第2話 ヒロインは私だったみたいです。

「知ってるか。第三王子の話。眠り続けているんだろう」


 入団して一週間が過ぎて、私は眠り姫ではなく、眠り王子の話を聞いた。

 魔法騎士団でもどうにか眠りから覚ませようとしたけど、無理だったみたい。そして一つ可能性に思い立ったらしい。

 

『真実の愛のキス』


 これを聞いたとき、私は飲んでいるお茶を噴き出しそうになった。

 同僚には冷たい目で見られてしまった。

 妖精さんだけが友達だった私だけど、入団してから友達ができた。

 嬉しい。

 身分問わずの魔法騎士団は実力がすべてなので、色々な身分の者がいる。私が友達になったのは平民の子たち。

 私も貴族なんだけど、ずっと家で監禁状態だったので、貴族社会では私の存在は知られていない。亡くなったと思っている人が多いらしい。

 まあ、それはいいんだけど、おかげで貴族社会では私は異端らしい。

 だから爵位を持っている子女は私から距離を置いている。

 実力主義なんだけど、やっぱり貴族と平民の間には壁があるから。


 話は戻って、この真実の愛のキス。

 私からしたら可哀そうと同情するようなイベントが行われることになった。

 第三王子の真実の愛の相手を探すそうだ。

 王子の相手を勝手に探して、キスさせる。

 おぞましい。

 私が王子だったら、泣くようなイベントだ。

 

 第三王子に面識があるすべての女性が集められ、厳選され、数人がキスをすることになったそうだ。

 可哀そう。

 私は同情しながらも他人事のように、魔法騎士団の仕事をこなしていた。

 とはいえ、一年目は魔法訓練だ。

 二年目から正式な団員になる。

 

『フィオーレ』


 半年ぶりに声を聞いた。

 というか、頭に声が響いた。


「妖精さん!」


 周りには誰もいなくて、私は遠慮なく、妖精さんを探す。

 光の玉が現れた。

 私の魔法力がかなり上がっていて、はっきりその姿見えた。

 どこかで見たことがある気がする。

 うーん。


「第三王子?!」

『やっと気が付いたか』


 ええ??

 妖精さんは第三王子だったの?

 眠りの王子? 

 明日から地獄のイベントが待っている?


「こんなところで何をしているのですか?早く体に戻って、目を覚まさないと大変ことになりますよ」

『知ってる』

「だったら、」

『体に戻っても、目を覚ますことができないのだ』

「え?」

『三年ほど前から、突然意識を失うことがあった。その間、君が知っているように私は光に姿を変える。私のことをはっきり見て、声を聞きことができるのは君だけだ。他の者は光の玉としか認識しない』

「そうなんですね」

『なんだかつれない反応だな』

「いえ」

『光の玉になっている間、私は神の声を聞いた。君が私を救うと』

「私が?」

『私のこの状況を変えてくれるのは、君の真実の愛のキスだ』

「は?」


 真実の愛のキス?

 え?

 私?

 確かに妖精さんには好意はもっている。

 だけど、それが真実の愛だなんて、いやいやいや。


「妖精さん、それは無理です」

『なんだって?私は君がそうだと思ってずっと王子妃の教育をしてきたんだぞ』

「へ?あれって王子妃の教育だったんですね」


 そうだったんだあ。

 でもかなり色々役に立つこと教えてもらったなあ。


「第三王子殿下。いろいろありがとうございました。だけど、私は真実の愛の相手ではありません」

『私は諦めない。三年、ずっと待っていたのだ』

「第三王子殿下。明日以降色々な令嬢があなたにキスをします。きっとそのうちの誰か。皆さん、知り合いではあるんですよね?」

『おぞましいことを思い出させるな。とりあえず、どうにか回避したい。それは協力してくれるか?』

「え?私が、ですか?」

『三年間、色々教えたつもりだ。そのお礼をしてくれないか?』


 ただほど安いものはないよね。

 でも妖精さんには確かにお世話になったし。

 あの屋敷でちゃんと話してくれたのは妖精さんだけだったし。

 うん。

 一肌くらい脱いでもいいかな。


『では、私の体を盗み出してくれ』

「お断りします」


 そんな王家に弓を引くようなことできない。

 反逆罪で捕まってしまう。


『頼む。そうじゃないと明日から地獄が始まってしまう』

「お断りします」

『それなら、一度私にキスをしてくれ。それで諦めるから』

「き、キスですか?私、この体になってから誰にもキスしたことないんですよ。どうして、そんな貴重なキスを」

『頼む。お願いだ』


 どこで覚えたのか、妖精サイズの第三王子は土下座をし始めた。


 キスくらい、減らないし。

 大丈夫だよね。

 三年間、助けてもらったし。

 体を盗み出すよりもずっと楽。


「わかりました。軽くですからね」

 

 口が触れるくらいなら、大丈夫だろう。

 

 そういうわけで、私は護衛が交代で一瞬いなくなる瞬間を狙って王子の部屋に侵入した。もちろん、手引きは妖精さんこと第三王子だ。


 月夜で少し明るい部屋の真ん中にベッドと置かれていた。

 そこに一人の青年が横になっている。

 胸が上下しているから生きている。

 ずっと寝ていて、食事とかとっていないのに、第三王子は健康そうだった。

 やっぱり何か特別に魔法が掛かっているみたいだ。


 私はゆっくりベッドに近づく。

 

『いつでもいいぞ』


 妖精さんは私の傍にいる。

 不思議な感じだ。

 隣の小さな妖精さんの顔と第三王子の顔は一緒。

 だから妖精さんは第三王子に違いない。

 妖精さんの姿は魂みたいなものなのかな?

 

 第三王子の唇を見る。

 うう、緊張する。

 一瞬、触れるだけ、触れるだけ。


 私は間違ったところを触れるのが怖くて、目を開けたまま、キスをしようと試みた。

 唇が触れる。

 やった。

 離れようとしたところ、手が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。


「第三王子?!」

「やっと自分の手で触れることができた」


 いつも聞いている声とはちょっと違った。

 頭の中ではなく、耳から入ってくる声。

 

「すまない。嘘ついた」


 嘘って、嘘って。

 どこが嘘、何か嘘?


「君が好きだ。ずっと見守っていた。どうか私の妃になってほしい」


 第三王子は私を抱きしめたまま、プロポーズする。

 いやいや、どんなプロポーズ?!


「何者だ?!」

「殿下?!」


 物音を聞きつけて、護衛の騎士が二人飛び込んできた。

 そこで彼たちが見たのは眠りの王子だった第三王子と私の……濡れ場?

 

「し、失礼しました」


 護衛は優秀なのか出て行ってしまった。

 しかし、その後いろいろな人を引き連れて戻ってくる。


「セスト!」


 第三王子はセストっていう名前なのか。

 というか、手を放してほしい。

 陛下とか王妃様とは物凄いびっくりしているから。

 私もびっくりだよ。


 妖精さんは第三王子セスト殿下だった。

 眠りの病気は本当らしくて……、あのキスで目覚めたらしい。

 その割に体は直ぐ動いたのでびっくりしたけど。

 

 真実の愛なんて、嘘だって、私は思っている。

 誰がキスをしても一緒だったのでは?


 納得いかない私はまだプロポーズの返事をしていない。

 王子を待っていた私はもういないのだ。

 妖精さんも知ってるはずなのに。


「無理強いはしない。君が魔法騎士団で働きたい気持ちは知っているから」


 妖精さんは私のことは何でも知っている。

 逆は、私は妖精さんのことを何にも知らない。

 ただ、私が知っていることは、彼がこの国の王の三番目の息子とであるということくらいだ。


 公にしないでほしいという私の願いは守れ、第三王子は偶然目覚めたことになっている。

 そして、私と会うのも秘密の場所だ。


「デートいうのを繰り返して、恋人同士になるわけだな」

「はい」


 前世の話を妖精さんだった殿下にはたくさんしている。

 そういう意味でとても楽な相手だ。


「もしかして、私は何もせず迎えに行けばよかったのか。君はあの時、ただ王子を待っていただろう」

「そうですね。私はただ待っていました。何もせず。妖精さんが来てくれて、私の目を覚まさせてくださって、感謝してます」

「私は余計なことをしたかもしれないな」

「そんなこと絶対ないですから」

「その口調も寂しいものだ。妖精に戻りたい」


 殿下は寂し気にそう語る。

 眠りから覚めて、もう妖精になることはできなくなったみたいだ。

 殿下は妖精って呼ぶけど、私はあれは妖精ではなくて、変質した魂ではないかと思っている。


 ヨーロッパ風の世界に転生した私は結果的にヒロインだったみたい。なお継母と妹に対してはざまあなどはしていない。


(終わり)

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ヨーロッパ風の世界に転生した私は結果的にヒロインだったみたい。なお継母と妹に対してはざまあなどはしていない。 ありま氷炎 @arimahien

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ