった。



もしあの言葉が、能力のせいでないとするならば⋯⋯。


「⋯⋯落ち着け、落ち着け。仮に能力が関与していないにしても、一種の吊橋効果みたいなものだ。この件が落ち着いたら自然と正気に戻るはず」


そもそも彼女はオカルト研究部の部長で、俺はただの帰宅部員なのだ。これから先、そう道が交わる訳がない。


「⋯⋯⋯⋯ふう、なんか落ち着いてきたぞ。勘違いするなよ俺。少なくとも今はそういうタイミングじゃないんだから」



それでも尚、あの時抱きしめられた時に感じた彼女の胸の鼓動のリズムが、頭の奥底で脈動し続けているように感じられた。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



雑念まみれな頭を醒ますために、寝間着姿でリビングへと顔を出す。


するとそこには制服姿に着替えた妹チセと、母さんの姿があった。



「あっ、不登校の人だ」


生意気な妹サマが開口一番、強烈な一撃を加えてきた。


「うるせーうるせー。不可抗力なんだよ」

「でも事実だけ並べて傍からみると、まるで謹慎処分だよね」


まるでもなにも、事実上の謹慎処分ですが!?

前2日間だけで、どれだけの騒動を起こしたことか。

先週までの自分に、未来の出来事を話しても信じてもらえないに違いない。それくらい日常とは懸け離れた日々であった。


「まあでも、アカ姉のために頑張ってたって聞くし。その点は評価しないでもない」

「あー、はいはい。ありがとうございますぅ」




────昨日、帰宅した段階で家族へと事情を話した。


母さんが聞くのは2回目ではあるが、それでも皆、驚き半分、怒り半分といった様子であった。


チセが怒るのは予想できていたが、想像以上に父さんが怒り心頭だった様子には少し驚いた。


同じ娘を持つ立場として、やはり強い共感を得たのだろうか。普段の温厚そうな雰囲気からは想像付かないほどの形相をしていたことを今でも思い出せる。



(タイミングとしては限りなくベターだったのかな)


土曜日の段階で、最初期に話すことも当初検討していたが、今思えばそこで話したら頭が冷えて、瀬高に喧嘩を売るようなことはしなかったかもしれない。


⋯⋯その場合、小南先輩とも会えなかったのかな。



『君のことが好きだ。これからも私の隣にいて欲しい』


(いやいやいやいやいや。落ち着け落ち着け落ち着け)


あの時に觀たアストラルカードの内容をつい思い出してしまう。

頭では、あれは能力によるものだと分かっているのに⋯⋯分かっているのに⋯⋯!


全力で頭をブンブンと横に振り、なんとかして雑念を振り落とせないか試みるが──三半規管が駄目になる方が先であった。


ふらりふらりとした足取りであったが、なんとか近くにあったリビングチェアへと腰掛けることができた。



「⋯⋯なんかこの粗大ゴミ、朝から動きが騒々しいんだけど」

「昨日の今日だし、興奮してるんじゃないの?」


⋯⋯⋯⋯なんか遠回しに的確に刺してくるの、やめてもらえますか?



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「それで、今日はどうするの?」


チセが登校していった後。

出してもらった朝食へと手を付けながら、母さんが質問してきた。


今こうして登校時間に悩むことなく、優雅な朝ごはんタイムを迎えられているのは、決してのんびり過ごすためのものではない。


一日でも早く謎を解き、アカネを助け、学校へ戻る。

自由度が上がった分、やることが難しくなったと言っても良い。


とはいえ現状では手詰まりなため、動きようがないのもまた事実。どうしたものか⋯⋯。




「『⋯⋯と悩んでいるだろうと思い、行動案をトウマ君の元へお送りしました』って、さっきチヒロちゃんからメールが届いたわよ」


チヒロちゃん⋯⋯あぁ、小南先輩か。


「いつの間に小南先輩と連絡先の交換をしていたのさ」

「アンタがボケーっとしている間によ。あの子、テキパキ動くし要領良いし、すごい子ね」



『あはは。君のお母様の前だからって、少し張り切りすぎてしまったかな?』


昨日の笑顔を思い出す。

⋯⋯顔が途端に熱くなる。

あー、駄目だ駄目だ。ついつい昨日のことを思い出しちゃう!



「⋯⋯うっそ。そんなことあるんだ」

「え、なにが? なんか変なことでも書かれてた?」

「いや何でも⋯⋯これはアカネちゃんも大変ね」


どうしてこのタイミングでアカネが出てくるのだろう?

ある種、一番大変なのは確かにアカネではあるのだが。




それはともかく、まずは送ってもらった行動案を確認すべく、自身のスマホを開いてみる。


⋯⋯なるほど。確かにこれは必要だわ。


「⋯⋯なんて書いてあったの?」

「まず最初に、携帯電話を繋がるようにしておいて欲しいって。格安SIMとかでも電話が使えるようになるから、まずはそこからだって」


現状録音や撮影には困っていないが、屋外でメールを受信できないのは大変不便なのは間違いない。


しかし携帯電話そのものを紛失してしまっていたから、てっきりまるっと買い直さないといけないのかな⋯⋯と思っていたが、格安SIMというものがあることを初めて知った。


少し調べてみると、その携帯のキャリア会社窓口に行けば案内してくれるらしい。即日発行してくれるそうなので、その点に関しても安心して良さそうだ。


「なるほど。指示が的確で助かるなぁ」


あとはもし可能ならの範疇とのことで、以下の内容が書かれていた。


─────────


・八雲神社について調べる

 その起源について辿って、儀式のヒントを得る。

 可能なら神主さんにアポイントメントを取っておいて。もし会えるなら私も立ち会う。


・『八雲文化財センター』を訪れる。

 この土地で起きた災害や人災についての歴史について、学芸員とかがいれば聞いておいてほしい。


・御影アカネ宅の訪問

 見舞いとして行くのもそうだが、君との会話がアカネ君の催眠状態を和らげてくれるかもしれない。

 事件とは関係のない、かといって羨ましがるような内容は避けて話すんだ。天気の話がベター。


・警察への被害届

 そちらの判断に任せる。

 ただ中途半端な告発だと、補導されて指導という形で終わる可能性が高いことだけ留意しておいて欲しい。


・最後に

 とりあえず分かったことは箇条書きでも良いからメモに起こしておいてくれ。夜に通話で打合せをしよう。



─────────



なるほど。ざっと見た感じ、SIMカード以外は順不同でこなしてほしいといった感じだろうか?


とりあえず着手できそうなところから、まずは進めてみよう。



「SIMカード作成には口座情報とかが必要らしいから、出来れば母さんも来てくれると嬉しいんだけど⋯⋯」

「午前中なら空いてるから、その時に行きましょう」


まずは行動あるのみ!

少しずつヒントを集めていこう!

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