第37話 東京・渋谷:メディア末端への血の警告
全国で熊の暴走が報告され、社会が未曾有のパニックに陥り始めている、その緊迫した空気の中。
情報の発信源である東京の渋谷・NHK放送センターから離れた、静かな住宅街の路地裏で、衝撃的な事件が発生した。
午前3時過ぎ。夜間の業務を終えて帰宅途中の、 NHK集金業務を委託されていた男性が、襲われた。
「NHK集金係、喉を刺され殺害される!」
被害者は、その夜、周辺の非正規労働者が多く住むアパート群を巡回していた。彼の喉元は、鋭利な刃物で一突きにされており、即死だった。犯行現場はすぐに警察によって封鎖されたが、犯行はプロの仕事であることを示唆していた。
そして、警察の初期捜査で、男性の手に、強く握りしめられたメモが発見された。
メモには、血で汚れた文字で、たった二つの単語が走り書きされていた。
「ハラグロ」
「アザミ」
この事件は、単なる強盗殺人としては処理されなかった。殺害された集金係は、涼子の兄・拷希がかつて加入していた合同労働組合の幹部と個人的に接触し、組織の不正に関する「小さな情報」を地道に収集しようとしていたことが判明したのだ。
腹黒賢の組織は、熊の暴走という「非合理的なカオス」を流布させる一方で、末端の情報収集係すらも許さず、「悪のコード」を握る者への容赦ない威嚇と口封じを実行したのだ。
この事件は、腹黒賢が、米沢涼子の兄・拷希の死から始まった一連の**「エラー処理」を、日本の「情報と社会秩序」**全体にまで拡大させたことを示していた。
東京・スラム街(同時刻)
岩成のバラバラ死体に直面していた槍宮寛貴は、無線機から流れてきた集金係殺害のニュースと、メモの**「ハラグロ」「アザミ」**のコードを聞き、愕然とした。
「集金係まで…! 奴らは、末端の**『情報源』、その全てを潰しにかかったのか。そして、このコードは、涼子の『復讐』を煽るためのメッセージ**だ!」
槍宮は、涼子がこの事件を知れば、彼女の**「合理的な復讐心」**が、さらに過激な行動へと駆り立てられることを確信した。彼は、自身が腹黒賢の組織を内側から崩す「非正規の刺客」として、動くべき最終段階に入ったことを悟る。
彼は、残されたわずかな情報を集め、結婚式場へ向かった涼子とは別ルートで、腹黒賢の居場所、東京の戦略監査室のあるビルへと向かう。
京都・結婚式場「アメジスト・ガーデン」(同時刻)
涼子は、メインホールの扉を蹴破り、混乱する参列者の中へ飛び込んだ。
その瞬間、彼女のスマホに、集金係殺害の速報ニュースと、メモに書かれた**『アザミ』**の文字が表示された。
「アザミ…復讐…!末端の情報すらも…!」
そのニュースは、彼女の復讐の正当性を、悪魔的に強化した。これは、個人的な報復ではない。これは、**「秩序を乱す悪のシステム」が、最終的な「社会の破壊」**へと向かっていることの証明だ。
涼子は、ボーガン刀を構え、目の前にいる末たか子と、その娘の結婚を祝うために集まった派遣会社の幹部たち、そして、その陰に隠れる怨藤憲一へと、その冷たい視線を向けた。
「貴様たちが**『エラーファイル』として消そうとしたのは、私の兄だけではない。貴様たちは、この国の『情報と正義の機能』、その全てを『削除(デリート)』**しようとしている!」
彼女の復讐は、今、**「一族の報復」と「社会の再起動」**という、二つの重い使命を背負い、血まみれのクライマックスを迎えようとしていた。
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