第2章 恋の予感は"推し活の香り"


📘あらすじ


五十二歳、初めての出会い系。

「リアルで会う」――その言葉だけで、胸がざわつく。

恋なんてもうしないと思っていたのに、

ハチミツの香りが、心の奥のスイッチをそっと押した。


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第2章 恋の予感は"推し活の香り"


本編


スマホを握る指が震えた。

まさか現実に、会うことになるなんて。

友達の里香に相談すると、


 「そんなの、すぐに信じちゃダメよ。相手の嘘をちゃんと見抜かなきゃ。それまでは会ったりしちゃダメだからね」


「出会い系なんて、所詮は遊びなんだから」


里香は私を心配して、そんなアドバイスをくれるけど…


私だって、まだ…イケるはず…

見た目だって…まだ…そんなに悪くない…はず


 それに…私、今、フリーだし。

 そう、何にも縛られてないし。

 何したって、いいんだし。

 自由だあっ‼︎


鏡の前で何度も服を替え、化粧をやり直した。いつぶりだろう?

──五十二歳の恋は、思った以上に甘くて怖い。


そして、初めて会ったその日。

カフェの窓際で微笑む隼人を見た瞬間、美香の世界は静かに動き出した。


 「この特製ハチミツ入りのブレンド、僕も好きなんだ。」


メールで何度も話題に上っていたことを思い出す。ハニー・ブレンド。

二人が同じコーヒーを愛している──それだけで、なぜか不思議な親近感が生まれた。


 「リアルで会うと、なんだか照れるね」


美香がそう呟くと、隼人は少し照れたように肩をすくめる。


それから、自然と話はコーヒーの豆や淹れ方の話題に移った。

笑い声が、カフェの穏やかな空気に溶け込む。

メールだけでは味わえなかった“距離の近さ”に、美香の胸は高鳴った。

──心の奥で、思わずガッツポーズだわね。


カフェでの初対面から、三か月が過ぎていた。


その間、ずっとメールと電話で隼人との関係は続いていて、二人の距離はぐんと近づいていた。


これは里香に自慢しなきゃね。

諦めなければ、夢は叶うんだって。


一ノ瀬隼人の笑顔は、柔らかくて温かく、彼が話す言葉には、誰かを大切に思う優しさがあった。

──人を支える仕事をする人は、こういう目をしているんだ。

その夜から、美香の胸の奥に、確かな「推し」が灯った。


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🌸第3章 

📘あらすじ


隼人の介護事業所「ほほえみサポート」で、休日に事務を手伝うようになった美香。

彼のそばにいられるだけで幸せだった――

そんな日々に現れたのが、新入社員・桐生玲奈。

大手出身で知的、完璧な微笑みを持つ彼女は、職場の空気を変えていく。


隼人の優しさを褒めるその声に、美香の胸はざらつき、

やがて会社の帳簿が合わなくなり、融資が止まり、金庫の鍵が変わる。

「玲奈さんがスポンサーを探してくれてる」

その一言で、美香は気づいてしまう。

――彼は、危険な“悪役令嬢”の舞台に立たされているのかもしれない。



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