闇カジノへ

 翌日。日光の日差しが窓越しに注がれ、目が覚める。あくびをしながら体を伸ばし、ベッドから起き上がる。いつものように、制服に着替えた彩葉が朝食を作っていた。

 オムレツを作りながら、野菜も添える。そして、トースターから、トーストを取り出す。

 タブレットを見ながら、食事をしていると、昨日の事件が見出しで表示されている。それほどに一大事だったみたいだ。


「お姉ちゃん?」

「いや、なんでもないわ」


 タブレットを置き、コーヒーを飲む。朝食を済ませると、制服に着替えて学校へ向かう。通学路を進み、彩葉と別れ学校に向かう。

 学校へ向かっていると、校門の前で見慣れた顔が待っていた。


「おはよう。意外とゆっくりなんだね」

「おはよう。いつも彩葉と一緒に出ているのよ」

「相変わらず仲良しだね。悠なんて、私に配慮しているから、あんまり行くなんてことないから」


 意味深なことを言う美生。昔は仲が良かったのに、住んでいながら疎遠になっているのもどうかと思うが。

 教室に着くと、美生の久々の登校に、クラスメイト達は美生に群がる。少し遠慮しがちな美生を見ながら、校舎を窓越しに眺める。あんなことがあったにも関わらず、日常というものは平然と過ごしていくのだと感じる。


 午前の授業が終わり、私と美生は屋上へと向かう。彩葉が作ったサンドウィッチを食べながら、スマホを眺める美生を見る。


「何を見てるの?」


 私が美生に尋ねると、美生は昨日の夜に見せたメールをもう一度私に見せる。


「昨日のメールだよ。あれからまたメールが来たの」

「どんな内容?」


 美生は新たなメールを私に見せる。


『この施設の地下に、ヤクザの裏カジノがある。添付したルートからなら、警備は薄いはずよ。ダイブを行なっても、セキュリティが頑丈でできないから直接潜入して』


「随分と上から目線ね」

「あの子らしいね。となると、誰かに目を付けられないように『ライド』するしかなさそう」

「できるの? そんな芸当、アニメでしか知らないわ」

「できるよ。私達『ブレイバー』は、『現実世界リアルワールド』からでも『リンク』できるからね」


 そういうと、試しに美生はクーフーリンと『リンク』する。突然のことに、私は驚く。


「ちょっと! いきなりしないでよ!」

「ものは試しと言いでしょう? 私もかなり間が空いたから、試しにしてみただけよ?」


『ブレイバー』となって美生は、屋上で体を動かす。


「うん! 多少重力の影響は受けるけど、問題ないわね。まぁ、安易にこの姿で動けられないのは致し方ないけど」

「わかったから、気が済んだら戻ってくれる? 誰かに見られたりしたら堪ったもんじゃないわ」


 私が戻るよう美生に言うと、美生は元の人間の姿に戻る。


「ごめん、ちょっとだけ騒いでしまって」

「いいわよ。それに、『リンク』すると性格も変わるみたいね」

「美羽も大概だよ。どうも、私と美羽は『リンク』すると性格が反転するみたい。正確には、『アバター』の影響を受けているって言うのかな?」

「まさに一心同体ね。でも、いまだに信じられないわ」


 私と美生は、『ブレイバー』について考察しながら昼休みを過ごしていく。午後の授業も受け、下校時間となる。私と美生は一緒に帰路に着く。


「とりあえず、夜にまた会いましょう。私も、ヤクザのやってることには流石にキレそうだわ」

「そうだね。あの男みたいな被害者を出させないためにも、早いうちにやらないと」

「そうね。では、また現地で」


 美生はそういうと、自分の家に入っていく。私は彼女を見送ると、自分の家に入る。少し早い夕食の準備をし、彩葉と食事を摂る。


「どうしたの? 今日は早いね?」

「夜から美生と勉強をするのよ。早めに食べた方が集中するじゃない?」

「確かにそうだね。私もテストが近いから、終わったら勉強しないと」


 彩葉は美味しそうに夕食を食べる。彼女に嘘をついていると思うと、少し心が苦しい。

 食事を終え、私は手ぶらで家を出る。人気のないところまで向かうと、スマホを確認する。チャットを見るに、美生はもうすでに着いたそうだ。


「さて、私も早く行かなきゃね」

『こっちはいつでも行けるわ。さぁ、始めましょう』


 私はスマホを取り出すと、指を画面に触れる。そして、『リンク』するためのコードを唱える。


「ブリュンヒルデ、『ライド・トゥ・ブレイバー』!」


 スマホから放たれる光によって、私はブリュンヒルデと『リンク』する。『リンク』を終えると、私は『M・ブリュンヒルデ』となる。


「『仮想世界バーチャル・ワールド』とは違って、多少の重量の影響は受けるわね。でも、充分動けるわ」


 私は擬態のためのフードに身を包むと、全速力で街を駆け抜ける。人間の時とは違い、体が軽く感じる。ダッシュではなく、飛んで移動していると、目的地である闇カジノに到着する。


「あら? 遅かったわね。このまま来なかったら、一人で殴り込みに入るところだったわ」


 同じフードに身を包んでいた美生が、路地裏で待っていた。どうやら先に向かっていたらしい。

 

「えぇ、それは謝るわ。それより、ここが例のカジノかしら?」

「あれからのデータと合わせると、間違えなくここね」

「なら、行きましょう。早いうちに終わらせましょう」


 私と美生は、ヤクザの闇カジノに潜入する。こうして、『ブレイバー』となって私達とヤクザの一悶着が幕を開けるのだった。

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