死の商人
瀬戸内グループ本社の地下に行き、巨大な格納庫らしき場所に到着する。格納庫に入ると、そこには巨大なロボットが入っていた。
「あれも、あなたが?」
「いや、こんなの知らないわ」
そのロボットは、香里奈でさへ知らない機体のようだ。以上に発達した両腕。まるで殴ることに特化したようなそれは、今も動く瞬間を待っていた。
「これはこれは。社長ではございませんか?」
黒スーツの男が、格納庫の奥から現れる。
「あなたは、佐々木? これはどういうつもり?」
「はて? 何の事でしょうか? これはあなたが認可したものですが?」
「聞いてないわ。それに、これを製造するサインすら書いた記憶もない」
黒スーツの男、佐々木は余裕げに香里奈に正当性を問う。しかし、香里奈はこのことを何も聞いてないようだ。
「どういうものか、説明して」
「いいでしょう。これは我々瀬戸内グループの未来を賭けた一代プロジェクトでございます。こいつを製造し、国連各国に売り飛ばせば、我が社としても膨大な利益となるでしょう! 核保有国のうち、7カ国が核ミサイルに変わる新たな兵器を製造したように、我々はそれを模倣した兵器を売り飛ばせば、核保有国と対等に渡り、我が社としても莫大な利益を生むでしょう!」
「なんですって?」
香里奈は佐々木の計画を聞き、驚愕する。そして、怒りが徐々に滲み出してくると、香里奈の口調も変わってくる。
「そこまで金が欲しいのか? テメェは?」
「えぇもちろん。瀬戸内グループの今のやり方では、世界への影響を与えるのは難しいでしょう。なら、軍需産業に介入し、武力による混乱をビジネスに変える。それによってできた利益で、我が社も飛躍的に成長できるのです! どうでしょう? 素晴らしい計画ではないでしょうか?」
「戦争をビジネスに? まるで死の商人ね」
私の問いに、佐々木は振り向く。
「当然です。あなたが誰とは存じませんが、かつての朝鮮戦争で、敗戦直後の日本が経済成長の足枷にしたように、我々はこれを紛争地帯に送り、それで得た利益で莫大な富を築き上げる! まさに戦争というのは最高のビジネスチャンスなのですよ!」
「人の命を金儲けの材料にするなんて、いくらなんでも滅茶苦茶だよ!」
「滅茶苦茶ではありません。戦争とはそういうものなのです。我々はその第一歩を行き、新たなビジネスモデルを作るのです!」
自身のビジネスを高らかに語り、佐々木は新たなビジネスモデルを語る。
「人の命を金儲けも材料としか見ていないようね。とんだクズよ」
「チッ。あなたにはわからないでしょうね? 経営として、捨てるべきものもあるんですよ」
「そうでしょうね。だけど、あなたがどう言おうが、戦争で金儲けしようだなんて、余りにも非現実的よ。そんなのは所詮、馬鹿げた机上の空論でしかないわ!」
私の言葉に、佐々木は下唇を噛む。確かに経営的には一理ある。だが、それが人の血で出来ているのなら、話は別だ。その行為自体がまさに死の商人であり、戦争で利益を稼ぐ為だけのものだ。
人の命を金稼ぎの為に利用するなんて、あってはならないことだ。
「いいでしょう! ならばこの、『量産型機兵』の前に、社長諸共死ぬがいい!」
佐々木がスマホでロボットを起動させる。目の当たりを光らせ、そのロボットは動き出す。機械の唸り声のような音を発し、辺りに強い振動を発生させる。
「これが、『量産型機兵』……。なんて迫力なの」
「まずい! 佐々木が逃げるよ!」
立ちはだかる『量産型機兵』は、私達を容赦なく拳で殴り潰す。咄嗟に避けた私と美生は、スマホを構える。すると、香里奈が車椅子を動かし、『量産型機兵』の前に止まる。
「どいつもこいつも、私のことを舐めやがって……! いいぜ。テメェがその気なら、テメェが作ったこれを、テメェの夢ごと消してやるぜ!」
「香里奈? 待ちなさい。そいつは危険よ!」
私は香里奈を静止するため、彼女の元に向かう。すると、香里奈はスマホを構えると、私達と同様の行動を行う。
「行くぞ! アマテラス!」
『あぁ、この時を待ってたぜ!』
香里奈の『アバター』、アマテラスが彼女の声に呼応するように、スマホのカメラから認証を行う。
「アマテラス、『ライド・トゥ・ブレイバー』!」
香里奈の体が、無数の数式に包み込まれる。彼女の姿は変わり、身に覚えのある和装へと変わる。ショートヘアーだった髪も伸び毛先が赤く染まる。その後ろの髪も白く変色する。変身が終わると、香里奈はその場に立ち上がる。
「佐々木の野郎、随分と人をコケにしやがって。まずはテメェの傑作を壊してやるぜ!」
「これが、香里奈が『リンク』した姿。日本神話の女神、アマテラスとはね」
「そうも言ってられないよ! 私達も変身しよ!」
美生の言葉に、私もスマホを構える。お互いの『アバター』を『ライド』させ、私達も香里奈同様に『リンク』した姿になる。
「さて、即急に片をつけましょうか」
「へぇ〜。中々いい獲物じゃない。ねぇ美羽? 私一人で倒してもいいわよね?」
「いや、今回は3人で倒した方が良さそうね」
私と美生は、香里奈がいる場所に駆け寄る。駆け寄った私達を見て、香里奈は驚く。
「お前ら!?」
「香里奈。今回ばかりはみんなでやるべきよ。あの巨体では、一人でやるよりも効率的よ」
「癪だけど、美羽がそういうならそうね。今回ばかりは手伝ってあげる!」
溜め息を吐きながら、香里奈も『ウェポン』を構える。
「しゃあねぇな。だが、足引っ張るなよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ!」
「香里奈の会社を死の商人にはさせない。二人とも、行くわよ!」
私達は、『量産型機兵』と対峙する。こうして、社運を賭けた『量産型機兵』との戦いは、幕を開けたのだった。
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