第2話 メイド長

「お前、彩羽様の付き人だろう。そこで何をしていた?」


 現れた人影は神楽家のメイド長、早瀬はやせ 三花みか【20】であった。


「少し通りかかっただけですよ。三花さんこそ、どうしたんです?」


「私は…これだよ。」


 そうして、三花は黒い猫を抱き抱えて見せた。それは神楽家で飼われている猫、及び使い魔のクロであった。


「…脱走ですか…。」


「ああ、その通りだ。なんとか見つけることはできたが…ついでに厄介者も見つけてしまうとはな。」


「厄介って…。」


「厄介なことこの上ないだろう。お前、結界に細工をしていたな?」


「僕の実力でできるわけないですよ。」


「大抵、そうやって否定するものだ。なあ想太。正直に言え。何をしていた?」


「だから、なにもしてないですって。」


「チッ…彩羽様も何故こんな奴を側に…。」


 それだけ呟くと、三花は魔力の放出を開始する。


「三花さん?」


「だから私は端から透華とうか様派なのだ。いつも彩羽様は面倒事ばかり…!」


 ギリっと奥歯を噛み締める三花。透華とは彩羽姉である。現在はイギリスへと留学中だ。


「何が大魔女だ!ただの学生が!!」


 三花は己の術を行使する。展開されるのは無数の火の玉。


「焼け!朱雀!!」


 その掛け声で想太に火球が襲いかかる。が、それをギリギリで躱す想太。


「ちょ!三花さん!落ち着いてくださいよ!」


「落ち着いていられるか!小僧が!!」


 想太を囲うように展開された炎。それが槍となり一斉に襲いかかる。刹那、爆発が辺りを包んだ。


「…邪魔なんだよ。小僧。」


 それだけ呟く三花。


「…ひどいですよ。三花さん。」


 それに返すように、言葉を紡ぐ想太。


「は…?」


 想太を覆っていたのは水の幕。その術を解くと水は蒸発する。


「ともかく、僕はたまたまそこに居ただけです。気になるなら調べてみたらいいじゃないですか。」


「ま、待て…何故防ぐことができた…?」


「…さあ?僕にもよくわかりません。そんなことより、謝ってもらえますか?冤罪ですからね?」


「余計に…信じられるか!!」


 炎の槍を手に単身、想太に突っ込む三花。切っ先が想太を捉え、体を貫こうとしたとき、その声は聞こえた。


「やめなさい!!」


 その声に、三花は止まる。


「い、彩羽様…!?」


「全く、想太の帰りが遅いと思ってみれば…何をしているの?」


「彩羽様!そいつが結界に細工を!!」


 そう言って、三花は想太を指差す。


「そう、それなら私が見てみればいいわね。」


 依然として、彩羽はそう言った。結界のもとへ寄り、魔力の通りを確かめる。


「きちんと機能しているわ。あなたの勘違いよ。三花。」


「そ、そんな…。」


「何度も言うけどね、想太の才能は確かなものよ。私はそう信じている。私にはそれが見えている。今の一撃、当たれば死んでいたのはあなたの方だと思いなさい?」


「は…はい…。」


「それと想太。いい加減、本気を出してもいいのよ?今回、あなたは命の危機だった。私が許可するわ。」


「だから、僕に関しては彩羽様の買い被りですよ。」


 いつも通り、想太はそう返す。


 ─────恨めしそうな目線に混じる、確かな悪意を想太は見逃さなかった。そうして、ちらりと三花の方に視線を向けたのだった。

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