ナノマシンの束縛

 それからというもの、彩葉と合流した私はそのまま家に帰っていった。ショッピングモールはそのまま閉店となり、近くのスーパーで食材を買ってから家に着く。


「ちぇ。せっかくお姉ちゃんとデートしてたのに。もう台無しだよ」

「今回は仕方ないわね。また行きましょう」


 私は慰めるように彩葉の機嫌を直す。今日は彩葉の好きな食べ物にしようっと、食材を並べる。しばらく料理をしていると、ハンバーグを作り終える。


「お姉ちゃんのハンバーグ大好き! 私、こんなに上手く出来ないよ」

「洋食なら彩葉に負けるわよ。はい、もう出来上がったわ」


 ハンバーグを皿に乗せ、サラダを並べてソースをかける。ご飯も盛り付けると、彩葉に渡す。二人だけの食卓が、出来立ての夕食の匂いが充満する。しばらくして、食べ終えた皿を洗い終える。リビングでゆっくりとしていると、夜分にも関わらずインターホンが鳴る。

 スマホをインターホンに接続すると、知っている顔がモニターに映る。


『夜分にごめんね。ちょっと話したいことがあって』

「美生。珍しいわね。こんな時間に」


 美生が夜遅くに我が家に訪れて来た。どうやら今は実家にいるらしい。そんな最中に、私の家に来たのは、何か話があるのだろう。


「今って、私の家に来れる? こんな時間で申し訳ないけど、そっちの方が話しやすいかなって」


 美生に誘われる形で、家を離れる。そして、少ししたうちに、美生の家に到着した。


「悠はどうしたの?」

「もう寝てるよ。しばらくぶりに会って、気を使いすぎたみたいで疲れたみたい」

「別に気を使うことなんてないのにね。それで、話というのは?」


 私の言葉に、美生はPCのディスプレイを見せる。


「これは?」

「さっきの黒フードの男について調べていたの。多額の借金を抱えていて、その上闇金にも手を出していたそうだよ。その担保として、ヤクザに自身の『アバター』を悪性に変えられた上に、ナノマシンを投与されたみたい。クーフーリンがさっきのことを録画していたみたいで、それを見返して調べたの」


 美生がデータと動画を私に見せる。どうやら、さっきの出来事を録画した動画と、黒フードの男に関わるデータを写していた。

 

「それであの時、私たちがあのロボットを壊してから少しして発作で死んだのか。とても現実的ではないわ」

「そうだと思うけど、ここ10年ナノマシン技術が進歩しているの。政府も、この技術を取り入れていく方針だけど、それよりもヤクザとかの裏社会に通ずるグループが、借金を当てに不当な取引でナノマシンを投与させているの。自分たちから逃げられなくするために。こうすることで、『アバター』が消滅した時に自分も死ぬという口実で、相手を縛ることができる。そういう組織にとって、ナノマシンはいい脅しの材料なんだよ」

「命まで縛るなんて、そんなの奴隷じゃない。時代錯誤もいいものだわ」

「それくらい、金に目が眩んでいるんだよ。こうもしないと、貸した物を返せないしね」


 美生の言葉に、私は少し考える。技術に発展は、多くの人間に影響を与えるとそう思ったからだ。もちろん、いい意味でも、悪い意味でも。


「貸したものは返すのがこの世の摂理ではあるけど、ここまでするとはね。ヤクザも、時代が変わってもやり方は変わらないものね」

「うん。それでね、私たち宛にメールが来ているの。呼んだのは、そのためでもあるんだ」


 美生がPCに送られてきたメールを見る。その内容は、宛名が不明な謎のメールだった。メールにはこう記されている。


『このメールが来ているなら、もう目覚めたっということね。もしそうなら、この場所に行って、ヤクザの闇カジノを潰して欲しい。もちろん、『リンク』した状態で。報酬は追って伝える』


 メールの文面は簡易的だった。でも、私達はそれをどこかで見たことがある。


「これってもしかして?」

『文面を解析すると、件の男と同様に借金を担保にナノマシンを投与された人間が作られているそうね。カジノで借金を作らせて、それを担保に違法的にナノマシンを投与されているって感じかしら?』

「かなり悪質ね。それじゃ、あの男のような人が増えていくばかりじゃない」


 ブリュンヒルデがメールに記された場所と状況を解析、そこで行われていることを調べ上げる。そして、それを聞いて私は、怒りが込み上げてくる。


「美羽。今日のところはもう寝よう? 明日、この時間から動いた方がいい」

「そうね。今日は遅いし、それに疲れたわ。明日また、話し合いましょう」


 遅くまで話し合っていた私達は、話を終える。美生は玄関まで送ると、私は振り返る。


「明日は学校来るわね?」

「うん。明日は政府からの依頼はないから、行くつもり」

「わかった。なら、学校で話し合いましょう。それならいいでしょう?」


 美生は頷きながら、私を見送る。そして私は、家へと帰る。しかし、ヤクザがあのようなことをするとは、思ってもいなかった。

 被害に遭った人たちは、恐怖で眠れないと考えるだけで、怒りが込み上げてくる。


『――――怒りが顔に出てるわよ?』

「わかってる」


 そう思いながら、私は家に着く。こうして、私は風呂に入ってから眠りについたのだった。

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