7年の時を経て

 井崎美生視点――――――――


 あの事故から7年、私は政府に雇われたハッカーとして活動していた。生まれつき脳の回転が誰よりも早く、プリグラミングを数週で覚え、11歳の時には政府のハッカーとなった。

 でもこれは、生まれつきではなく、私が『ブレイバー』として覚醒していたからだ。お父さんの研究で、私たち3人は小さな頃から『ブレイバー』の実験の試験体となっていた。

 見た目は普通の人間と変わりないが、普通の人間よりも脳の回転が早く、自立した『アバター』を持っている。その中で、美羽は最も優れた『ブレイバー』として、大人達の注目も的だった。

 でも、そんな実験も長くは続かなかった。美羽のお父さんが実験で活用していたAIが暴走したのだ。実験で使用していた新型兵器の試作品達が、AIを元に暴走し、研究所を破壊尽くしたのだ。

 お父さん達は、その事故に巻き込まれてしまい、肉体が残らずに研究所と消滅。そのまま死亡扱いされた。それからは、美羽とも妹とも会っておらず、政府の施設で政府直属のハッカーとして、育てられた。

 それから7年。私が初めて開発に携わったロボットが、このショッピングモールでそのお披露目会を執り行われることとなった。天才ハッカー『μ』として、この場に居合わせることとなり、SPで警護されていた。その道中、偶然にも懐かしい顔を見た。


「――――――美羽?」


 ふとすれ違った懐かしい顔は、妹の彩葉ちゃんと一緒にお出かけをしていた。


(私の事、覚えてるわけないよ? 記憶が定かじゃないもんね)


 そう思い、私はお披露目会の場所に向かう。私は裏側で、仮想の肉体バーチャル・ボディを操作して画面で出演することになっている。これは政府が企業に依頼して作成したものだ。私の匿名性を維持するのが目的なのだろう。

 カメラ越しで、初めて作ったロボットを人々に披露する。すると、謎の黒いフードを被った男が、ロボットにスマホを接続する。


『あれ、ちょいとまずいわね。やばいの持ってるわよ?』


 誰かの声が、脳裏に響く。すると、その声の言っているように私が作ったロボットが不具合を起こした。


「そんな!? 不具合はなかったはずじゃ!?」


 私は、プログラムと設計をしただけにすぎない。その他の作成等はメーカーがやったので、その際に発生したデータの不具合には携わっていない。だから不具合のことなんて一切報告を受けていない。

 さっきの黒フードの男は、そこをついてハッキングをしたのか。SPが暴走するロボットから私を守ろうとしている。しかし、灰色の情景に包まれ、SPの動きも遅く見える。

仮想世界バーチャル・ワールド』に入ったみたいだ。逃げ惑う人たちも、護衛の警官たちも遅く見える。ただ唯一、一人だけが色を褪せていた。


「美羽!? どうしてここに!?」


 美羽は一人、暴走するロボットに立ち向かう。そして、美羽の姿を見て、私は驚きを隠せないでいた。


「あれは、『M・ブリュンヒルデ』!? まさか美羽が、戻ってき覚醒したの?」


『ブレイバー』となった美羽を見て、驚きの余りその場に立ち尽くす。しかし、お披露目会で披露されたロボットとは別に、警備ロボットが、美羽に攻撃する。私はその隙に、その場から逃げる。


『その場にいるのは得策じゃないわ。もっと距離を取りましょう?』


 声に導かれるように、その場から立ち去る。しかし、逃げた先はエレベーターの前だった。私は、その場に立ち尽くす。後ろにはロボットが迫り来る。私はその場に蹲る。すると、銃弾がロボットの頭を撃ち抜いた。


「怪我はない?」

「あ、ありがとう?」


 尻餅をつき、美羽の手を借りる。


「美羽? 美羽なの?」


 私は彼女の名前を呼ぶが、彼女は後ろに振り向いたままだった。

 

「わ、私はあなたの知り合いとは違うわ。それに、早く逃げなさい。ここは危険よ」


 私は後退りせず、美羽に向けて話す。


「幻滅してるよね? 学校もろくに行かず、政府の言いなりで、こんなものを作ったんだもの。きっと、罰が当たったんだよ。美羽は何も知らないのに、私はそのことから逃げてる。でも、助けたのは美羽で、また助けられた。私ってバカだよね? 誰かの言いなりになってばっかりだもの」


 私の言葉を、美羽は無言で振り向いたまま動かないでいる。


「別に、そんなことは重要じゃない。大切なのは、誰かの為に何かを成すこと。それは果たす勇気があること。あなたには、それを果たす義務がある。確かに、あれのプログラムがどうあれ、あなたはそれに関わった。こういう事態になったからには、今は逃げて防止策でも考えればいい」


 美羽は、私を置いて2階に上がる。私は大声で美羽を呼び止める。


「ねぇ、教えて! あなたは何のために戦うの!?」


 その言葉に、柵を上がる前に美羽は振り向く。


「まずは逃げなさい! これが終わったら、全て話してあげる!」


 そう言って、彼女はその場を去った。私は、その言葉の通りに逃げる。でも、美羽がロボットの集団に太刀打ちできるか不安でもある。


『逃げてばっかりじゃ、彼女死ぬわよ?』

「ならどうしたいいの!? ここじゃ、ハッキングができない。どうすることも出来ないんだよ?」


 私の叫びに、スマホからバイブ音が聞こえる。


『なら、私と一つになりましょう? 昔みたいに、暴ればいいだけの話よ』

「――――クーフーリン……。あなただったの?」

『7年も待ってたのよ? 上の連中には、知られたくないって理由でね。でも、もう潮時よ? 彼女が帰って来たのなら、今度こそ、彼女のために戦うべきよ。PCそんなものに頼らずとも、武器を取りなさい』


『アバター』のクーフーリンが、私に呼びかける。久しぶりに見た画面を見て、私は決心する。


「もう逃げない。私は誰のためにも動かない。もうあんなことはいいのだから」

『そうね。今度は私達が助ける番よ。準備はいい?』

「うん、行こう!」


 スマホの画面に手を触れる。画面は赤から緑に変色する。


「クーフーリン、『ライド・トゥ・ブレイバー』!」


 掛け声と共に、スマホから放たれる数式が体を包む。服は消え、ポニーテールに束ねてたリボンも消える。レオタードのベースウェアを纏い、装甲とコートとスカートを纏う。最後に髪を黒から白に変色したら、私はクーフーリンとリンクした姿になった。


「ふ、ふはははは! 7年ぶりね。少し鈍ってるけど、こいつらと戦っているうちに戻りそうね」

『相変わらず、その姿になると、リンク前とは別人になるわね』

「そうね。まずは、こいつらを蹴散らしながら、美羽のところに向かうわ!」


『ブレイバー』となった私は、『ゲイボルグ』を持ち、美羽のいる場所に駆けつける。もう引き下がれない。

 そう思い、私は再び『ブレイバー』としての戦いに身を投じるのだった。

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