カインとアベル
エバは震える手をアベル王子に伸ばします。
「カイン……ごめんね、貴方を残していくのはつらいわ、」
弱々しく謝るエバのことを王子はカインの母親だと直感しました。少しだけ迷いましたがその手を握ります。
「ああ、最後に一目会いたかった、私のかわいいもうひとりの息子に……あなたと引き裂かれた双子の弟──アベル」
エバの口から出た自分の名前に王子はゾッとし、思わず手を放してしまいます。
エバは驚いた様でしたが、直ぐに穏やかに言いました。
「ああ、そう。会えてよかったわ、ア──」
エバはそれきり瞼を閉じて動かなくなってしまいました。
エバを見下ろしながら王子は何故カインと自分の容姿が似ているのか、何故お母様が自分に冷たいのか……その理由が分かってきた気がしました。
「カイン、あんたも災難だね。母親が死んでこれからひとりぼっちさ。王宮に引き取られたのがアベルでなくお前だったら、贅沢を出来ただろうにね。でもまぁ、この国も終わりさ。なんたってもう城は落ちている頃合いだろう。アベルももう……、」
後ろでため息混じりに言う中年の女性にアベル王子は問いかけます。
「おば様、事情をぼくに教えて下さい」
女性は目を大きく開いて絶句します。目の前の少年がカインでなくアベル王子だと気がついたのでした。
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