日常の帰還

 目を覚ます。目を覚ますと、それは家でもない見知らぬ天井だった。右を向くと、点滴が打たれた。

 どうやら、私はあの後倒れたらしい。それで救護隊によって、病院に運ばれたようだ。窓を見ると辺りは暗くなっている。どうやら、あれから数時間程寝ていたようだ。

 スマホを探す。時刻は20時を過ぎていた。テロリストが襲ってきた時間が14時だとすると、6時間程度意識を失っていたらしい。

 あれ? こんなに計算が早くできたのかな? どうも、頭の回転が早い感じがする。一体、何が起きたのかは見当が付かない。


『起きたみたいね。あれだけの動きをしてたのなら、一気に疲弊が来るわね』

「まだいたの? もういなくなっていると思った」

『それは無理な相談ね。私はあなたの『アバター』。本来人間と一心同体よ?』


 ブリュンヒルデが、スマホから声をかける。残念ながら、このことは現実らしい。ブリュンヒルデは私のスマホに住みつき、私の『アバター』として残っているらしい。


『それに、あなたは『ブレイバー』。他の人間とは違い、私たちはリンクすることができる。まぁそれは動かぬ証拠よ』

「あぁ、もうわかった。信じたくないけど、これが現実ね」


 頭を掻きながら、ブリュンヒルデの言葉を信じる。この頭の回転の速さも、それが理由だろう。どうやら、『ブレイバー』になったことは現実らしい。ありふれたはずの日常なのに、この事実だけはどこか非日常を感じる。彩葉との日常を守る。ただそれだけの理由で、とんでもないことに足を踏み入れた気分だ。

 しばらく病院のベッドで休んでいると、誰かが病室に来るのを感じ取る。


「お姉ちゃん!? 大丈夫!?」

「あぁ、彩葉。こんな遅くに来てくれるなんてね」

「何呑気なことを言ってるの!? 学校で倒れたって聞いたから、心配したんだよ?」


 彩葉は心配したためか、私が目覚めるまで待合室で待っていたらしい。どうやら、下校してからずっと待っていたようだ。


「もう看護師さんに伝えたから帰ろう?」

「そうね。帰りましょうか」


 しばらく寝ていた体を起こし、彩葉と共に帰宅する。でも、あれだけ疲れ切ったのに、寝ただけで体力が回復したようだ。


 帰宅するや否いや、風呂に入ってはいつものように映画を見る。DVDを選び、プレイヤーに入れる。


『『渚にて』っね。1953年に公開された90年前の映画ね。『第三次世界大戦』が勃発し、世界全土は核攻撃によって人が住めないくらい放射能汚染で蔓延し、僅かに残った人達は南半球に暮らすだけになった。当時の終末SFの傑作ね。今となっては過去の空想フィクションになったけれども』

「うるさい。静かにして」


 映画を見ながら、時間を過ごす。でも、謎の違和感を感じる。なんだこれ? いつも見ている映画なのに、どうも情報量が多い。それに今の私は、どうもこの映画を見て何故か危機感を感じている。これは過去の空想フィクションなのか。はたまた未来への予言ビジョンなのか。私はどうもそれに謎の不快感を覚える。気持ち悪い。なんともな古い映画のはずが、どうも何かを暗示しているように感じる。


「なんだこれ、変な感じがする……。いつも見てるはずなのに、何を暗示している?」

『脳が活性していて、色々と処理をしているのよ。その関係上、余計なことを考えているようになるわ』


 ブリュンヒルデが言うように、脳が活性化している。『ブレイバー』になった影響だろう。

 映画を止め、私は寝る準備を始める。布団に被り、こうして私は眠るのだった。


 ――――――――――――――――――


 ディスプレイが多く並ぶ一室で、タイピングの音が鳴り響く。ネット掲示板やSNSを表示し、今回のテロリストの襲撃事件を調べている。それもそのはずだ。少女は今回の事件について、不可解なことを調べていた。


「この姿って、まさか」


 掲示板に映った姿を調べている。その画像を拡大表示をすると、知っている顔の姿を確認する。


「これが本当なら、彼女は目覚めたの?」


 少女はその姿を見て、寂しそうな顔を浮かべる。彼女とは疎遠となり、彼これ数年会っていない。それもそうだ。彼女は日本で最も有名なハッカーだから。

 だがしかし、少女はこの仕事に虚無を感じ、言われるがまま仕事をしている。そんな日々に、少々嫌気がさしていた。


 そんな少女に、ある1通のメール届く彼女はため息をしながら、PCの電源を消し、眠りにつく。

 こうして、少女は眠りについたのだった。だが、翌日少女の秘めた力を解放することなるとは、この時少女は知らなかったのであった。

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