第3話 カフェで一ノ瀬はふざけまくる

 一ノ瀬がこれまでの惚気話をそのまま延々と語り続け――とはならなかった。


 さすがに嫌だとほのめかしたので、止めてくれた。


「仕方ないか。雄志郎くんに嫌われちゃったら、元も子もないものね」

「なら最初から言わなければ……」

「だって、万に一つでも話を聞いてくれるかもしれないし」

「億にひとつだよ」


 いや、あれか。


 並行世界パラレルワールドの俺なら、「万に一つ」かもしれないのか、


 懐疑主義者というものは、断言ができないのかもしれない。


「やっぱりそうだよねぇ。でも、じっくり話したいなぁ」

「前のめりになりすぎだよ」

「げっ、そうかな」


 無意識なのかよ……。


 いや、あえて「気づかないフリ」をしている可能性もあるが。


「俺と君とでは、思いの重さが違うんだ。他人が自分と同じとは限らない」

「というと?」

「要するに、一ノ瀬は俺に深い思い入れがあるかもしれないが、俺からしたら君はただのクラスメイトなんだよ」

「将来の妻なのに?」

「将来の妻でも、だ」


 それもそうだよね、と一ノ瀬は呟いた。


「私としては一刻も早く関係を深めたい。でも、私をただのクラスメイトと認識している雄志郎くんからすると、もっとゆっくりで……って思うのかな」


 うん、と大きく頷いた。


「あーもう。私の悪い癖が出ちゃったな。自分、自分って。あのときも私があんなこと言ったから、雄志郎くんは……」


 その先に続く言葉はなかった。


 文脈からして「一ノ瀬がタイムリープした理由」と接続できそうな発言である。


「どうかしたか?」

「うんうん、なんでもないの。雄志郎くんはなにも聞いてなかった。わかる?」

「オーケー」

「よろしい」


 触れられたくないトラウマ、もしくは嘘をつきやすくするためにぼんやりした言葉で済ませたか……。


 どちらなのだろう。


 いずれにしても、問い詰める真似はしない。



「じゃあ、予定変更かな。ちょっと最近の雄志郎くんの話を聞いて、抹茶ラテ飲む。そのくらいでまずは留めておこっか」


 まだ注文したものも届いていないが、さしあたりの方針は決まりそうかな。


「それが終わったら解散、だろうか」


 終わらないよ、と一ノ瀬は当然とでもいうようにこたえる。


「あともう一箇所、行きたいところがあるの」

「行きたいところ?」

「占いにいきたいの。ふたりの相性、確認しておきたくて」

「面白そうだな」

「でしょ?」


 占い。


 俺からしたら、どこが信用できるのだ、という代物しろものである。


 人の悩みを聞きながら、誰にでも当てはまりそうなことを言われるだけのイベントではないか。


 中にはいい占い師もいることは認めるが、その凄さは予知能力ではないと思う。


 むしろ、占いの本質は「カウンセリング」であり。


 占いの巧拙を決めるのは、カウンセリングの技術が高いかどうか、ではないか。


 あくまで素人考えではあるが。


「やっぱり、私たちは将来結ばれるわけでしょう? だったら、きっと相性抜群に違いないでしょ」

「わかっているなら、行かなくても……」


 チッチッチッ、と舌を鳴らして指を振る一ノ瀬。


「そうじゃないの。しっかりとしたお墨付きが欲しいの、私は。未来なんて、どうなるかわからないんだし」

「答えがわかってても、確かめたいものなんだな」

「考えてみなよ。雄志郎くんだって、答えすら疑うっていうのに」


 俺の未来の妻であるなら、懐疑主義も見抜けて当然、といったところか。



「そう考えると楽しみだ。結果はどうなるかわからない」

「まさか、相性最悪になりますように、とか望んでない?」

「悲観的に考えすぎだ。相性抜群だと出るだろうよ」

「へぇ、そう望んでるんだ」

「飛躍しすぎだ。いい結果が出たら、一ノ瀬としてはうれしいだろう? せっかくのデートなら、楽しめた方がいいじゃないか」


 言うと、なぜか一ノ瀬は顔を伏せてしまった。


「悪い。変なこと言ったか」

「違う。違うの」


 顔を上げると、口角をにんまりとあげ、にやつく一ノ瀬がいた。


「雄志郎くんからその言葉を聞けて、うれしいの。もう身体が熱くなるくらい……」

「大袈裟だな。思ったことを口にしただけだ」

「うれしすぎて、もうぐっしょりだよ。見る?」

「見るかよ……って、そもそもなにをだよ」

「あれれ? 雄志郎くんはナニを妄想してたのかな」

「こいつ……」


 一ノ瀬のペースにのせられている。


 いつの間にか話の主導権を握られているのだ。隙を見せるとすぐに、である。


 あざとさだけでなく、相当な賢さも持ち合わせている。


 俺と一ノ瀬が所属している学園は、世間で「エリート高校」的な扱いをされているくらいなのである。


 その生徒たる一ノ瀬は、少なくとも学力的には賢くて当然ではあるのだけれど。


「お待たせしました、抹茶ラテです」


 拳を机の下で握っていると、注文の品がようやく届いた。


 いつものやつ、である。


「ひとまずこれ以上はからかわないであげる」

「このくらいで勘弁しといてくれ。俺以上に俺を知っている人には勝てないよ」

「なにせ、未来の妻ですから」


 決め台詞のようにおどけて口にしていた。


「少年、私を甘く見てると痛い目に遭うんだからね」

「なんで、よくある【近所のお姉さん】風の喋り方なんだ……」

「だって少年、私の見た目はピチピチJKでもね、中身はアラサーだからだよ」

「タイムリープするとそういうことになるのか……」


 自認年齢アラサーのJKという可能性も、なきにしもあらずだが。だとしたらだいぶキャラが濃すぎる。


 ただでさえタイムリーパーだとしても濃すぎるのに。


「そう考えると、実質社会人が高校生と交際してるってことだよね。なんか背徳的かもぉ」


 一ノ瀬は「いやらしいこと考えてますよ」という顔になっていた。


「えぇ……」

「ドン引きしないでくれよ、少年」

「まず少年っていうのやめないと、占い行きませんから」

「わかったわかった! 少年呼びはやめるからさ、雄志郎くん!?」

「許します」

「許された!」


 アラサーにしては高校生の俺と同じかそれ以上に子供っぽさが残っている。


 タイムリーパーというのは、本当に本当なのか?


 いやいや。まだ断言はできない。


 「一ノ瀬タイムリーパーじゃない説」を主張するのなら、もっと証拠を集めないとダメだ。


 証拠もなしに嘘つき呼ばわりをするのはよろしくない。


 疑うことと、いまの状況を楽しむことは両立できる。


 占いを楽しみにしつつ、俺は最近のことについて、一ノ瀬に話しはじめた。

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